とある心霊スポットにて
遠子は、輪教授の勧めで、輪の知人が営んでいる小さな出版社に就職した。
なにも考えれず、朧気に大学に残り、民俗学の研究しようかと迷っていたところ、この話があった。
ここならば、求めているモノを追いかけられる。と。
そこが、オカルト界隈で有名な出版社。個人経営の小さな出版社だけど、マニアックな雑誌だけでなく、学術的な本も出版していた。
女社長は、若く見えたり、中年に見えたりする年齢不詳。社員は、十人未満。物静かな人ばかりだ。
新入りの遠子は、雑用を任されていた。いきなり、取材や編集といった仕事は出来ない。
手書きの原稿を入力と、資料整理。例え、それだけでも、自分だけでは調べるのに時間がかかるものを、間接的だけど、触れられるのが嬉しかった。
それは、梅雨入りが発表された日のことだった。
その日、遠子が出社するなり、社長はハイテンションで迎えた。
「遠子ちゃん。今、ネット中心に一番話題の、心霊スポットを知っている?」
「はい。ひなびた温泉地にある、古い神社を中心に色々と出るという、話ですよね」
遠子が答えると、社長は満面の笑顔で
「さすがね。それじゃあ、そこに取材行ってくれない?」
遠子は、その圧力に押されて、頷いてしまう。
「よかった。取材に行かせようと思っていた記者が、トランシルヴァニアに取材に行くって、さ。まあ、ドラキュラ伝説に進展があったから、仕方がないれど」
「でも、まだ、私、取材したことないのですが」
「大学のフィールドワークとレポートと同じ様なものだから。大丈夫だよ」
遠子は、そういうものなのかと。自分に言い聞かせる。
「決まりね。もうすぐしたら、同行してくれるカメラマンの子が、来るから」
言って、社長は遠子に、資料の束を渡した。
その資料には、件の温泉地とカメラマンのことがあった。
遠子は、カメラマンの名前に見覚えがあった。
オカルトオタクなら、知らない者はいない、有名なカメラマン・足原真理。
彼女の撮る写真は、高確率で心霊写真だという。
「彼女は、うちから心霊写真集を出しているから。だから、さ。歳も近いから、二人して行って来て」
遠子は、へぇ、と思いながらも、どうしようと戸惑う。
「期間は、一週間ほどね。フィールドワークと同じ。心霊現象だけでなく、地元に伝わる昔話とか伝承も書いてくれれば、面白いかもね」
社長は、アレコレと説明と指南をしてくれる。
そうしていと、扉をノックする音がした。
「足原ですけど。社長はいますか」
若い女の声がした。
「真理ちゃん、入って」
扉が開き入ってきたのは、遠子より少し年上の高身長の活発そうな女性。
「彼女が、カメラマンの真理ちゃんね」
社長は、遠子に紹介をする。
「はじめまして」
真理は、遠子に一礼する。遠子も、慌てて一礼した。
社会人になっても、人見知りは変わらなかった。
遠子は、有名なカメラマンが、オカルトが似合わない活発さがあるのに、驚いた。
「真理ちゃんは、いつも通り好きに撮ってくれればいいし、遠子ちゃんが気になるところを、撮ってあげて」
社長は、ニコニコ顔で言う。
「ええ、と。いつからですか?」
「来月号には載せたいから。明日」
その言葉に、遠子は言葉を失う。輪教授とは真反対だと。
「とりあえず、フィールドワークみたいでいいから。レポートより、細かくかいてね。それじゃあ、頑張って」
その日は、午前で仕事を切り上げて、遠子は取材旅行の準備をする。足原真理とは、明日、駅で待ち合わせをして、一緒に行くことになっている。
梅雨入りしたとはいっても、雨は振らないのに、重い湿り気があり蒸し暑い。
待ち合わせに駅に着くと、大きなキャリーバッグを横に、真理は来ていた。
遠子に気付いた真理は、手を振った。
心霊スポットがある、ひなびた温泉へ向かう特急。時期的なものなのか、人もまばらな静かな車内。
「足原さんは、いろいろなところを取材しているのですか?」
遠子は、黙ったままでは気まずいので、そう聞いてみた。
「うん。いろいろとね。あと、下の名前で呼んでくれればいい。私は、遠子って呼ばせてもらうよ」
遠子は戸惑ったが、とりあえず頷いた。
「私は、フリーのカメラマンなの。もともと、ある旅行雑誌のカメラとライターをやっていたんだけど、撮る写真の殆どが使えない写真で、悩んでいた時に、社長に出会って、そっち方面の写真を撮ることにしたの。でもまあ、映らないアイテムを貰ってから、普通の写真も撮れるようになったか……」
真理は自分のコトを、苦笑混じりに話す。遠子は、少しだけ自分の話をする。
―波長が合ってよかった。
遠子は、内心そう思った。
「好きなことを仕事に出来るって、良いよね。まだ新人だから、制限あるけれど、そのうち自由に出来るよ。うちは、好きなテーマを記事に出来る、少ない出版社だから」
真理は、子供の頃から、カメラが好きで、おもちゃのカメラで遊んでいた。それから、新聞雑誌に写真を投稿するようになり、入賞の常連になった。
そのようなことから、専門学校へ行った。だけど、入社して数年が経った頃から、心霊写真としかいえない写真が増え、撮ればとるほど、そのような写真ばかり。
自分の目と、撮れた写真。それが、良いものなのか悪いものなのかは、解らなかった。
心霊写真が写らないようにと、お祓いを受けたり、霊能者のところを回っていたとき、ある占い師から、
『それは、貴女の才能であり力』
と、言われて以来、なんとなく納得できた。それから、オカルト界隈でも活動している。
「それは、霊感とかのひとつなの?」
遠子が問う。
「みたい。闇雲に写り込んでいたものが、今では、写り込まないように出来るようになってきた。ファインダー越しに視えるようになったんだ。すべてでは無いけれど。だから、普通の仕事の時は、写り込まないように、気を付けている」
真理は、得意げに話した。
「遠子は、霊感とかあるの?」
問われて答えると、何故か、サディアの顔が浮かんだ。
就職してからは、自分のブログの更新はおろか、オカルト仲間のチャットにも出来ない。アナキティドゥスへ行きたいけれど、時間がない。サディアと翔矢は、メールをくれるけれど。
窓の外は、都会の景色から、緑がまばらな住宅地へと移り、田園風景が広がる。
その田園の中に、小さな社や祠を見つけると、日本の原風景は良いなと、遠子は思った。
「夕方には造って。その温泉で、さ。社長が、女の子二人だから、一番いい宿を取ってくれているよ」
真理は、薄っぺらい観光ガイドを見て言った。
「でも、高そうだけど。いいのかな?」
「いいんじゃないの? 頑張れってことだよ」
「自信、ないな。……真理は、ライターもしているって。聞いたけれど」
「殆ど趣味だよ。自分が、読みたいようなものを書けばいいのだと思うよ。メインは、カメラだけどね」
