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土魔法の応用:空気からの土生成と金属精製への挑戦

手のひらに乗せた土を見つめ、俺は静かに息を吸い込んだ。

ゆっくりと、全身に魔力を巡らせる。

皮膚の下を駆け巡る熱のような感覚が、俺の中の魔力が活性化していることを示していた。


土魔法の基本は「操る」か「生み出す」か。

今回の実験は、既存の土を操り、圧縮することで石を生み出すことにある。


「まずは、圧縮だな。」


魔力を手のひらへと送り込む。

指先がじんわりと温かくなり、空気中の魔力が俺の意思に応じて集まる感覚がある。

それを土へと流し込む。

俺の掌の上にある土が、まるで生き物のように震えながら、ゆっくりと縮まっていく。


「……よし、いい感じだ。」


土の粒子同士が絡み合い、密度を増していく感触。

俺の魔力に呼応するように、土がぎゅっと凝縮され、固まりかける。


だが——


「……っ!?」


突然、石の形を成したと思った塊が、俺の指の間から崩れ落ちた。

まるで砂時計の砂のように、こぼれ落ちた破片が俺の手の甲を撫でる。


「……くそっ、崩れたか。」


握りしめた拳に、苛立ちがにじむ。

力不足なのか? それとも、圧縮の方法が間違っているのか?


