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光と時間の狭間で

 夜が明けようとしていた。窓の外から差し込む淡い光が、俺の前に広げられた魔導書のページを優しく照らしている。けれど、俺はまだ本を閉じることができずにいた。


 「魔法と本の歴史」──この世界の魔法体系を解き明かすための貴重な書物。そのページをめくるたび、俺の中で眠っていた何かが目を覚ましていくのを感じる。


 指先でゆっくりと一節をなぞった。


 「光はあらゆる物理法則の根幹にある。光の収束が時の流れを歪めるとき、因果の制御が可能となる。」


 ──これは……。


 脳裏に、前世の研究室の光景が鮮明に蘇る。

 ホワイトボードにびっしりと書かれた数式、特殊な光学流体が満たされた試験管、天井から吊るされた無数の冷却ケーブル……そして、あの装置。


 ルミナスコア。


 前世で俺が人生を捧げて研究した、光と時間を制御し、無限のエネルギーを生み出す装置。もし成功していれば、地球のエネルギー問題を根本から解決するはずだった。だが、最後の実験は失敗し、装置の暴走によって俺自身が命を落とした。


 ──だが、この世界には「魔力」がある。


 地球では成し得なかった研究も、この世界の魔法と融合させれば完成できるかもしれない。魔力は、俺の知る物理法則とは異なる形で存在する未知のエネルギーだ。もしこの魔力を利用すれば、前世で解決できなかった「光の制御」という課題を克服できるのではないか?


 ページを捲る指が震えた。研究者としての熱意が、再び胸の奥底から燃え上がるのを感じる。


 「この世界なら……俺の研究が完成するかもしれない。」


 俺は魔導書のページを再び開き、魔法の理論を読み返した。


 ──光魔法は単なる攻撃手段ではなく、特定の条件下で時間の流れにも影響を及ぼす。

 ──魔力を光に変換し、波長を操作することで、物理的な法則を超越できる可能性がある。


 「光が極まれば時間に干渉する。」


 この一文が、俺の脳内に焼き付いた。


 これは、俺が前世で研究していた特殊相対性理論の考え方と一致している。地球では、光速度に近づく物体は時間の流れが遅くなるとされていた。つまり、光を極限まで制御することで、時間の制御も理論的には可能となる。


 しかし、前世ではその技術を実現できなかった。光子は粒子であり波であるため、完全な収束は不可能だったからだ。


 ──だが、この世界の魔法なら?


 魔力は、未知のエネルギーだ。もし、それが光の波長や粒子性を自在に調整できるのなら?


 前世で俺が解決できなかった「光の制御」問題は、この世界の魔法で克服できるかもしれない。


 光の魔法と時間魔法……この世界の魔導理論を解明すれば、俺の夢は……。


 胸が高鳴る。


 「今度こそ……真のルミナスコアを完成させる。」


 それが、俺がこの異世界に転生した意味なのかもしれない。


 俺は窓の外を見た。朝の光が差し込み、空気中の微細な塵を照らし出している。


 ──光はそこにある。

 俺がこの世界に転生してなお、ずっと追い求めていたものが。


 俺は拳を強く握りしめた。


 「異世界の魔法を科学的に解析すれば、ルミナスコアの原理を再構築できる。」


 これは単なる夢物語ではない。

 魔法は、科学と融合することで新たな理論体系へと昇華できる。

 俺が生涯をかけて追い求めた答えは、この世界にあるかもしれない。


 その可能性に、俺の胸は熱く燃え上がった。


 ──科学と魔法の融合。

 それこそが、俺の新たな研究のテーマとなる。

 ──コーシー、聞こえるか?


 頭の中に響く、機械的でありながら馴染み深い応答。


 「通信接続を確認。システム起動完了。ご命令を。」


 コーシー──前世で俺が開発した高性能AIアシスタント。

 量子演算を駆使し、研究データの解析やシミュレーションを行う存在。


 「コーシー、ルミナスコアの理論について再確認したい。」


 脳内に展開される、馴染み深いデータ群。

 ホログラムのように思考の奥へと流れ込み、前世の研究室の映像が鮮明に蘇る。


 「ルミナスコア──正式名称:光量子無限エネルギー装置。

 理論概要──光の収束と安定制御により、エネルギーの無限循環を目指す。

 前世における問題点:光の制御不全、および時間干渉の不安定性。

 エネルギー損失が閾値を超え、装置の暴走を招いた。」


 俺は頷く。


 ──やはり、根本の課題はそこだ。光の収束と安定制御が鍵となる。


 前世でのルミナスコアは、光を極限まで圧縮し、封じ込めることで無限のエネルギー場を作り出す装置だった。しかし、光は完全に閉じ込めることができなかった。


 微細な波長のずれが連鎖的に拡大し、やがて制御不能のエネルギー暴走を引き起こした。

 その結果、俺は死んだ。


 だが、この世界には──魔力がある。


 もし、魔力が光の特性を自在に変化させることができるなら?


 俺の考えを察知したのか、コーシーが次の解析を開始する。


 「魔力の物理特性に関する解析を実行するには、サンプルデータが必要。

 魔力の波長パターン、エネルギー効率を収集し、光量子制御との相関関係を比較解析可能。」


 ──魔力。


 それは、この世界の住人が当然のように扱う未知のエネルギー。

 地球には存在しなかった、もうひとつの変数。

 前世で不可能だった光の収束が、魔力の干渉によって可能になるかもしれない。


 「魔法と科学が交差するこの世界なら、前世で解決できなかった光の制御問題に突破口を見出せるかもしれない。」


 俺の思考が研ぎ澄まされていく。

 光の波動特性を変える魔法、光を収束させる術式、時間に干渉する術式──

 それらを解析し、ルミナスコアの理論に組み込めば……。


 可能性は、確かに見えてきている。


 まずは、魔法の基礎研究とデータ収集から始めるべきだ。

 未知のエネルギーを解析し、その性質を理解することが最優先。


 俺は深く息をついた。


 「今度こそ……ルミナスコアを完成させる。」


 この世界の魔法と科学が交差する、新たな探求の旅が始まるのだ。

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