Stage1:対戦構図
開催当日。
王立音律学院・大講堂は、断罪の日とは比べものにならない緊張に包まれていた。
観客席には学院生がぎっしりと座り、その後方には重厚な装束の貴族たち。
さらに中央の特別席には、王城紋章を刻んだ黒衣の一団。
王城監察官。
視線は冷たく、手元には測定用の魔導記録盤。
歓声はない。
これは祝祭ではない。
検証だ。
裁定だ。
■ 形式
中央舞台。
円形の対峙式魔法陣が床に刻まれている。
司会役の教師が告げる。
「本日の形式は、一対一の音律模擬戦」
「制限時間は各十分。攻撃系術式は禁止。干渉は振動と魔力波のみ」
「観客は魔力供給を許可。ただし強制は禁止」
最後の一文に、ざわめきが走る。
供給を許可。
つまり――
観客の“心”が勝敗を左右する。
アリアは口元を吊り上げた。
「ますますライブじゃん」
■ 対戦相手
保守派の象徴として選ばれたのは、学院首席。
名を――
クラウス・ヴァルデンベルク。
背筋は真っ直ぐ。
白銀の正装詠唱衣。
胸元には三拍紋章の徽章。
彼は一礼し、静かに名乗る。
「正統音律第七課程、三拍完全体現者」
その声は無駄がない。
「クラウス・ヴァルデンベルク」
完璧な詠唱制御力。
誤差ゼロのテンポ保持。
魔力導線は常に安定。
彼は“理想的な音律魔法使い”だった。
保守派貴族が小さく頷く。
対して――
ドレスの裾を軽く持ち上げ、くるりと舞台に上がるアリア。
「アリア。ジャンルはポップス」
「体現とかないけど?」
観客席がざわつく。
■ 立ち位置
対峙。
舞台の左右。
床の魔法陣が淡く光る。
クラウスは目を閉じ、呼吸を整える。
三拍の呼吸法。
一、二、三。
一、二、三。
心拍と魔力が完全同期していく。
彼の足元から、規則正しい光紋が広がる。
美しい。
整然。
制御の極致。
観客の一部が自然と魔力を送り始める。
供給は滑らかに、彼の導線へ吸い込まれる。
正統の構造。
完成形。
一方。
アリアは天井を見上げる。
増幅水晶。
今日は計測用の補助陣まで追加されている。
「へえ、ちゃんと測る気なんだ」
彼女は軽く屈伸した。
ストレッチ。
舞台慣れした動き。
「緊張しないのか」
クラウスが静かに問う。
「するよ?」
にこりと笑う。
「でも、緊張ってエネルギーだから」
理解不能、という表情。
■ 観客
前列にリュミエールの姿がある。
彼女は今日、出場しない。
温存。
だが視線は鋭い。
(これは試験ではない)
(世界観の衝突だ)
その奥。
監察官が低く囁く。
「振動体アリア。前回未登録周波数を記録」
「本日、再現性確認」
記録盤が淡く光る。
■ 開始前の静寂
司会が杖を掲げる。
「――模擬戦、開始」
音は鳴らない。
だが空気が張り詰める。
クラウスが先に動く。
完璧な姿勢。
胸郭が開く。
詠唱開始。
三拍。
正統。
完成された秩序。
対するアリアは――
まだ歌わない。
ただ観客を見る。
ひとりひとり。
目を合わせる。
そして、にやりと笑う。
その笑みに、数人の生徒の心拍が、わずかに乱れた。
整った三拍の世界に、
四拍が、まだ鳴っていないのに――
“予兆”が走る。
正統と異端。
秩序と共鳴。
学院史上初の公開ライブバトルが、いま本当に始まろうとしていた。




