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転生少女は愛猫と、異世界霊を成仏す  作者: 五菜 みやみ
第一章
7/12

第6話 共感


 

 蝉が殻を割って羽化するように、目の前の蜘蛛も前足を使って腹部から出てくると、倒れた蜘蛛の上に全身が乗って姿を現した。

 さっきと違うのは細かい黒毛で覆われている腹部や頭胸部は黄色のドット柄が目立っている。そして、頭部には上半身だけの男の子がくっついていて、目が覚めてないのか蹲っていた。

 ただでさえ爬虫類で不快感があるのに、その小蜘蛛は見ているだけで鳥肌が立つくらいだ。


〈ウソだろ……〉


 ふと聞こえた男性の声。未だ立っている冒険者たちを見渡すと、囁いたのはモートンだったらしい。

 開かれた口から魔物の名前が知らされた。


雷光の蜘蛛ライトニングタラテクトじゃないか……!〉


〈ッ──! モートン、頭を狙うぞ!!〉


〈あぁ。雷撃と毒牙に気をつけろ!〉


 二人が剣を構えると小蜘蛛は瞬きをする間に姿を消した。直後、ネロの悲鳴が響く。

 ネロを見ると目の前に消えた小蜘蛛がいて、尖った爪が右肩を突き刺していた。

 刺された部位から着ていた服を真っ赤に染めて上げていく。

 そして、ネロの身体から小蜘蛛が爪を引き抜かれると、鮮血が飛び散った。

 気絶していたネロは支えをなくして倒れる。動かないネロの様子に小蜘蛛は興奮した様子で奇声を上げた。

 それはまるで人を刺した感覚を喜んでいるかのようで、身体の向きを返るとモートンのもとへ襲いかかった。

 口を大きく開けて牙を向くと、またも一瞬で姿が消えてモートンの目に前に現れる。

 その刃先から紙一重で後ろへ避けると、着地した瞬間に身体を低くして突進して行き、顎の下へと身体を滑り込ませる。それから、構えていた剣で切り裂いた。

 暴れ出す小蜘蛛にモートンは素早くその場から離れる。

 すると、いつの間にか浮かんでいた小さな岩や砂の塊が、後ろから小蜘蛛の腹部や頭胸部へと飛んでいった。

 小蜘蛛はそんなことも気にせずに跳ね上がり、モートンを狙って走り出す。

 モートンは木の影に身を隠しながら逃げ回ると、小蜘蛛も森へと入って行き。その勢いは止まらずに木へと何度もぶつかっていた。

 途中で張り巡らされている糸もモートンは避けながら走ると小蜘蛛は気にもせず身体を引っかけながら追いかける。

 その内、小蜘蛛の身体は糸で絡まり千鳥足のように暴れだす。

 モートンはその隙を逃さずに身体を切り裂いて、一歩の後ろ足を切り落とした。

 すると、小蜘蛛は鳴き声を開けて毛を固くし、毛先から稲妻が放たれた。

 モートンは慌てて小蜘蛛から距離を取ると、絡まった糸を電撃で溶かしている間に、急いでセリグのいる場所へと戻って来る。

 しばらくすると、森から爆発音が轟き蜘蛛がゆっくりと姿を現した。その様子は弱っているようにも見え、セリグが魔法で火柱を上げると、小蜘蛛の全身から灰色の煙りが立ち昇った。


 ──あれ? やっつけられそうじゃん。


「ならどうして……」


 そう思いながら、とどめを刺そうと小蜘蛛へモートンが近寄って行くのを見ていると、私は突然の逆転劇に驚くことになった。

 小蜘蛛の腹部へ上がると頭胸部の方へ進み、「はあぁぁ!!」と声を上げて、目玉に見えていた黒い宝石へ剣を突き刺そうとしたその時──。

 腹部の方でバチッバチッと雷光が光り、空から雷が落ちた。

 ──ドンッ!!

 落雷はモートンに直撃し、静かにその場に倒れる。そして、小蜘蛛の身体から滑り落ちた。

 剣も一緒に落ちて側に転がった。

 何が起きたのか目を疑う出来事に、私は呆然とする。

 それはセリグも同じだったようだ。小蜘蛛がぎこちなく動いても、その様子をただ立って見ていた。

 セリグが動き出したのは小蜘蛛が数歩前進してからだった。残った足がモートンの上半身を貫くが叫び声は上がらず、グシャと言う音だけが響いた。

 セリグは一歩、また一歩と後退して行く。対して小蜘蛛はゆっくりと前に進む。

 数歩下がった所でやっと現状を把握したのだろう。セリグは絶叫を森へと響かせて後ろへ走りだした。

 けれど、逃げ出すセリグを捕らえるように地面に落ちていた糸が足の裏へと張り付いた。

 糸に捕らわれた足は離れず、セリグを転ばせた。

 その間にも小蜘蛛はセリグのもとへと近寄り、距離を縮めて行く。

 混乱状態に堕ちていたセリグは足を離す方法よりも、小蜘蛛を倒すことを選び、土魔法や炎の魔法で抵抗した。

 けれど小蜘蛛は足を動かすことを忘れず、セリグの目の前までやって来た。そして、ゆっくりと口を開きセリグの頭を呑み込む。

 私はそれ以上見られずに視線を外すと、セリグの叫喚の言葉が耳に入ってくる。


〈く、来るな! あ、ぁあ……。 や、やめ──!!〉


 ──ゴキッ!!