「まだやれる……。」


俺は気を落ち着かせ、魔力の流し方を見直す。

さっきは、ただ圧縮することにばかり意識を向けていた。

だが、ただ押し固めるだけではダメだ。

重要なのは、粒子同士の結びつきを強化すること。

適当に押し込めたところで、脆い塊ができるだけ。

なら、魔力で粒子同士の間に強固な繋がりを作り出せばいい。


「圧縮の仕方を変えよう……。」


今度は、魔力を渦のように循環させるイメージを持つ。

土の中に魔力の流れを作り、結晶のような構造を組み立てる。

全身の魔力を手のひらに集中し、それを緻密に制御する。


「……いけるはずだ。」


指先が熱を帯び、再び土に魔力が染み込んでいく。

ゆっくりと、だが確実に、土が硬化していく感触がある。

まるで砂粒が強く結びつき、ひとつの塊になっていくような……


「……今度こそ!」


ぐっと魔力を込めると、土がきしむ音を立てながら凝縮されていく。

わずかに白っぽい光が、土の表面に浮かび上がる。

完全に固まった——


3センチ程度の塊。俺は、慎重にそれを手に取った。


「……っ! これは……!」


先ほどの脆い塊とは違う、明らかに密度の高い石。

握っても崩れないし、指の関節で叩けば、確かな硬さを感じる。

成功した。間違いなく、さっきよりも強固な石ができた。


「よし、やった……!」


じんわりと額に汗が滲む。

ほんの一歩かもしれない。

でも、確実に前に進んでいる。


「コーシー、土を3センチの石に変えるのに必要な魔力は?」


俺は生成した小石を手のひらに乗せながら問いかける。


『解析開始……』


ネックレスの放つ光が微かに揺れ、数秒後に返答が返ってきた。


『推定必要魔力量:50』


「50か……。」


俺の瞬発魔力と同じ数値。つまり、一回の魔法発動で土を石に変えることが可能ということになる。


この石は、建築用の素材としても活用できるし、さらなる精製の基礎にもなる。

だが、俺の目的はただの石ではない。

次は、この石を鉄鉱石へと変換することに挑戦する。


俺は手のひらに乗せた石をじっと見つめる。

しっかりと固まってはいるが、ただの石だ。

鉄鉱石を生み出すには、この中に鉄分(Fe)を生成するか、既存の鉄成分を追加するかしなければならない。


「やはり単なる圧縮では鉄にはならないか……。」


試しに、さらに圧縮してみる。

魔力を注ぎ込み、土の粒子を一層強く結びつける。

石が軋む音を立て、少しずつ密度が増していくのがわかる。


しかし——


「……違うな。」


どれだけ力を込めても、鉄鉱石のような光沢は生まれない。

表面を指でなぞると、ただの石のザラついた感触が指先に伝わるだけ。


「やっぱり……分子レベルでの変化が必要か。」


鉄鉱石は、鉄成分が一定以上含まれた鉱石。

つまり、この石の内部組成そのものを変えなければならない。


俺は深く息を吸い、魔力を細かく制御することに意識を集中した。

手のひらに感じる石の存在をより細かく捉え、魔力で分子を操作する——


だが——


「くそ……うまくいかない。」


指先から伝わる感触が急に変わった。

ほんの僅かにバランスを崩しただけで、石が急速に崩れ去り、指の間から粉となってこぼれ落ちる。

魔力の制御が甘いと、粒子の結びつきが壊れ、全てが瓦解する。


分子レベルでの変化には、膨大な魔力量と精密な操作が必要だ。

だが、俺の現在の技量では、そのどちらも足りていない。


「単なる圧縮じゃダメ……“変化”を促さないといけない。」


俺は拳を握りしめ、別の方法を模索することにした。

もし鉄鉱石が自然界で長い時間をかけて形成されるものなら、それを魔法で再現すればいい。


「時間をかけて鉄を蓄積させる……そういう方法なら?」


俺は新たなアプローチとして、魔力を使って石の内部に鉄を徐々に蓄積させる方法を試すことにした。

すぐに鉄鉱石に変えられないのなら、少しずつ変えていけばいい。


俺は小さな石に魔力を込め、鉄分の割合を少しずつ増やしていく。

一回では変化が起こらなくても、何度も繰り返せば、徐々に変化するかもしれない。


「1回…2回……4回…どうだ?」


慎重に手に取ると、わずかに石の表面に金属光沢が浮かんでいるのが見えた。

指で擦ると、ほんの僅かだが鉄の感触が伝わる。


「成功か……?」


これまでの方法よりも、確実に鉄鉱石に近づいている。

徐々に鉄の純度を高めることができるなら、この方法を突き詰めれば、いずれ純度100%の鉄を作り出せるかもしれない。


「つまり、同じ石に何度も魔法をかけることで、徐々に純度を高めることができるのか……。」


この発見は大きい。

もし時間をかけて加工し続ければ、鉄鉱石の純度を自在に操れるようになる可能性がある。


「コーシー、この石を高純度の鉄鉱石に変えるのに必要な魔力はどれぐらいだ?」


俺は手のひらに乗せた小さな石をじっと見つめながら問いかける。


『解析開始……』


コーシーの淡い光が揺らめき、しばらくの沈黙の後、答えが返ってきた。


『推定必要魔力量:500』


「500か……。」


俺の現在の瞬発魔力は「50」、最大魔力は「300」。

つまり、一度の発動では不可能で、最低でも10回分の魔法を重ねがけしなければならない。


「思ったより消費が激しいな……。」


単に圧縮するだけでなく、分子レベルでの変換が絡むため、膨大な魔力量が必要になる。

このままのやり方では、鉄鉱石を量産するどころか、試行錯誤の段階で魔力切れになってしまう。


「なら、効率的な方法を考えるしかないな……。」


俺は深く息を吸い、魔法の可能性を考える。

土の分子を操作し鉄に変えるこれが可能なら——


「……空気の分子を操作し、土を作れる?」


俺の思考は新たな可能性へと向かっていた。

すでに存在する物質を変化させるのではなく、空気から土を作ることができるのか?


