スプーン曲げ茶屋
今日から大学の学校祭。
『超能力研究同好会』とパソコンで出力してテープで貼り合わされた看板の下をくぐれば、そこは超能力研究同好会の展示教室だ。まあ当たり前か。
受付は冴えない男子学生二人。
教室にはテーブル席が四組。
ワンドリンクオーダー制で、マドラー代わりのスプーンを曲げて楽しむというのが超能力研究同好会のアイデンティティーというやつだ。
「本当に曲げていいの?」
と、尋ねて来る人には、
「スプーン曲げを得意としている部員が直すのでご心配なく」
と、にこやかに返す。
「てこの原理で曲げられるんだ」
「俺は力ずくで曲げてやる」
と、意気込む人には、例えスプーンを曲げられたとしても心の中で苦笑い。
「この大学は工学が強いから、実習か何かで曲げにくい素材でスプーンを作るの
も容易いのだろう」
なんて、難癖を付ける輩にも苦笑い。
「本当に曲げられるのか」
と、聞かれたならば、その場でスプーンを曲げて見せる。
それでも何らかのトリックがあると疑う人は存在する。
というか、疑っていない人なんかいないんじゃないと思う。
「そんなに疑ったり見破ったりしたいのなら、奇術部の出し物でも見に行けばいいのにな」
学祭一日目、最後の客を見送った俺は受付席で盛大にため息を漏らす。
客に曲げられたスプーンは全部で二十本ちょっと。
「このうち何本が力任せに曲げられたのやら」
もう一人の受付担当の上野が回収したスプーンの一つをつまみ上げ、柄の部分を螺旋状に曲げてやる。
「こんなのをたくさん作って展示しても、工学が強い大学云々だろうな」
「そうだね」
そう、俺が『スプーン曲げを得意としている部員』だ。
スプーンを全てビニール袋にまとめ、鞄に押し込める。
今夜はバラエティ番組でも見ながらスプーンの修繕三昧だ。
「ま、バレて騒ぎ立てられるよりはいいのか。本当、スプーン曲げっておあつらえ向きだよ」
俺はポケットから木製のスプーンを取り出す。
そして、ぐにゃぐにゃに曲げてやる。
超能力研究同好会は、本当に超能力者が集う、由緒正しい同好会なのだ。