真理は、大きな荷物を指差す。
「大荷物。カメラって、そんなにいるの?」
「まあね。フィルムカメラもあるから、自分で現像できるキットとか。―私が、撮る写真は、普通の写真屋には出せないから」
と、笑った。
やがて、列車はトンネルを抜けるたびに、山深い谷の下を走っていく。窓を開けると、檜と土の香りがひんやりとした風が吹き込んでくる。谷間の下から見える空は、曇っていて夕日が雲を染めていた。
終点である温泉地の駅に着く。降りる人はまばら。
山の香りと温泉の匂いが、湿気を含んだ生暖かい風に乗って漂う。
かつては、人気の温泉地だった名残が、駅前の通りにはあった。時期なのか時刻なのか、閑散としている。タクシーが二台停まっていた。
時刻は午後七時前。タクシーで、宿へと向かう。大荷物の二人を見て、タクシー運転手は不思議そうな顔をした。宿に向かう車中で、運転手は
「これでも、さ。ここは、歴史のある温泉地なの。昔、バブルの頃は賑わっていたのさ。ここ数年は、閑古鳥。でも、最近、若いお客さんが増えて。なんでも、話題の心霊スポットを見に来たって……」
と、話していた。
社長が予約したという宿は、ガイドブックで見ると老舗の古めかしい旅館。
現実の旅館は、歴史を感じさせる大きな旅館。二人は、思ったよりキレイな建物に驚いた。
宿の人達は、快く二人を迎えた。
静かで落ち着いた宿。
二人が通された部屋は、手入れの行き届いた広い部屋で、和室と洋室がある。
荷物を整理してから、夕食へ。その後、旅館の中を見て回る。
「いくつか、老舗の温泉宿を取材して回ったことが、あるけどさ。ここが、今までで一番、古めかしく雰囲気があって良いな」
真理は、所々で、写真を撮る。アングルを探しているのか、写らない角度を探しているのか。
「心霊スポットの温泉地というから、写り込むと思ってたんだけど、そのようなモノはいないみたい」
「そうだね。なにも感じない、ね。今のところ。ここは、空気がキレイだし……。例の古神社だけに、出るのかな」
遠子は、キョロキョロと辺りを見回す。
本館と別館を繋ぐ渡り廊下。中庭は、自然をそのまま利用した日本庭園。
何処からか、せせらぎの音とカエルの声が聞こえて来ていた。
「キレイな庭だね」
言って、真理は写真を撮る。
「ほんとだね。もっと、ガイドブックにも載せてもいいのに―。あ、お社があるんだ」
遠子は、渡り廊下から見える中庭の散策路から、外れた茂みの中に、小さな社を見つけた。
その社は、常夜灯に微かに浮かび上がっていた。
「へー。なんの神様だろう……」
真理も、遠子の見つめている先を見る。
「そうか、今、写り込んだのは、あの社の主みたいだね」
と、言った。
「―なるほど。空気がキレイなのは、主いるからか。きちんと祀られているみたい」
社を見つめ、遠子は言った。
本館に戻り、観光ガイドなどを展示しているコーナーへ立ち寄る。
「目的は、心霊スポットだけれど。このようなところも、回ってみるのもいいかもしれない。もともと、そっちだったから、そう思ってしまう」
真理は、いくつかのパンフレットを見て言う。
遠子は、その中の一枚に、ふと視線が止まった。
【人魚の旅】
という、旅一座の舞台。それをじっと、見つめていると
「そういうのが、好きなの?」
真理が、問う。
「この、タイトルとストーリーが」
「へー。旅芸人の一座か。健康ランドとか小さな劇場で、活動している人達を何度か取材したけど。この劇団、三人だけなんだ……」
真理は、パンフを手にとって見る。
「でも、さ。人魚って、アンデルセンだよね。ヨーロッパのイメージ」
「この話は、日本の伝承・八百比丘尼だね。人魚の肉を食べて、不老不死になってしまったという」
遠子の話に
「ええっ? 人魚って食べれたの? それじゃあ、あの人魚姫も?」
驚き、声を上げる。
「さあ。日本の人魚は、魚に近いらしいよ。それが、食べ物かは解らいけれど。日本の人魚伝説は、大半が不老不死の悲劇を書いたもの。……この人達、ずっと昔、お婆ちゃんと見た、劇団と同じ人達かもしれない」
真理の問に、答えた遠子は。じっとパンフを見つめた。
「ふ~んそうなんだ。公演は、明日から数日、夜時間に温泉ホールでやるってさ。見に行ってみる?」
「でも、仕事はしないと。心霊スポットは夜に行かないと」
「一回くらい、いいじゃん。人が集まるところには、情報も集まる。地元民いるなら、なおさら」
と、真理。
「なるほど。そういう考え方もあるんだ」
遠子は、頷いてパンフを見つめる。
「私、女形の男の人、好きなんだ」
言って、真理はカラカラを笑った。
―不老不死か。
遠子は、心の中で呟いた。
永遠に生き続ける存在することが、出来たなら。
ナニかを見つけるコトが出来るのだろうか?
いつも、その想いが付き纏う。
静かな、温泉の夜。
遠子は、何度となく呟いた。
翌朝
散策がてら、心霊スポットの古神社へと向かう。
この辺りの地図を見ると、この温泉地が山に囲まれている、まるで陸の孤島。
ここへ入るのは、一本の国道と鉄道のみ。
あの長いトンネルを通るのが、唯一の道。小さな道は、いくつもあるみたいだけど、地元の人以外は通らないような道だろう。
古く歴史のある温泉地。昔は、さぞかし大変だったのだろう。
―秘湯―
地図を見ていた遠子は、あることに気付いた
「やけに、神社が多いな」
「それが、どうかしたの?」
「うん。古い温泉地は、パワースポットでもあるから。古い神社は、地脈の力が強い場所に建立されるんだ。地震封じも兼ねて」
と、答える。
「それと、心霊スポットは関係しているのかな」
「うーん。土地勘ないから、どうとも。一通り見てみないと……。このメイン通りの、突き当りにある山裾のところにあるのが、例の心霊スポットか」
遠子は、地図を閉じてファイルを捲る。
「でも、さ。こんな、ひなびた温泉の古神社が、心霊スポットとして、どうして話題になっているのかな?」
うーんと、真理は首を傾げる。
「ネットの時代だから。今までは、新聞雑誌からテレビに移ってから広まる。でも、ネットだと、大型掲示板に書かれれば、一瞬。発端は、湯治に来ていた人が。何人も何度も、古神社で妙なモノを見たって。それから、オカルト界隈に広まり、行ってみようと……。ちょっとした、心霊ブームだし、最近」
「なるほど。でも、調べてみたら、客寄せってオチだったら、つまらないよね」
「ありえなくもないから、一通り調べてみるよ。この辺りの神社とかを」
遠子は言って、地図に印をつけた。
そうこう話しているうちに、件の古神社の鳥居の前に着いた。
古神社は、山々を背に三叉路の突き当たりにある。
古ぼけた鳥居が手前にあり、木々のトンネルの参道が森の奥へ続いている。その先に、もう一つ鳥居があった。手前の鳥居には、太い注連縄が張られていた。
