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初めての火花

魔法の修行を始めて、一週間が経とうとしていた。


毎朝、目が覚めるとすぐに書斎へ向かい、ガルドの本を開く。そして、昼は庭で魔力の制御を試み、夜は書物の理論を頭に叩き込む。そんな日々を繰り返していた。


結果は、何も起こらない。


俺は魔法を「理解」しているつもりだった。魔力マナとは何か。どのように感知し、制御するのか。本に書かれた基礎知識はすでに覚えたし、論理的に考えれば、魔法の発動メカニズムはそこまで複雑なものではないはずだ。


それなのに──俺の手のひらには、何の変化もない。


「やっぱり、俺には魔法の才能がないのか?」


その疑念が、頭をよぎる。


運動が苦手だった俺は、昔から「感覚」に頼るものを避けてきた。


体育の授業では、どんな競技でも後れを取った。球技では動きが遅れ、反射神経が鈍いせいで、ボールを取れないことも多かった。そのたびに、周囲の笑い声が耳に突き刺さる。


「お前、どんくさすぎだろ」

「ほらまたミスした!」


そんな言葉を浴びせられるうちに、俺は「感覚」に頼ることを完全に拒絶するようになった。感覚が必要なものは、自分には向いていない。ならば、俺にできるのは「理論で補う」ことだけだった。


──そうして、俺は科学の道へ進んだ。


計算とデータは、裏切らない。感覚に頼らずとも、理論と数式があれば、何事も制御できる。 そう信じて生きてきた。


だが、魔法は違う。


書物によれば、魔法の発動には「魔力を感じる」ことが必要不可欠らしい。それは、数式ではなく「直感」で理解するものなのか?


──そんな曖昧なもので、本当に制御できるのか?


焦燥感が、じわじわと胸を締めつける。


「俺には魔法の才能がないのか………?」


魔法の才能がなければ、この世界で生き抜く道は狭まる。ガルドやエルダのように魔法を自在に操れなければ、俺はこの世界での居場所を見つけることすらできないかもしれない。


それでも、俺は諦められなかった。


「何事も基礎の積み重ねが重要」


前世の研究でも、何百回、何千回と失敗を繰り返しながらデータを集め、理論を組み立てた。ルミナスコアの開発も、一朝一夕でできたわけではない。


ならば、この魔法の訓練も同じだ。


俺は「感覚」で魔力を捉えるのではなく、「論理と試行錯誤」で魔法をものにする。


魔法が発動しない原因を、俺は徹底的に分析した。


まず、魔力を感じること。


最初の数日は、自分の体の中に「何か」があることすら分からなかった。だが、呼吸を整え、体の内側に意識を向けると、わずかに違和感を感じるようになった。それは、心臓の鼓動とは違う、かすかな波のような感覚だった。


──これが、魔力なのか?


本には「魔力を流す」と書かれている。しかし、「流す」とは具体的にどういうことなのか? 俺は前世の知識を応用し、エネルギー制御の観点から魔力を分析することにした。


「電気の流れを制御するように、魔力を流れやすい経路を作ればいいのか?」


「それとも、圧縮して一点に集中させればいいのか?」


試行錯誤を続けるうちに、魔力を「動かす」感覚が少しずつ掴めるようになってきた。そして、魔力を指先に集めることには成功した。


だが、そこからが問題だった。


魔力を集めても、何も起こらない。


俺はさらに思考を巡らせた。魔法の本質は、エネルギーの変換 だ。ならば、火の魔法を使うためには、魔力を「熱」に変換しなければならない。


俺は次のステップとして、指先の魔力を「圧縮」し、「熱のエネルギー」に変換することを試みた。


──熱を生み出せ……燃えろ……!


パチッ──!


指先で、小さな火花が弾けた。


「……!?」


驚きと興奮が同時に押し寄せる。


今のは……間違いなく、魔法の発動だった。


俺は息を整え、もう一度試す。再び魔力を指先に集め、「圧縮」し、「熱を生む」イメージを強く持つ。


パチッ。


今度は、はっきりとした火花が見えた。


──やった……!


魔力を感じることさえできなかった俺が、ついに火花を生み出せるようになった。


感覚に頼らず、論理と試行錯誤でここまで来た。この方法なら、俺は魔法をモノにできる。


火花を生み出せた。だが、これではまだ「魔法」とは言えない。次のステップは、火を持続させること。


俺は本の次のページを開いた。


「初級火魔法の実践――小さな炎を灯す方法」


火花は生み出せたが、まだ「火」とは呼べない。魔法の本質は、単なる発火ではなく、エネルギーの安定制御にあるはずだ。


「ここからが、本当の戦いだ。」


俺は拳を握りしめた。


この世界の魔法を、俺は科学的に解析し、体系化する。前世で果たせなかった夢を、この世界で成し遂げる。


そして、その第一歩を、俺は今、踏み出したのだ。

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