初の公式ライブバトル ― 国家観測開始Stage0:開催の経緯
断罪延期から一週間。
王立音律学院は、もはや一枚岩ではなかった。
中庭では四拍の手拍子が自然発生し、
講義室では非詠唱共鳴の波形解析が密かに進む。
一方、貴族寮の談話室では低い声が渦巻く。
「秩序が揺らいでいる」
「魔力なき者まで共鳴するなど、前例がない」
「聖女体系への侮辱だ」
アリア派と保守派。
対立は、静かに、しかし確実に可視化され始めていた。
■ 研究という火種
音律研究室では、若い教師たちが興奮気味に議論している。
「非詠唱共鳴は偶発ではない」
「四拍構造が身体同期を誘発している可能性が高い」
「もし理論化できれば――」
そこに、重い声が落ちる。
「その先を考えたことはあるか」
老教授だった。
「理論化された瞬間、それは国家の管理対象になる」
室内が静まる。
研究は、革命の第一歩。
だが革命は、秩序の敵でもある。
■ 貴族からの圧力
学院長室。
分厚い机の上に、封蝋付きの書状が積まれている。
差出人は、名だたる上級貴族。
内容はほぼ同じだった。
「学院は秩序の守護者であるべきだ」
「異端振動の拡散を放置するな」
「正統音律の優位を証明せよ」
言外の意味は明白。
抑え込め。
さもなくば、王城に直接訴える。
学院長は深く息を吐いた。
「……証明、か」
秩序の証明。
それはすなわち、比較である。
正統と異端。
どちらが“上”かを示せ、と。
■ 妥協案
数日後。
学院掲示板に告知が張り出される。
【公開形式による音律模擬戦 開催決定】
講堂を使用。
立会人に王城監察官を招く。
生徒・教員・一部貴族の観覧を許可。
名目は整っていた。
安全性の確認。
正統音律との比較検証。
生徒の不安払拭。
整然とした言葉が並ぶ。
だが、その裏側で交わされた会話は、もっと冷たい。
■ 実質
「測定値が必要だ」
学院幹部の一人が低く言う。
「再現性があるのか。偶発なのか」
「制御は可能か」
「暴走の兆候はないか」
そして、最後に。
「封じるべき存在か否か」
沈黙が落ちる。
模擬戦は、祝祭ではない。
公開審査だ。
アリアの力を数値化し、
枠に押し込み、
扱えるかどうかを判断する。
扱えなければ――
口実は十分にある。
■ 当人の反応
その告知を見上げながら、アリアは腕を組んだ。
「へえ、公式ライブ?」
隣で友人が囁く。
「……模擬戦、ですよ」
「同じでしょ」
彼女は楽しげに笑う。
だが視線の端で、
実験室の窓からこちらを見るリュミエールに気づく。
聖女の表情は複雑だった。
これは単なる勝負ではない。
学院の未来。
音律の在り方。
そして――
国家の目。
すでに王城から監察官が来るという噂も流れている。
■ 見えない天秤
講堂の天井に吊られた増幅水晶は、まだ静かだ。
だがその下で、見えない天秤が揺れている。
正統か、異端か。
秩序か、共鳴か。
模擬戦という名の舞台は、
ただの学生行事ではない。
それは証明の場。
そして、裁定の場。
アリアは告知を指で叩き、にやりと笑う。
「いいよ。測れば?」
挑発とも無邪気とも取れる声。
「どうせなら、満員にしてよね」
その一言で、決まった。
公式ライブバトルは、
もはや学院の内輪試験ではない。
秩序が、革命を測ろうとする日。
その幕が、静かに上がった。