古神社を挟むように、左右に寺がある。
「ふ~ん。いかにもナニか出そうな雰囲気」
真理は、言葉とは反対に、真剣な顔で撮影を行う。
「……ん、なんだろう。凄いセオリー通りの……。御祭神、なにを祀っているだろう。その辺りの情報が無いんだけど」
遠子は気を正すと、鳥居に向かって一礼した。
鳥居をくぐり、薄暗い木々のトンネルの参道を進む。生い茂る木々のせいか、昼でも暗い。二つ目の鳥居の奥は森そのもので、更に暗い。木漏れ日さえも、差し込まない。そのせいか、風も吹き抜けず、蒸し暑さに拍車をかける。重だるい空気が漂っていた。
「まさに、うってつけの場所だね。幽霊よりも、モノノケが出そうだよ」
真理は、何枚もポラロイドカメラで辺りを写していく。
「ナニか、写り込んでいるよ」
そのうちの一枚を、遠子に渡した。
「迂闊に写すと、ヤバくない?」
浮かび上がる像は、赤に近い真っ黒というものだった。
「―これ、邪魔されているよ」
遠子は、真理に写真を渡す。
「みたいだね。社長に貰った御守があるから、とりあえず……大丈夫でしょう」
言って、真理は二つ目の鳥居をくぐり、辺りを写して回る。
それを見て、遠子は溜息を吐き、クスッと笑う。そして、頷くと、遠子も二つ目の鳥居をくぐった。
―結局、好きなんだよね。
と、内心、呟いた。
暗い参道を抜けて、社へと至る。その社を見て、遠子は首を傾げてしまった。
古めかしい社。その扉は閉ざされていて、鈴も賽銭箱も無い。
別に、鈴や賽銭箱が無いのは不思議ではない。一番驚いたのは、その社が鉄格子に囲まれている上、有刺鉄線でグルグル巻にされていたから。
イタズラ防止ではない。これはまるで―
―牢獄。
それを認識して瞬間、遠子は全身に鳥肌が立ち、思わず数歩下がってしまった。
―ここは、ただの心霊スポットではない。ただの古神社では、無い。
なんともいえないモノが、湧き上がってくる。
それと同時に、左腕の傷痕が痛みだす。冷や汗が滲んで、蒸暑いのに悪寒に包まれる。
「なんだか、すっごく変わっているね、ここ」
背後で真理の声がし、フラッシュが光った。
「う、うん」
遠子は、振り返る。顔が引きっつていたのか
「どうしたの? なにかいた? 顔色悪いよ」
驚いて、真理が問う。
「い、いや。ただ、あまりにも異様な社だな、と」
遠子は、震える声で答える。真理は、思うところあったのか
「……そうだね。まるで、凶悪犯か猛獣を入れるような檻。これじゃあ、心霊スポットにもなるね」
言って、再びシャッターを切った。
真理は、辺りを周り写真を撮っていたが、遠子は立ち尽くして、ソレを見つめていた。
「ねぇ。こっちの裏の方にも、何かあるよ。見てみない」
と、立ち尽くしている遠子を呼んだ。遠子は、ハッとして答えると、そちらへ向った。
ただ、何処かでナニかが警鐘を鳴らしていた。
その奇妙な社は、普通の神社にあるような、手水舎や祓戸社も社務所も無かった。社の裏は、岩肌剥き出しの岸壁。足元は悪くないのに、泥濘んでいる感じがする。土や木、腐葉土の臭いの硫黄の臭いが混じった臭いが、辺りには漂っている。
ちょうど社の真裏には、幾重にも注連縄が巻かれた岩があるが、その注連縄は朽ち掛けていた。
その岩の前にくると、漂う臭いは強くなり、顔をしかめてしまう。
「凄い臭い。近くに源泉でもあるのかな?」
真理は、タオルで口を覆い辺りを見回した。
「それにしても、この磐座? 神社と関係してるのかな」
言って、岩の写真を撮る。
「磐座……なのかなぁ。なにか、違う気もするけど」
遠子は、朽ちた注連縄を見つめる。
「この鉄柵がなければ、岩と岩の間に見えている、あの洞穴みたいな所まで行けるのに」
朽ちた注連縄が巻かれた岩の後ろには、鉄柵が張り巡らされていた。その向こう、剥き出しの岩肌に、洞穴があった。立入禁止。と、真新しい看板。
真理は、なんとか鉄柵を潜ろうとしたが、無理があったのか諦めた。
遠子は、洞穴が気になったが、岩にすら近づけなかった。
真理と同じ様に口元をタオルで覆ったけれど、臭いは思うように防げない。洞穴へ近づこうと、足を進めたけれど、無理だった。臭いは段々と強くなり、腕の傷痕は痛みだし、吐き気がした。
この場所と、同じ様な場所へ出くわしたことがある。
思い出すと、更に傷痕の痛みは強くなる。
「―ちょっと、大丈夫?」
遠子の様子に気付いた、真理が振り返り言った。
「顔、真っ青だよ。冷や汗? 臭いで気分悪くなった?」
遠子の顔を覗き込んだ。
「―かも、しれない。一度戻って、出直したい」
そう答えるのが、精一杯だった。
それじゃあと、社の表へと戻ると。数人の人が機材を手にし、鉄檻の社を覗き込むようにして、何か話し込んでいた。よく見ると、テレビカメラを担いでいる人物もいた。
遠子と真理は顔を見合わせて、その人達の様子を暫く見つめる。
「カフェのオーナーが言っていた、テレビ局の人達だ」
真理が、耳打ちした。そうしているど、こちらに気付いたのか、その中の一人が、こちらへ来た」
「君達も、ここが出ると知って、来たんかい?」
不摂政が滲んだ男は、偉そうに問う。
「ま、あ。そんなところかな」
と、真理。
「なんか、見たんかい? オレら、◯◯テレビや。夏の特番撮りに来てるんや」
自慢げに言う。
確かに、ソコは、その手の番組で有名だなと、遠子は内心呟く。
「そうですか」
少なからず興味はあるが、何より今は早く、ここを出たかった。
「オレの名刺。◯ホテルにいるから、何か見てたり、知っているなら教えてくれ」
と、二人に名刺を渡す。名刺には、豆田とある。遠子は名刺を受取り
「ここの臭い、凄くないですか?」
問う。
「ああ。かなりキツイ臭いやけど、しゃーないいわ。温泉の臭いやろ。ま、よろしく」
言うだけ言って、豆田はスタッフのもとへ戻って行った。
テレビ取材班と入れ替わるようにして、遠子達は、神社の外へと出た。
風の殆ど無い蒸し暑さは変わらないものの、それでも臭いはマシになった。
「大手のテレビ局が来るくらい、なにかあるのか」
振り返り、真理は言った。
「うん。それにしても、凄い臭いだったよ。岩陰で、動物でも死んでいたのかな」
遠子は、白檀の扇子で扇ぐ。
「動物よりも、人間? サスペンス劇場みたいな……」
真理は、笑みを浮かべた。
「ヤダな。そういうの。サスペンス、好きなの?」
遠子は、顔をしかめた。
「うん。何度か現場に出会わせたこと、あるし」
と、笑い
「私、なんだか、そういうのにエンがあるみたい」
と、言った。それを聞いた、遠子は苦笑いを浮かべて、溜息を吐いた。
鬱蒼とした空が、余計に蒸し暑さを増している感じがする。
時計を見ると、既に昼は過ぎている。
「これから、どうする?」
遠子は、問う。
「うーん。お昼御飯にする?」
今度は、真理が問う。
