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転生少女は愛猫と、異世界霊を成仏す  作者: 五菜 みやみ
第一章
3/12

第2話 死霊

一人と一匹。

異世界サバイバル生活の始まりです。


 ビュオォォォォォ!!

 風を切る音が聴覚の支配するように爆音となって聴こえている中、私は二回目の死が訪れようとしていた。


「これ、どう着地すれば良いのよ……!!」


 楽しんでと言ったからにはやすやすと死なせないと思うけど、流石にこのまま落下したら生きてないだろう。

 まぁ良いや。神様がどうにかしてくれるでしょ。

 そう思っても空から落とすなんてどうかしてると思いながら、恨めしい気持ちで落ちて来た空を見上げた。

 神様だと言うなら少しの無礼くらは見逃して欲しい。

 こっちは神様の礼儀作法なんぞ知らないし。実際問題、本当に神様なんかも怪しくて仕方ない。


「今なら多少信じても良いけどさぁ、怪しいやつだと思わない?」


 翠に尋ねると、ニャァンと一つ鳴いた。


「え、本当? うーん……。翠がそう言うなら信じるけどさぁ」


 翠が答えてくれるものの、私は猫の言葉なんて分からない。全部、盛大な独り言である。

 旗から見たら頭の可笑しい奴だと思われるに違いない。

 けど、否定の鳴き声を上げない翠の様子からして、解釈の仕方は合っているのだと思う。

 一緒にいるから分かるなんて言わない。全て当てずっぽうである。


「でも、どうしよう。そろそろ地上だよね? 本当にヤバイよね? この速度で落ちて潰れない!?」


 私はこのまま落下した時の想像をして、冗談抜きに泣きそうになった。

 交通事故でワケの分からない内に死んだ時の比ではない恐怖が身体を強張らせる。

 どうしようかとぐるぐる悩んでいると、翠が腕の中でもぞもぞと動き目を合わせて来た。グルルと甘えた声で鳴く。

 それの鳴き声に私は大分落ち着いて冷静になると、目を閉じる。

 今出来そうなことを考えていると、お腹の辺りに熱を感じた。

 これに似たような熱を私は知っていて、あることを思い出す。これに一縷の望みを託すしかない。

 深く息を吸い体勢をうつ伏せに変えると、下には森が広がっていた。どんどん近づいてくると、木々の隙間から黒い地面が見える。

 未だに消えない恐怖心を抱えながら、一言呟く。


「──浮け」


 良く知りもしない熱の感じる何かの力に命令した直後。木の葉の先に身体が触れる直前に、ふわりと優しい風が包み込み、風圧が消えて身体を動かくことが出来た。

 右手で翠を抱いて、左手と真っ直ぐ真横に伸ばし、足を軽く開く。


「よっと……」


 地面に着く頃に風がやんで、立った状態で着地した。


「流石、私!」


 ドヤ顔で決めポーズをしながら自分で自分を褒めると、翠は嬉しそうに鳴いた。翠を撫でると頭の中に響く感じで頭上から溜め息が聴こえてきた。


〈はぁ……〉

 

「え!? 何これ……!?」


 上を向くと快晴の空が葉の隙間から覗いている。

 まるで頭の中で響いてるような不思議な現象に驚いていると、溜め息をついた神様がつまらなさそうに話した。


〈全く、嫌みな奴よ。手を貸して揶揄ってやろうと思ったのに〉


「はぁあ!?」


〈そう怒るでない。言い忘れてたことがあったから教えてやろうと思ってな〉


「まさか魔法が使えるとか言うんじゃないでしょうね!?」


 事故に巻き込まれる前の記憶に太陽の熱を感じていた時に魔法が使えたらと話していたけれど、その記憶がなければ魔法が使えかもなんて一ミリも思わなかった。


〈フフッ。そのまさかだ。ほれ、この世界の教本をやろう。暇な時に読むが良い〉


 神様が言い終わると、目のに光の集合体が現れて、形が四角い物に変わっていった。

 そっと触れると、パッと光が弾けて一冊の本が現れる。


〈書かれてないことは、自分の目や耳で知っていくと言い。どうしても聞きたいことがあれば、私を見つけるのだな〉


「は!? 見つける?」


 それって、どう言う……。

 疑問に思ったものの聞き返さずにいると、神様は最後に「ではな。また会えるのを楽しみにしてるぞ」と言い残して、声は聞こえなくなった。


「ちょっと神様!? 神様ぁー!?」


 呼びかけても返事がないことを考えると、念話みたいな神様の声はもう聞こえないようだ。


「全く、また会えるのをって……」


 どこに神様がいるって言うの、よ──。

 ……あぁ。そう言うことね。

 日本で神様に会えるのは神社や祠。つまりそう云う場所がこの世界にも存在しているのだろう。

 魔法が使えると言うことは西洋ファンタジーみたいな世界なんだろう。そしたら、どこかに教会や神殿があるはずだ。

 まぁ、本当に漫画みたいな話しが実在すらならだけど。


「よし、良いじゃない。絶対に見つけて文句を言ってやるんだから!」


 まってなさい!!