魔力の流れを感じながら、俺は新たな実験へと挑む決意を固めた。


俺は静かに息を吸い込み、周囲の空気の流れを感じ取る。

目を閉じると、肌を撫でる微細な気流、魔力に反応する大気の震えが伝わってくる。

この空間に無数の元素が漂っていることを、俺の魔力が確かに捉えていた。


「空気中の元素を操作し、土を作る……。」


手のひらに魔力を込め、大気中の分子をかき集めるように意識を集中する。

大気には窒素、酸素、微量の炭素やケイ素が含まれている。

それらを組み合わせ、土の分子構造に変換することができれば——


「……来たか!」


目の前に、ほんのわずかながら茶色い微粉が舞い落ちる。

確かに、俺の魔力は大気中の元素を操作し、土の元となる物質を作り出すことに成功していた。


しかし——


「量が少なすぎる……。」

瞬発魔力「50」では空気から鉄を作るのは無謀だな。


手のひらに乗っている茶色い微粉、それは土とは言えないほどの細かい粉。

この程度では、まともな土にはならない。

量を増やそうと魔力をさらに込めてみるが、負荷が大きく、効率が悪い。


「やはり、類似した物質の分子構造ほど変換しやすいのか……。」


大気の成分は土に程遠く、分子操作で土や石を作り出すのは膨大な魔力がいる。

ならば、既存の土を変質させた方が圧倒的に効率が良い。

空気から土を生み出すよりも、地面にある物質を利用した方が現実的だ。


俺は深く息を吐き、次の実験に移ることを決意する。


「それに比べれば鉄鉱石を鉄へと変えるのは簡単なはずだ。」


俺の手の中には、魔法で生成した鉄鉱石がある。

まだ不純物が多く、自然界で採掘されるものと比べると粗い。

だが、ここから純度を高め、鉄そのものへと変えることができれば、俺の研究はさらに前進する。


「鉄鉱石(Fe₂O₃)を鉄(Fe)へと変換するには、酸素を分離する必要がある……。」


通常、このプロセスには鉄鉱石(Fe₂O₃)と炭素(C)を高温で加熱し、酸素(O)を結びつけて除去する。

しかし、魔法でそれを再現できるのか?


俺は鉄鉱石に手をかざし、魔力を送り込む。

分子構造に意識を向け、酸素を無理やり分離させようと試みる。


「……くっ!」


一瞬、鉱石の表面が淡く輝く。

だが、次の瞬間、バラバラと粉々に砕けてしまった。


「くそっっ……!」


俺は荒い呼吸を整えながら、鉄鉱石の欠片を握りしめた。

指先に伝わるザラついた感触。冷たく、だが確かに手応えのある重み。

さっきまでの試みは失敗に終わったが、それでも俺は諦めない。


「……まだ終わりじゃない。」


無理に酸素を剥がそうとしたせいで、鉱石は砕け散った。

魔力の制御が不十分だったせいか、あるいは根本的に方法が間違っていたのか。

だが、鉄成分だけを引き寄せる方法なら、もしかすると——


「いや、その前に……魔力が底をつきかけてるな。」


試しに軽く魔力を込めようとしたが、指先に力が入らない。

意識を研ぎ澄ませば、体内の魔力の流れが鈍くなっているのが分かる。

このままでは、精製どころか次の試行すらままならない。


「コーシー、魔力瞑想で魔力を回復させるのにどれくらいかかる?」


『推定:約30分で50%回復、1時間で完全回復可能。』


「ふぅ……なら、少し休憩しながら回復するか。」


俺はその場に座り込み、深く息を吸い込む。

魔力瞑想の基本は、無駄な思考を排除し、魔力の循環を整えることだ。

意識を内側へと向け、魔力が体内を巡る感覚に集中する。


——ゆっくりと、魔力が戻ってくるのを感じる。


焦るな。急ぐ必要はない。

鉄を作るためには、まず魔力を万全にすることが先決だ。


***


1時間後——


俺は再び立ち上がり、鉄鉱石を手に取った。

瞑想のおかげで魔力は回復し、思考も澄み渡っている。


「今度は……鉄を引き寄せる方法で試す。」


先ほどの失敗を踏まえ、今回は無理に酸素を抜こうとはしない。

鉄鉱石の中の鉄成分にだけ作用させ、少しずつ純度を高めていく。


俺は両手で鉄鉱石を包み込み、魔力を慎重に送り込む。

焦らず、慎重に……


魔力が鉱石の奥深くへと浸透していく感覚。

余計な成分に干渉せず、鉄の粒子だけを集めるように——


「……よし、来た!」


鉄鉱石の表面に、かすかに光沢が生まれた。

手のひらに感じる重みが増し、確実に鉄成分が濃縮されている。


試しに石で軽く叩くと——


カンッ……!


先ほどまでの鈍い音とは違う、確かな金属の響き。


「……成功か……!」


俺は息を整え、鉄鉱石を見つめた。

まだ完全な鉄とは言えないが、確実に進歩している。


「この方法なら……純度を高められる。」


同じ石に何度も魔法をかけ、少しずつ鉄成分を集めていけば——

やがて、完全な鉄へと変えることができるかもしれない。


俺はゆっくりと拳を握りしめた。


「まだまだ、やることは山積みだな……。」


目の前の鉄鉱石を見つめながら、さらなる改良を決意する。

次は、他の物質を生成する段階へ—


俺の研究は、新たな領域へと進む。

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