「―いや、今は食欲が……。あの臭いは駄目だ」
「それじゃあ、両隣のお寺を覗いてから、戻ろうか」
真理は言って、新しいフィルムをセットした。
まずは、古神社の左隣りの寺へ向かう。
だけど、両方の寺は固く扉を閉ざしていた。
そして、【立入禁止】と、張り紙がある。
「留守っというより、廃寺? 手入れはされているみたいだけど」
真理は、扉や壁に触って言う。
「そう言えば、カフェの人、なんか言葉を濁していたから。ここは、人がいないんじゃない。他にも、神社あるし、聞いて回る?」
と、真理。
「うん。―でも、やっぱり、一度戻った方がいいかも。空が怪しい」
遠子は、空を見上げた。
「あーだね。じゃあ、戻るか。戻ったら、写真整理しよう」
「はあ。心霊スポットのことだけでなく、土地の歴史を調べた方が、いいみたいだなぁ。特集記事にしても、背景は必要だし」
遠子は、溜息混じりに呟いた。
「まあ。始めは迷っても仕方がないよ。自分が、読みたい記事を目指そう」
真理は、溜息を吐いている遠子を、励ました。
「そうだね。ありがとう。―そういえば、あの舞台、今日の夕方からだったよね。あれは、見ておかないと」
遠子は、言う。
「じゃあ、戻るべ」
二人は話しながら、橋を渡る
河が、温泉地を幾つかのエリアに分けている。
古神社は、北エリアにある。
「あー。やっぱり、空気が違うよ。温泉臭は仕方ないけれど、空気は南エリアの方が、良い」
遠子は、大きく深呼吸をする。
「へー。ホントだ、気のせいかとおもったけれど、そう言われれば」
と、真理も深呼吸した。
宿に戻ると、穢れを洗い落とすように、温泉へ入った。
遠子は、古神社のコトをまとめる。これは、大学のレポートと同じ要領でいけばいい。
ノートに書いては、パソコンに打ち込む作業していると、真理が写真を持ってきた。
遠子は、写真を受け取り
「凄いね。人霊よりも、土地のナニかだろうか? ナニか解らないモノが写り込んでいるね」
一通り視て、言った。
「でも、ここまでナニも写り込んでいなにのも、珍しいよ。私的には、もっと写ってくれると思っていたけれど」
真理は言って、ネガを見つめた。
「え? そうなの? これでも、たくさん写っているけど」
遠子は、写真を視る。
「うん。やっぱり、私の場合、人霊の方が写りやすいみたいだし、ハッキリと写るし。だけど、ここに写っているのは、人間の霊しゃなくて、エネルギー的なモノがモヤがソレだと。あの古神社で撮ったポラは、すべて真っ黒。うーん、古神社の撮影は、普通の写真は難しいかな」
と、ぼやいた。
「もしかすると、土地の力が強すぎるのかも。古い温泉地だし、やっぱり、土地の歴史を調べないと」
遠子は、地図を広げて呟く。
「それじゃあ、図書館でも行く?」
「そうだね。この辺りを少し調べてみるよ。真理は、どうするの?」
「付き合おうか? ちょっと、普通の写真撮るのは難しい。御守あって、コレだとちょっと。原因を知らないと、落ち着かない」
「ありがとう。午前は図書館行って、歩いていける範囲を回ろうか」
遠子は、考え込んでいた。
あの古神社に漂っていた、異質な気配と臭い。物凄く、興味は引かれるが、その反面、気持ち悪くてたまらなかった。
―もっと、持ってくるべきだったかな。
ポーチの中に入っている、魔除けの御香とお茶を見た。
時間を作ってでも、アナキティドゥスに行くべきだったと。
三芸人
―静寂の中に、佇み人影。闇の中で、響く弦の音。
月灯りを模しているライトが、舞台の中央に立つ人影を照らし出す。
人影は、艶やかな着物を纏っていて、弦の音に合わせて舞い始める。その舞手が鈴をつけているのか、舞うたびに、シャランシャランと澄んだ音が響いている。
語り部が、詠うように語り始めた。
「遠い昔、諸国を巡っている旅の一座がありました。芝居に唄に踊ります。とある土地で、一座の若き者が訪れた土地で、伝説に名高い人魚の肉の噂を聞きました。雨宿に訪れた廃寺にて、若き者は人魚の肉を探し求め、朽果てた社を見つけたる。
人魚の肉は、あらゆる病を癒やし、不老不死になる秘薬……。その味は、夢の様な美味だと。
誘惑に負けた、若者達は口にした……。
ある時、戦に巻き込まれた一座は、哀れにも皆命を落としたる。
だけど、人魚の肉を口にした若者達は、屍の中から蘇り……。
以来、老いることも死することもなくなり、給う。
そして、伝説が真たるコトを、その身で知り、ただ戸惑い嘆く歳月。
神を喰った罪!
彼らは、変わらぬ姿で時の流れを、人の世を彷徨い続けております」
語り部の口調は、無感情。しかし、響く弦の音は激しい。舞手も、その音に合わせて激しく舞っていた。
そのあまりにも、激しい舞い姿に、会場は静まり返っていた。
舞台が終わると、客席からは惜しみない拍手が湧き上がった。
遠子と真理は、他の客が出ていくのを待ってから、席を立った。
「凄いね。これだけの演技力のある一座って、そういないよ」
真理は、興奮気味に言った。
「そうだね。―幼い頃に見たの、コレ……」
遠子は、舞台を見つめた。そして、心の中で、不老不死と、呟いた。
客が出払ったあと、二人は会場を出た。外には、出待ちの客が数人残っていた。
「悲しい話だな、恐ろしい話なのかも」
真理は、言う。
「でも、人魚の肉って、やっぱり魚なのかな?」
遠子に問う。
「さあ。でも、よくオカルト雑誌や未確認生物とかで出てくる、ミイラがあるじゃない。あれを想像すれば、近いのかも……」
「あれ、なんだろう。見たことあるけど」
「確認されているモノだと、猿のミイラと大きな魚のミイラを繋ぎ合わせたモノが、多いね。ハリボテもあるけれど。秘蔵品とか御神体で、残っているんだけど」
言って、遠子は溜息を吐く。
「あ〜あ、学術的分析ってヤツね。ハッキリして良い判明、夢もロマンも消える。どっちが良いのか」
真理もまた、溜息を吐いた。
夕食を済ませ、部屋に戻らず、ロビーで地元紙などを読んでいると、二人に声を掛ける者がいた。
「お芝居を、見てくれていた人だよね?」
三十代半だろうか、少々目つきのキツイ女が問いかけた。その背後に、少年と二十代くらいの女。
「人魚のお芝居の、人?」
真理は、三人を見つめた。
「ええ。私は、座長の月夜野。こっちが、女形の花雪で。ちっこいのが天若」
花雪は、艶やかな浴衣を着崩していた。
「あなた達、人魚の話をしていたから、興味があるのかなと、思ってさ」
花雪は、オネェ訛で言った。じっと、見ても男だとは判らない。妙な色気が漂う。
「まあ。人魚伝説には、興味がありますけれど」
遠子は答えた。
「へー。私達のような一座を見に来る人は、たいがい年配のの人達だから、さ。貴女達目立っていたよ。湯治客にも見えないから、もしかして、心霊スポット?」
月夜野が問う。
「ええ。オカルト雑誌の取材で」