 心の中で意気込むと、私は翠を抱え直して周りを見渡した。

 なんの変哲のない普通の森のように感じるが、冷たい冷気のような風を感じる。


「…………」


 ふと神様が言っていた死んだ人の魂がどうのと言っていたのを思い出し、薄暗い森の中が怪しく感じた。

 これからどうしようかと動けずに固まっていると、翠が身動ぎ腕の中から飛び出す。


「わっ! どうしたの?」


 綺麗に着地して地面を嗅ぐ翠。

 何かが聴こえたのか耳をピクピクッと小刻みに揺らして、ある一点を見つめる。


「翠……?」


 何か見つけたのかと同じ方向を見ると、森の奥深く、木々の隙間から何かが行き交うのを見つけた。

 じっと見つめていると、それがなんのなのか分かった気がして、身体が硬直する。


「ッ……!!」


 人の形をした黒い影のような気味の悪い何か。遠くだから輪郭でしか判断が出来ないが、まるで彷徨っている人間みたいに木々の間を行き交うアレは、神様が言っていた者で間違いないだろう。

 昔から犬猫は人ならざるものを見るとも言うし、霊感を持たずに生まれた私に神様は授けてやるとも言っていた。


「いやいや、怖すぎるんですけど……」


 気を紛らわしたくて声に出したものの、初めて会う未知のものに私は弱気になる。

 地面を擦りながら後退りをすると、翠が身を低くして威嚇の態勢を取った。まるで襲いかかって来るのを察したかのようで、無意識に身体が震え始めた。

 本当にやめて欲しい。そりゃ一回くらい妖怪に会ってみたいと望んでみたことはあるが、亡くなった人に、幽霊に会いたいと望んだのとは一度もない。

 現実世界で死んでからと言うものの、ずっと身の危険を感じるばかりで良いことが一つも起こってないではないか。

 どうしてこうも神経を張り詰めた状況で一日を過ごさないといけないのか。


「とりあえずゆっくり下がろう。翠、逃げるよ」


 翠に話し掛けると、一歩ずつ後退して行く。翠も後ろに下がった。

 数歩下がると草木で何重にも隠されて見えなくなり、私は息を吐いた。


「まさかあれに笛を聴かせろって言うの?」


 冗談じゃない。命が幾つあったとしても近づこうなんて思わない。

 そもそも何を聴かせるって言うのよ。私が覚えてるのなんて、おばぁちゃんに聴かせた童謡の「朧月夜」くらいなんだけど……!


 悪態をつきながら早足で森の中を進んで行くと、視界が開けて来て森を抜けようとした時、背後から物凄い威嚇する声が聴こえて立ち止まった。

 聴こえたのは翠の鳴き声で、「シァァァァ!!」と今まで聞いたことのない威嚇だった。

 慌てて振り向くと翠はまだ鳴いていて、近寄って来てはワンピースの裾を噛んで引張ってくる。


「翠?」


 まるで森から出ちゃ駄目と言ってるようだ。

 何があるんだろと翠を抱いて足場を確かめながら進むと草木の直ぐ先が絶壁になっていた。

 止められずに進んでいたら落ちていただろう。

 何より怖いのは崖下に集まっている黒い獣たちだ。


「なにあれ……」


 全身を紫黒の陽炎で覆わている狼が、何かを食べていた。大きさは通常の倍はありそうで、毛並みは艶を失くした黒い毛が立っていた。

 数はおよそ十数匹はいそうで、夢中で餌に喰らいついている。


「何なのよコレ……」


 耐え切れなくなった心臓が大きく脈を打って、動悸が可笑しくなっていることを知らせてくれる。

 痛み感じる胸を抑えながら私は森の中へ戻ろうとすると、背後からガサガサと音が聞こえて勢い良く振り向いた。

 抱かれていた翠が腕の中で暴れて着地する。

 何かがいる。その気配を翠もちゃんと感じているらしく、威嚇の体勢で耳を震わせていた。


「…………」


 しばらくの間、静寂が辺りに漂う。



 

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