 一つの砕く音を最後に静寂が辺りを包み込んだ。

 私はひゅっと息を呑んでいた。


「──……あぁぁぁ! もう見たくないよ! いつになったら終わるのっ!」


 他人の死を見ていた私の身体は爪先まで冷えて震えている。

 幻影は終わる気配を見せず、何故か夢の中に囚われたままだった。

 その後、森から何かを咀嚼する音が聴こえ出す。

 その“何か”なんて分かりきってる。

 出来るだけ見ないように辺りを見渡すと、静かなままだ。


「どうなってるの……?」


 パーティーは全滅した。続きなんてあるはずがない。

 ──なのに、散らばった死体を見て違和感を覚えた。

 その違和感が何かを探っていると、小蜘蛛の食事をする音に混ざって、一人の大地を駆ける音が重なっていることに気づいた。

 その音の在り処を探すと、獣のような咆哮と共に小蜘蛛を頭上を赤い閃光が走る。 

 ガッ────!! 

 小蜘蛛の身体を刺す音に私は頭を見つめると、ネロが剣で頭部にいる人形の背中に付いていた、鈍く光る黄色い宝石へ突き刺しているのが見えた。

 頭を振るように暴れる小蜘蛛。その振動にネロは右肩から血を撒き散らしながらも耐え続け、咆哮を上げながら更に奥へと突き刺した。

 小蜘蛛が静かになった所で剣を抜く。

 それからふらついた足取りで腹部まで下がると、止めの一刺しだとばかりに、叫び声を上げながら腹と頭の繋ぎ目を狙って飛び降りると共に剣を振り下ろした。

 身体が落ちる重力を使いながら、剣先は毛に覆われた小蜘蛛の身体を切り離し地面に達した。


「ッ……!!」


 以外な雷光の蜘蛛ライトニングタラテクトと5人の冒険者の結末に言葉を失う。

 その後もネロの様子を見ていると、剣を杖のように動かしながらユーグの傍らに歩み寄って膝から崩れた。

 隣りに寝転ぶように仰向けになると空を見上げる。そして小さく唇が動き何かを呟いた。


〈いつか、一緒に────〉


 傍観していた私はその言葉に、──ネロの瞳に意識が引き込まれる感覚がして、目眩が起きた。

 触れていた翠の柔らかい毛の感触が消えて、落下する風の空圧を変わりに感じた。

 目映い光が視界を覆って目を眩ませる。

 眩しい光にしばらく目を開けなかった。

 やっと光が和らいでくると、瞼を上げる。

 神様がいたような真っ白な空間に私は存在していた。

 身体が軽いのは浮かんでいるからだろうか。


「ここは、どこだろう……」


 観察していると、四角く切り取られた映像のようなものが背後からやって来て、動画のように流れ出す。

 写り混んだのは布で覆われた小さな建物が並ぶ町の中で、端から一人の少年が現れる。そして、枠の上へと手が伸びた。

 どうやら誰かの視界みたいで、少年に頭を撫でられているのが分かった。

 笑っていた少年の顔を見ていると既視感を覚える。

 少年が誰なのか思い出せずにいると、もう一つ映像が現れて成長した少年が剣を持って立っていた。

 その姿にさっきまで傍観していた冒険者の一人、ユーグだと気付く。

 今度の映像は綺麗な服装をしたフィーネが登場し、立派な家の前で待つセリグに出会った。そして、最後に四人で酒場へ向かった先に旅のモートンと出会ったらしい。

 その映像はどれも楽しそうでみんなが笑っていた。

 私も思わず笑うと、ふとネロが登場していないことに気付いて、やっと誰の視線なのかが分かった。


「これ、全部ネロの記憶?」


 映像に目を向けると直ぐに映像が一つ一つ薄れ行き、真っ白だった空間が、パッと明かりが消えたように真っ暗になった。

 急な展開に私はびっくりして周囲を見渡すと、暗闇には何もなく心細くなってくる。

 しばらくすると、背後から朱い光が灯って後ろを振り返った。


「うわぁッ……!?」


 誰もいない空間。そこに、突如現れた一人の存在に驚いて後ずさる。

 ローブに付いているフードを目深に被ったその人は性別も年齢も分からなくて、ただ一本の蝋燭を持っている手は男性ぽい印象を受けた。

 火が揺れて明かりが広がると、いつの間にかどこかの墓場に景色が変わっていた。

 仮に男性の目の前には誰かの棺桶が置かれていて、男の囁く声が聴こえた。

 一種の呪文みたいに唱えると、棺桶に向かって見たこともない印を空中に書き出した。

 揃えた人差し指と中指の二本の指先から青い光が漏れ出すと空に刻印を描き、やがて魔法陣の様な物が出来上がった。

 その魔法陣の中央をタッチするように指先で押すと、刻印は棺桶へ刻み込まれ一層輝きを放って黒くなる。


「……これが封印…………」


 ボソリと呟くと今度は女性の声が聴こえた。

 男性が振り返る先、後ろに綺麗な女性が微笑んで立っている。

 女性がもう一度、口を開く。


「────」


 短い言葉は聴こえず、まるで私を呼んでいるような気がしたものの、何処かからか発生した濃い黒霧に視界が奪われ、また暗闇に包まれていた。




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