真理が答えた。
「なるほど。だから、人魚にも詳しいのか。へへ、じゃあ、知り合ったついでに、教えてあげよう。話題の心霊スポット古神社に、ナニかが出るようになったのは、二年前。ここ半月程は、そのナニかが、やたら人目につくようになっているし。モノノケみたいなのや、人間の幽霊も目撃されるようになったとか」
面白そうに月夜野は、話した。遠子は、頷きながらメモを取る。
「もう、古神社には行ったの? あそこ、凄いでしょう。よほど鈍い人でも、なにか感じるよね」
と、花雪。
「はい。凄く気持ちの悪いところでした。なんだか、不理解な造りだったし。鉄檻で囲われている社が、謎でした」
真理が言う。
「話によると、あそこは神様を祀っているのではなく、ナニか別のモノを……邪神のようなモノを封印しているって伝承も」
月夜野は、おどろおどろしい声で言った。
「それは?」
遠子の顔色が変わる。あの、不快感が蘇るが、探究心の方が勝る。
「詳しいことまでは、知らない。でも、人喰いのモノらしいよ。恐いね」
花雪は、大袈裟に振る舞い、答えた
「へー。それは……。調べてみようと、遠子」
と、真理が言った。
「うん。そうだね。―どうも、ありがとうございます。参考にさせてもらいます」
遠子は、三人に礼を言い
「あの昔から、あれ同じお芝居を各地でしていましたか?」
と、問う。
「知っているの?」
驚いたように、天若が言う。
「小さい頃に、見たことあります」
「それ、うちらだ」
月夜野が答えた。
「三人だけですか?」
真理が問う。
「ええ。ずっと、昔から三人だけで、やっているのよ」
陰のある笑みを浮かべて、花雪は答えた。
「私達、しばらくここで舞台するから、時間が合ったら話でもしない?」
月夜野が言った。
遠子と真理は、顔を見合わせて頷いた。
死穢
翌朝、部屋に配達された新聞を読んで、遠子は驚いた。
「変死体だって?」
遠子の声に、真理が「なに?」と言い、新聞を覗き込んだ。
【〇〇温泉街の神社境内で、人間の変死体と人体の一部を、取材に来ていたテレビ局のスタッフが発見。現場の神社は、最近、心霊スポットとして注目を集めていた。死体は、腐乱が激しく身元特定は難しい】
「マジで? あの臭いが、そうだったのかな? もう少し調べていたら、私達が発見したかもしれないってこと?」
真理は、少し残念そうに言った。
「―あの古神社、なにかあるのは、間違いないと思う。芸人の人達は、人喰いと、話していたし」
遠子は、記事を見つめる。腕の傷痕が痛んだ。
「あ、そうだ。あのテレビ局のオジサンから、名刺貰ってたんだ。話きけるかな?」
ポンと手を叩き、真理は言った。
「大丈夫かな? これ、殺人事件じゃあないのかな」
「構わないよ。情報の共有。それに、心霊スポットに変死体。不謹慎だろうけど、オカルトのネタとしては最高では」
真理は、ハイテンションで言った。遠子は、そのようなことより、腕の傷痕の痛みが気になっていた。
―ただの殺人事件ではない、と。
「どうする、行ってみる?」
真理が問う。真理は、行きたくて、ウズウズしていて、遠子はソレに押されるように、頷いた。
「そうと決まれば、腹ごしらえ」
と、真理は元気に言った。
食堂へと向かう、エレベーターの中で、三芸人と一緒になり、そのまま朝食を一緒にする。
「新聞見た?
月夜野が問う。
「はい。昨日、古神社に行った時、テレビ局の人達も来たんですよ。その人達が発見したみたいです」
真理は、昨日のこと話す。
「凄く、変な臭いがしていて。温泉臭だと思っていたんだけど。あの臭いが、そうだったんだと思ったら、ビックリです」
「それじゃあ、先に見つけたかもしれないのね」
面白いなという顔をし、花雪が言った。真理は頷く。
「でも、テレビとかは、いいネタかもしれないけれど。オカルト雑誌としては、心霊スポットの変死体というのはどうなのかな?」
遠子は、ポツリと呟く。
「それはソレで、ネタになるよ。昨夜、言ったけれど、あの古神社には、人喰いの邪神が奉封されているとかって」
花雪が言う。
「他に何か、知りませか?」
「聞いた話だから、ね。でも、もともと日本の神様って、そのようなタイプも存在し、今、邪神と称される神様もいるから。一言では、片付けられない」
花雪は、お茶を啜り、答える。遠子は「そうですね」と言い、腑に落ちないものを感じた。
「でも、なんだかハマり過ぎている」
ポツリと、天若。
「そう思いますか? なにかありそうなので、私達、そのテレビ局の人達に話を聞きに行くんです」
心霊特番のプロデューサー豆田から貰、った名刺にある、携帯電話にかけて、真理はアポを取った。
色々と大変だったのか、それともスクープだったからなのか、豆田は、かなりのハイテンションだった。
お互いの情報を共有したいと、申し出た真理。むしろ、豆田も同じ考えだったらしい。
一応、警察からホテルにいてくれと言われてるので、来てくれのことだったので、豆田達が泊まっているホテルへ向かうことになった。
温泉街の南と北に分ける、橋を渡る。
「やっぱり、この河より北側は、空気が重苦しく感じるよ」
言って、遠子は息を吐いた。
「そうかな~。まあ、言われてみればだけど。私いは、よくわからないや」
豆田達一行が宿泊しているホテルは。数年前に出来た近代的な観光ホテル。そのホテルのロビーで、豆田達から話を聞く。
「君達、あの有名なオカルト出版社だったのか」
豆田は、相変わらず大きな声で言う。
「あの場所、異様な臭いがしていたんだけど、それが死体だとは」
と、遠子。
「ああ。あの岩と柵があった向う側に、洞穴があるだろ? あの中だよ。柵を無理やり潜って行ってきたんだよ、うちのが。それで、見つけたんだ。死体発見は始めてで、ギョッとしたが、スクープだよ。それで、局に連絡したら、ワイドショーにするって。で、そろそろ中継車が来るんだ」
ハイテンションで、豆田は喋る。
「それで、そちらは何か心霊現象は、拾えましたか?」
真理が問う。
「いいや、バラバラ死体の方が大きい。なにせ、心霊スポットで変死体だぞ。しかも、一人じゃなくて、数人はいるんじゃないかって。見つけたヤツは、慌てて飛び出して来たんだけど、パニクって柵から出れなくなって。結局、警察が来てから、柵を壊したんだ」
豆田は、とにかく喋る。
「警察には色々聞かれるし、不法侵入だと怒られた。今も、ホテルから出るなと足止めくらってる」
と、そこまで喋って、ペットボトルの水を一気に飲んだ。
「―ところで、君達はどうするんだ? あの古神社は封鎖されたし。心霊ロケは出来なくなったし」
「古神社以外にも、調べれるコトはありますし。土地の歴史を調べるフィールドワークをします」
遠子が答える。
「熱心だねぇ」
豆田が言う。
「遠子の、初仕事だからね」
