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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Phase2:コール&レスポンスの衝撃

 中庭に、奇妙な間が落ちた。


 アリアはにこりと笑い、右手を高く掲げる。


「Say hey!」


 明るく、弾む声。


 だが返ってきたのは、


「……へ?」


 戸惑い混じりの、かすれた一音。


 ざわ、と空気が揺れる。


 生徒たちは顔を見合わせる。


 “応える”という発想がない。


 この世界の歌は、聴くものだ。


 術者が詠唱し、観客は魔力を預ける。


 受動。


 それが常識。


 アリアは肩をすくめる。


「違う違う、もっと大きく。せーの」


 両手を打ち鳴らす。


 パン。


 パン。


 パン。


 パン。


 一定の四拍子。


 乾いたリズムが、石造りの中庭に跳ねる。


 その瞬間、何人かの教師が顔をしかめた。


「四拍……?」


「三拍基調を外している」


 この国の音律魔法は三拍が基礎だ。


 一、二、三。


 一、二、三。


 呼吸と詠唱を安定させるための最適解。


 四拍は“不安定”。


 魔力導線が乱れる。


 禁則に近い。


 だが。


 アリアは気にしない。


「ほら、いくよ」


 パン、パン、パン、パン。


 リズムは揺るがない。


 一定。


 単純。


 なのに、妙に身体に馴染む。


 立っていた生徒の一人が、無意識に足踏みをする。


 トン。


 トン。


 トン。


 トン。


 それは、歩くときのテンポ。


 廊下を進むときの自然な拍。


 鼓動と近い周期。


 理論よりも、身体が先に理解する。


 アリアが叫ぶ。


「Say hey!」


 今度は数人が反射的に応える。


「へい!」


 揃わない。


 だが、確かに増えた。


 彼女は満足げに笑う。


「いいね!」


 四拍が広がる。


 手拍子が増える。


 足音が重なる。


 不安定とされたはずの拍子が、

 中庭全体を包み込む。


 そのとき。


 ひとりの平民出身の少年が、勢いよく手を叩いた。


 魔力測定では“ほぼ零”と判定された生徒。


 だが。


 彼の周囲の空気が、かすかに震えた。


 ほんの微弱な振動。


 しかし確実に。


 増幅水晶が、遠く講堂の屋根上で明滅する。


「……え?」


 教師の一人が顔を上げる。


 水晶は通常、詠唱入力があって初めて反応する。


 今は、誰も術式を組んでいない。


 それなのに。


 ぱち、と光る。


 魔法陣が淡く浮かび、次の瞬間、ちらつく。


 円環が安定せず、線がぶれる。


 ノイズ。


 理論外の干渉。


「入力は!?」


「ありません!」


「魔力供給源は!?」


「検知不能!」


 教師陣の声が裏返る。


 中庭の端で観測用の水晶板が細かく震える。


 波形は三拍基準では解析できない。


 四つ刻み。


 規則正しいのに、体系外。


「理論外です!」


 誰かが叫ぶ。


 その声さえ、四拍の中に呑まれる。


 アリアは気づいている。


 振動が、浮いている。


 誰か一人の魔力ではない。


 全員の、ほんの僅かな鼓動。


 呼吸。


 期待。


 それらが揃った瞬間に、生まれる揺らぎ。


 魔力を“要求しない”。


 ただ、巻き込む。


 歌が再び跳ねる。


「Say hey!」


 今度ははっきりと、群衆が応える。


「HEY!」


 空気が震える。


 増幅水晶が強く瞬く。


 魔法陣が形成しかけ、形を保てず崩れ、また立ち上がる。


 安定しない。


 だが消えない。


 教師たちは蒼白になる。


 禁則の四拍が、


 もっとも自然なリズムとして学院を支配している。


 誰も止められない。


 止める理屈がない。


 アリアは、ただ楽しそうに笑った。


「ほら、できるじゃん」


 その一言が、何よりも危険だった。


 理論を超えて、


 身体が先に理解してしまったのだから。

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