真理が言った。
「新人なんだー。新人は、踏ん張らないと」
豆田は言って、一人で頷く。
「えー、どこかで見たことあると思ったら、心霊写真家の足原真理だよね?」
スタッフの一人が、唐突に問う。真理は、チラリとスタッフの方を視て、頷く。
「ねえ、なにか写っていた?」
興味津々に問う。
「いやそれが……。今回は、モヤばかりで、ハッキリしたモノは写せなくて。こちも、なんだかな妨害されているのかな、って」
真理は、溜息混じりに答えた。
「そうなんだ。そういえば、うちのカメラも古神社に入ると、具合悪くなったな」
スタッフが言う。
「心霊スポットには、よくあることだ。まあ、機材の全部に不具合出るのは始めてだが……。だとすれば、本物の心霊スポットだ」
豆田は、相変わらず大きな声で言った。
「どのくらいで、解除されるのかな。出来るだけ早く、解除して欲しいな」
遠子は、溜息混じりに呟く。
「だな。そういやあ、運び出される時、チラッと見えたんだが、死体の腕に朱珠が見えたんだ。見つけたヤツも、同じ物を見たって言っていたな。バラバラの腕にも、だ。なんだ宗教が絡んでるのか?」
豆田は、腕組みをし首を傾げた。
「ああ、思い出した。去年、爆発的に流行したヤツですよ。願いが叶うとかで、ほら、あの殺されたアイドルが、CMしていた、アレ」
スタッフの一人が言う。
「願いが叶うと、死ぬとか噂があったのに、皆揃って持っていたな。ソレを売っていた教祖みたいなのが、行方不明になり、教団施設から、たくさんの白骨が出たというニュース以来、プツッと消えたんだよな、あのアイテムも」
豆田は、記憶を辿るように話す。世間的には、遠い過去の出来事になっているけれど、遠子にとっては、昨日のコトのようだった。
「……招願叶」
呟くと、腕の傷痕が痛む。
「あの、クソダサいやつか」
商品名を聞いた、スタッフは言った。
「いくら願いが叶うといっても、あのダサさを持っているのは、嫌だなぁ」
と、話す。
その時、豆田の携帯電話が鳴った。
「え、なんだって? はあ、死んだぁ?」
大きな声を更に大きくして、豆田は、何度も電話の相手に問う。その声に、ロビーにいた他の客の視線が、集まる。電話のやり取りを聞いていた、スタッフ達の顔色が悪くなっていく。
「死体を見つけたスタッフ―ADが、その後、気分も具合も悪くなって。病院に運ばれたのですが、そのまま入院するほど、で」
スタッフの一人が、説明する。その話を聞いていた、遠子は血の気が引くのを感じた。
そして、また。ナニかが警鐘を鳴らしていた。
豆田は病院へ行くと言うので、遠子は無理を言って同行させてもらうことにした。
小さな町には、大きすぎる総合病院。温泉療法を取り入れているので、長期療養向けだという。
病院のロビーで待っていると、白髪を振り乱した老婆が
「障りじゃ、禁忌の土地へと、立ち入った障りじゃ」
と、叫びながら入って来た。
遠子達や、他の患者達も、その老婆を見た。
「呪われし、人を喰う神に、触れたせいじゃ。金岡のエセ神童じゃ。そいつのせいじゃ、関われば、もっと喰われるぞ」
呂律の回らない口調で叫ぶ。
そこへ、身内だろうか、慌てて老婆に駆け寄りなだめると、皆に頭を下げて、部屋へ連れ戻した。
遠子真理は顔を見合わせる。その場には、なんとも言い難い沈黙が漂う。
遠子は、左腕の傷痕が激しく痛み疼く。そして、気分まで悪くなってくる。
俯いて、唇を噛む。
―人を喰らう、呪われた神? 禁忌の土地、障り?
金岡のエセ神童?
もしかして、あれは温泉臭と死臭だけでなく、瘴気?
瘴気に当てられたのなら、ただの心霊スポットなんかじゃあない―
「遠子。大丈夫? 顔色、真っ青だし、震えているよ」
考え込んでいると、真理が覗き込む。
遠子は、応じることが、なかなか出来なかった。
土地自体。病院という空間から、細かいモノが集まってきて、はしゃいでいる。
なんとか、頷いてみたものの、気分が最悪なことには、違いはなかった。
豆田達も、顔を曇らせたまま、心配そうに遠子を見ていた。
「―大丈夫。ちょっと、近くの神社に行く」
遠子は、フラフラと立ち上がり、豆田達に一礼すると、真理に支えられるようにして、病院を出ると宿泊している旅館の向かいにある、神社へ向った。
「本当に、大丈夫なの? 汗凄いし、顔色も悪いよ。さっきの病院で診てもらったほうが、良かったんじゃないの?」
真理は、遠子の様子に戸惑う。
「あの神社に行けば、なんとかなる。―今、私を写したら、凄いと思うよ」
遠子は、苦い顔をして言う。
真理は少し不思議に思いながら、遠子をポラロイドカメラで写した。
そのポラを見て、真理は驚いた。
「凄いモヤだけど」
遠子に、写真を見せた。
「ね。よくは判らないけど。瘴気と雜霊みたいなのが、憑いているみたい」
遠子は、溜息を吐いた。
遠子を写したポラは、モヤで遠子の姿が見えないほどだった。
ようやく、神社の前へ辿り着く。遠子は、フラフラで汗だくだった。
それでも、鳥居の前で一礼し、手水舎で身を清める。
そうすると、少し楽になり本殿に参る。
神前で深く一礼し、顔を上げて息を吐いて
「ありがとうございます」
と、呟いた。
参拝を終えて、真理のもとへ戻る。
「どう? 大丈夫なの?」
心配性なのか、真理は何度も、そう問う。
「ごめんなさい。うまく説明できないけれど、瘴気に襲われたみたい。でも、ここの神様に祓ってもらったから、大丈夫」
遠子は言って、境内を歩きながら、漂う神気を身に纏った。
「それにしても、なんだったのかな? あのお婆さん」
と、真理。
「―ん。なんだか、古神社のコトに詳しいみたいだったけれど」
ふうと、遠子は息を吐く。
「初仕事なのに、トラブルだよ。大学のレポートの様にはいかないか。それに、こういうのって、ちゃんとした霊能者を同行してもらった方が、いいのかもしれないな」
遠子は、弱音を吐いてしまう。
「私には、霊感は無いからよく解らない。でも、それもいいかもしれないね。私は、写すことしか出来なくて、大まかにしか良い悪いしか解らない。でも、この温泉地、他の温泉地と比べると、ナニかが変だ。何かと聞かれても、解らないけれど。何かが違うんだよ」
言って、真理は境内を写して回る。
「ここは神域だから、その関係が写り込むんだけれど、普通の写真も撮れる。でも、温泉街を写したのには、モヤが写る。幽霊とかは、殆ど写っていないのに」
「……ソレが瘴気だったりして。だとしたら、温泉地すべてが瘴気に覆われているってことになる」
神社を出て、旅館に向かう道で、遠子は言った。
「瘴気って、悪い気のコトでしょう? こんな感じに視えるの?」
「瘴気だと気付いたのは、死体を見つけたスタッフの話。私が近づきたくても、近づけなかった場所。その柵を潜って洞穴に入った。恐らく、洞穴の中に瘴気があって。瘴気にあてられた。現実的に考えたら、温泉ガス?」
と、遠子。
「でも、死んじゃうなんて。温泉の悪いガスが出るなら、計測器とかが設置されてるはず」
「うん。だから、瘴気。それに、あのお婆さんが言っていたコトと、関係があるのかも」
言い、遠子は深い溜息を吐いた。
「ただの心霊スポットでは、ない」
と。
翌日。
小さな図書館で、地元の歴史資料を集めて、旅館に戻る。
一報を聞いてなのか、駅前の町役場と警察署の前には、いつの間にか色々なテレビ局の、中継車が集まってきていた。静かだった温泉地は、騒がしくなっていた。
「たくさん、マスコミ来たね。ここが、辺境の地だから、少し時間かかったみたいだけど。これには、きっと社長も、驚いているかも」
真理は、その様子を見つめて言った。
遠子は、去年の事件を思い出す。あの時も、マスコミは騒いでいたと。そして、視聴者もまた同じ。
「……だね。これだと、しばらく、ワイドショーは盛り上がるんだろうな」
溜息混じりに、遠子は答えた。
旅館の部屋で、テレビをつけると、件の事件がトップニュースで流れていた。
三芸人とは、意気投合してから、夕食を一緒に食べることにしていた。
三人の舞台が終わってからだから、少し遅い時間と鳴ってしまう。それまでの時間、図書館でコピーしてきた資料をまとめる。
どのチャンネルも、同じニュース。
「心霊スポットで変死体。ひなびている温泉もこれで、また注目されるだろうね。それが良いことかは、解らないけれど。客があってのものだから、押し寄せてくるマスコミや野次馬相手でも、経済効果だね」
真理は、ニュースを見て言った。
遠子は、ニュースを横目に資料を見ていた。その資料の中に、気になる一節を見つけた。
【人魚の肉。それを超える力を秘めし、龍の肉。人魚の肉よりも、甘美にして、永遠なる力と生命の源。幻にしか知る者ぞなき】
「龍の肉?」
始めて目にする、言葉。
【龍の肉を食した術者。永遠の力と生命を得る。その力にて、人々の上へ。自らを神として、その力に酔い、そして狂っていった。生来の力を龍の力が、更に高めた
『龍の肉を、力を持つ者が食せば神となれる。永遠の力と生命にて、この地上の神と慣れる』
その言葉を聞いた者達は、彼のもとへ集まった。その時、既に彼はヒトではなくなっていた。集まった者達を喰い、その者達の力までを我物にした。ヒトではなくなった彼を、諸国のありとあらゆる術者が討ち取ろうとしたが、皆喰われてしまった。その様ななか、一人の術者が現れて、死闘の末に封じるコトに成功した。そして、封じた場所に、封印の為の社を建てた。その要とし、自らを柱として。
――古神社建立秘話】
その文章を読んでいると、また気分が悪くなってくる気がした。
これが、真実ならば、ただの心霊スポットではない。
本来は、無闇に立ち入ってはならない場所。
あの老婆が言っていたコトと、重なる。
だとすれば、あの社には、おぞましいモノが在る。
また、腕の傷痕が疼いた。
―不老不死といえば、人魚の肉だけれど、この文献には【龍の肉】とある。竜神とか龍伝説は各地にあるけれど。龍の肉が不老不死に、関係しているというのは初めてだ。
考えると、何故か傷痕が疼く。まるで、禁忌に触れるなと。
―龍の肉。輪教授や、サディアさんなら、知っているのかな。
遠子が考え込んでいると、携帯電話が鳴った。
「遠子ちゃん、殺人事件に巻き込まれたんだって」
社長は、ハイテンションで言う。遠子は、経緯を説明した。
「まあ。それだと仕方がないよ。ネタとしては、ありだけど。うちとは違うから……。それで、なにか情報は?」
社長に問われ、遠子は、古神社の云われと、亡くなったスタッフの話をし、死体が招願叶を持っていたコトを話すと、ハイテンションだった社長は黙り込んだ。
しばし、沈黙のあと
「―そう、なんだ。まだ、裏がありそうだね。心霊スポットがメインだけど、そちらの方も調べれる範囲でいいから、調べてみてよ」
と、言った。
「……はい」
としか、答えられない。
招願叶……。あの現場は、どちらも記憶に鮮明に残っている。
「そうだ、遠子ちゃん。初仕事だから、特別に、その手のアドバイザーを、そちらに向かわせるわ。まあ、本人達に聞いてみて、OKが出たらの話だけど、ね。じゃあ、頑張ってね」
いつものハイテンションに戻り、社長は言って電話を切った。
電話を終えた遠子は、大きな溜息を吐いてしまった。
「なに? 怒られちゃった?」
と、真理。
「ううん。出来るだけ、事件に関しても調べて、と」
溜息混じりに、遠子は答えた。
一息つくのに、お茶でもしようと部屋を出ようとした時、フロントから人が訪ねて来ていると連絡が入った。フロントへ行くと、豆田が来ていた。
「へー。随分と、良い宿じゃないか」
と、豆田。
「うちの社長、太っ腹なの」
真理が言う。
「昨日、なんか具合悪そうにして、帰ったから、大丈夫なのか?」
豆田が問う。
「ええ。まあ。でも、神社にお参りしたら、良くなりました」
遠子が答えると、豆田は目を丸くして
「それって、霊障ってヤツか?」
その口調が、興味津々だったので、
「そういうのかな? 瘴気に当てられたって感じ」
と、答える。
「もしかして、視えるのか?」
「どうかな。霊感はあると思いますが。相性が関係している感じですね」
遠子は、遠巻きに答える。
「なにか、御用があったのでは?」
真理が問うと、、ああといった感じで
「今夜、降霊会をするんだ。珠王華礼が来てな」
ニヤリと笑い、豆田は答えた。
珠王華礼は、最近人気のタレント霊能者。
遠子と真理は、顔を見合わせる。
「どうだい。来てみるか?」
得意気に言う。
「でも、先約があって」
と、遠子。
「だったら、終わってから来てくれてもいい。どのみち、夜中だからな。二人共、専門なんだろ? よければ、コメントしてくれ。ネタ持っていっていいから、来てよ」
「どうする? 遠子」
うずうずして、真理が問う。
「行けるようであれば、伺います」
「それじゃあ、ここで。古神社近くの空き家」
メモ書きの地図を渡し、豆田は帰って行った。
豆田と入れ違うように、三芸人がやって来た。
「何か取り込んでいたの?」
豆田の背に視線を向け、花雪が問う。
「あの人、心霊特番のプロデューサー。今夜、降霊会するから、来てくれって」
真理は答えて
「でね、第一発見者。その発見したスタッフが、急死したの」
と、耳打ちするかのように、三芸人に話した。
三芸人は、一瞬驚いた表情を浮かべた。
「なんだか、ヤバそうなのに」
遠子は、呟いた。
「降霊会、面白そう。見てみたい。ねえ、一緒に行ってもいいかな?」
ハイテンションな声で、月夜野は言った。
「聞いてみてよ、真理ちゃん」
真理も面白そうな顔をし、豆田に電話をかけた。
豆田も、ギャラリーが欲しかったと言った。そういうことで、遠子と真理、三芸人の五人で行くことになった。
空は重い雲に覆われ、月は見えない。風はなく、仄かに温泉臭がする。その臭いが、蒸し暑さを増す。
夜更けとあってか、地元の人すら歩いていない。遠く近くで、カエルと虫の声がする。
「ここって、さあ。橋を渡ると、空気が一変しちゃうんだよね。なんだか、べっとりと纏わりつく感じがして、ヤダよ」
花雪は、派手な扇子で扇ぎながら言う。
遠子は、自分だけではないんだなと、思ったが、黙っていることにした」
古神社に近づくにつれて、遠子の気持ちは、重くなっていった。
降霊会が行われる空き家では、スタッフ達が準備を終えて、その一室では、珠王華礼がスタンバイしていた。珠王は、もともと、デパートなどの占いコーナーの占い師の一人だった。そのルックスから、雑誌やテレビへ出るようになり、タレント霊能者としてデビューした。
月夜野は、へーという顔で、珠王を見た。遠子は、降霊会には興味があった。
部屋には、色々な機材が置かれている。真理は、その様子をカメラに収めていた。
「降霊って、誰を呼ぶんですか?」
天若が問う。
すると、豆田は、ニッと笑って
「古神社で発見された、身元不明の死体。何処の誰で、誰に殺されたかを聞き出す」
と、答える。
「死体の身元、判ったんですか?」
遠子が問う。
「いいや。判らないから、呼び出して聞き出すんだ」
豆田の答えに、遠子は首を捻った。
霊魂を呼ぶには、名前が必要なはず。自分の知っている方法とは、違う方法なのか。
思うことがあったが、口には出さず、とりあえず珠王の、やり方を見ることにした。
タレントといっても、どこにでもいそうな少し派手な女性。
自信満々といった感じ。金髪に染めたロングヘア、濃いめのメイク。占い師らし衣装。
様々なアクセサリーで、自身を飾っている。
―苦手なタイプの極地だな。
遠子は、そう感じてしまう。そして、観察していた。彼女が身につけているアクセサリーを。
そして、ふと見覚えのあるものを、その中に見つけた。
ソレを見つけた瞬間、なんとも言えない嫌悪と汗が吹き出した。
―招願叶。
未だに、ソレを持ち続けている人がいるのかと。あれほど、オカルト界隈で噂が広まったのに。
噂が真実だということも、広まっているのに。
―ヤバいよ。
遠子は、心の中で何度も呟く。
―ヤバい。
そう思っているあいだに、豆田の指示で、機材やカメラのチェックを終え、降霊会がスタートする。
遠子達ギャラリーは、モニター越しに様子を見守る。
ライトが消されて、テーブルの上、蝋燭の灯りだけが揺れる。クーラーは無い、窓も全て閉じられている。サウナのような部屋。
モニターには、なにか呪文のようなものを呟いている、珠王が映っている。真理は、そんな珠王を写している。カメラのフラッシュが光るたびに、幾つもの影が浮かんでいた。
「―古神社で見つかりし、死体の零よ、ここへ降り立ちたまえ」
蝋燭の炎を見つめて、珠王は呟く。
微かに蝋燭の炎が、妙な揺れ方をする。
豆田とスタッフは、息を飲んだ。炎は妙な動きを続ける。真理は、そんな炎を写す。
ぱき、パキパキと、何処かで音がする。
―ラップ音。ヤラセ演出なのか?
遠子は、音の出処を探した。
その時だった、異様な臭いが部屋に充満し、それと同時に、珠王を映していたカメラの一つが炎を吹いた。その場にいた全員が驚き、珠王に視線が向いた。
「な、なんだぁ」
そのカメラスタッフは、あまりのことに尻餅をついた。
「どうした、なにやった」
呆然としているスタッフに、豆田が言った。
「ひっ」
腰を抜かしているスタッフの代わりに、他のスタッフが、炎を暗幕で叩く。幸い、炎はすぐに消えたけれど、鼻を突く臭いが煙となって漂う。
ライトが点けられ、撮影は中止となる。
「珠王さん。ナニが起こったま解りますか?」
豆田は、汗を拭きながら問う。
珠王は、一点を見つめたまま、黙り込んでいた。
「―変だよね」
ボッソっと、天若が言う。月夜野は、咄嗟に天若の口を塞いだ。
「遠子ちゃん。ナニか解った?」
耳打ちする、花雪。その意味を少し考えて、遠子は頷いた。
スタッフ達の中に、動揺の空気が漂う。
「見て、コレ。凄いよ」
真理は、遠子達に、数枚のポラを見せた。
「なにも写っていない。―真っ赤じゃないの」
月夜野は、写真を見つめる。
写真一面、真っ赤。真っ赤なモヤが掛かっている。その下に、薄っすらと部屋が写っている。
「ヤバいね。これ。ここ、やっていること」
花雪が言う。
「うん。……これだけで、済めばいいけれど」
遠子は、放心状態の珠王を見て言った。
「珠王さん、大丈夫ですか?」
豆田が、何度も呼びかける。何度目かの呼びかけで、ようやく
「え、ええ。あ、あまりにも多くの霊が。そ、それを祓うのに時間がかかって―。ああ、もう大丈夫です。ここには、もういないから。―それにしても、やっぱり場所と日取りが悪かったみたいだから、支障が出てしまったのね」
答える口調は、呂律が回っていない。
「はー。おい、みっちゃん、珠王さんをホテルまで送って行ってくれ」
青ざめている珠王を、スタッフの一人に送るように言った。珠王は、スタッフ二人に支えられるようにして、部屋を出ていく。
「降霊術って、大変なんだな。変な声が聞こえたり、異臭がしたしいてさ」
立ち去る珠王を見ながら、月夜野は言った。
部屋の中は、ゴタゴタしていて、スタッフも焦りが隠せない状態だった。
「君達は、なにか見たか?」
汗を拭き拭き、豆田が問う。遠子は、首を振った。
「なにか、解りませんが。写真全てに、赤いモヤが写っています。よろしければ、差し上げます」
真理は、数枚のポラを豆田に渡した。
「ああ」
写真を受け取り
「すまない、な。また、日を改めてやるよ」
と溜息混じりに言うと、スタッフに色々指示を出していた・
遠子達も、旅館へと戻る。
相変わらず、蒸し暑く重苦しい空気が漂う。
「あーあ。つまんない」
月夜野が言った。
「だね。少しは力があるみたいだったけれど、ビビリまくっていたよ、あの人」
クスッと笑って、天若は言った。
「確かに。ちょっとヤラセかと思ったけれど、違った。珠王は気付かなかったのか、解らなかったのかは、どうでもいいんだけど。人霊ではないナニかが、一瞬現れた。カメラが燃えたのは、ソイツが現れたからだと思う」
遠子は言った。左腕の痛みは、強くなる。
「視える人でも、難しいかも。判るのは人霊では、ないということ。それに、降霊で現れたワケではないということ」
花雪は、難しい顔をして言った。
「貴方達も、視える人なの?」
真理が問うと、三人は頷く。
「このような道を、永いコトやっていると、色々とあるからね」
重い空を見上げて、月夜野は呟いた。
「まあ。色々と、ね」
と。




