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転生少女は愛猫と、異世界霊を成仏す  作者: 五菜 みやみ
第二章
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第10話 一行

さぁ、行こう。

異世界人に会うために──。



 水面の光が揺らめくのを見ながら伸びをすると、川の水で顔を洗い、昨日食べたものと同じ木の実を収穫して分け合った。朝食を済ませると、さっそく上空から街を目指す。

 街は以外と遠くても見える所にあった。山麓の隙間から覗くその街は砦に囲まれた都のようだ。

 全貌が見えて来ると砦と同じ高さくらいある建物があり、最上階には大きな鐘がついている外観は、前世の教会に似ている。

 そして、街を挟んだ向かいに建っているのが王宮を思わせるような豪奢な建物だった。

 その付近は雑木林で囲まれ、高台の役目をしている塔から見渡す街並みはきっと絶景だろうと思う。


「近づいて見ると城壁もかなり高いね」


 都ではどんな人に会えるんだろう。

 楽しみなようで、街の人たちと馴染めるか不安でもある。


「ネロたちの件もあるし一度ギルドに行かないとだけど、冒険者の人たち信じてくれるかなぁ」


 もし、疑われて敵意を向けられたら……。

 そう想像しただけで、吐き気がするほど緊張する。

 街中で魔法が使えなくなることはないだろうが、いざとなったら飛んで逃げようと頭の中でシミュレーションしていた。

 その時、ふと足元の森の方から声が聞こえた気がして下を見る。とても騒がしい声だった。

 気のせいかな……?

 こんな空まで声が聞こえるなんてないもんね。 

 そう思いつつも地上を眺めていると、森の切れ目から魔物と戦っている集団を見つけた。

 あっという間に通り過ぎていく景色に、慌てて戻るように翠にお願いする。

 上空で観察していると、六人のパーティーが巨大熊三匹と戦っているようだ。

 男の大人でも三倍くらいはありそうな熊に、前世と異世界の違いを感じる。

 戦っている六人は二人体制で対峙し、どうにかおさえているが、致命傷を与えることが出来ずに苦戦しているみたいだ。


「助けてあげようか」


 風を下に伸ばしてある程度の高さまでくると、先に私と翠に気が付いたのは人間たちの方だった。

 とは言え、こっちに気を取られている余裕はなく、襲い来る熊の手を交わしながら私のことを警戒しているようだ。

 熊に襲われない範囲のある程度の高さまで地上に近づくと、最初は『風切り』で様子を見ることにした。

 鋭い風の刃が熊の頭に命中するが、狼の時とは違って浅い傷にしかならない。


「わぁぁ。結構頑丈なんだなぁ」


 助けに入った私を味方だと判断してくれたのか、狙っていた熊と対峙していた二人が距離を取って離れてくれた。

 お陰で遠慮なく魔法を打てる。

 ──じゃぁ、昨日使ってみた火の魔法を強めにして。


「炎の槍!!」


 握り締めた手を力いっぱい振り被ると、大きな長細い炎塊が一匹の熊の胸にドスッと当たり燃え広がった。

 炎に包まれた熊は苦しそうに咆哮し、暴れだす。

 このままだと山火事が起きてしまいそうで、私は熊を囲う周囲の土に集中した。

 けれど、伝わってくる魔力からは手応えがなく、どうにも上手くいきそうになくて、地上にもう少し近づいてから火だるまと化している熊の足元を狙って大地を轟かせた。


「土の山!」 


 ドゴッと地響きが鳴りながら土が盛り上がりると、巨体のの半分ほどの高さまで土壁が盛り上がって足止めをする囲いとなった。

 藻掻く熊が暴走して壊そうとするが、私が作りだした土壁は頑丈だったみたいで、ボロボロと削ぎ落とされるだけに終わっている。

 炙られた熊の咆哮が段々と弱々しくなり、その内に囲いの中で崩れるように倒れた。


「よし! 一匹倒せた」


 動かなくなるまで見守っていた私は、他の熊も倒そうと思って見渡すと、魔法を繰り出して戦う人達の中に木へと飛び乗ってしまうような運動能力が高い少年がいることに気付いた。

 一番年齢が近そうな少年で、巨体の頭まで飛び乗って行く姿に見惚れてしまう。

 そもそも、この世界の冒険者は熟練の動きが感じられる。

 私は怖くて近づけそうにないけれど、剣や大鎌を持った人たちは平然と隙をついて近づき、武器を振り回している。

 そう言えば、『夜の馬』もそうだったな。

 巨大蜘蛛を相手に物怖じせずに戦闘態勢を取っていたのは本当にすごいと思う。

 やっぱり地元の人たちだからかな。見上げるくらいの動物も見慣れていて、殺さないと自分たちが死んでしまうことを何より理解している。

 二つに別れたパーティーは二匹の熊を追い込んで行った。

 筋肉のついた逞しい身体つきの三人の男たちは、見るからにギルドから来たような屈強な戦い方をしていた。

 盾を持った男が熊の爪を防ぎ、その隙に二人が左右から剣や鎌で攻撃を仕掛ける。そして、盾の後ろにいる鎧を身につけた男が魔法で熊の気を反らす。

 一連の動きは崩れることなく、熊の動きを封じて切り傷をつけていく。

 もう一つの集団は少年がいるメンバーだ。

 魔法を使える女性が熊の身体を狙い、国の騎士団の鎧で身を包み高笑いしながら武器を振るう男が熊の両足に狙いを定めて、身軽く動きまわる少年が木や熊の腕を伝って顔に近づくと目や鼻を斬りつける。

 私は入る隙のない連携に邪魔にならないように見守っていた。

 すると、ギルドの男たちが対峙していた一匹の熊が耳をつんざくような雄叫びを上げた。

 低い呻り声は威嚇のようでもあって、身震いしてしまう。

 空中にいるから襲われる危険性はないと思うが、もう少し離れていたい気分だ。

 ──て言うか、もう逃げちゃダメかな。

 怖気づいてそんなことを思っていると、一本の剣が私の横を弧を描いて通り過ぎた。

 後ろでザクッと刺さった音に身震いをしてまう。


「…………」


 こ……、ここ、こっわ〜〜ッ!!

 ごめんさい、逃げたいとか思わないから武器を飛ばさないでぇぇ!

 後ろを振り向くと装飾の入った鍔と柄は価値のありそうなもので、誰の剣か見渡すと視界に入った少年の姿に言葉を失くす。

 陥没した木に背中を打ち付けて、表情はよく見えないが、口からゲホッと吐血し、木から崩れた落ちた。

 死んでないのは立ち上がろうとしている様子から分かるが、衝撃で内蔵を傷つけたのか吐血が治まってない。 

 私は何も言えずに見つめるだけだった。

 騎士と魔法師が心配して少年の名前を叫んでいる声が聞こえて、やっとぼんやりしていた聴覚が戻ってくる。


「セラ様!」


「セラ様、大丈夫ですか!?」


 ハッとしても、いつの間にか冷えて震えていた手は血の気を失って力が入らない。

 すると、騎士の手元が疎かになったのか、少し離れた所にいた熊が前足をついて突進する体勢に変えた。

 騎士も魔法師もそれに気づいて守りの姿勢を取るが、見ていた私はサッと頭が冴える。

 あの人、突っ込まれたら死んじゃう……!

 熊が走り出すのを私は咄嗟に手を動かしていた。


「つ、土壁ッ……!!」


 無意識で使うくらいに、土魔法は身に染みたらしい。

 唱えたと同時、もしかたら手の動きと同じくらいに騎士と熊のいる地面は一枚の大きな壁となって、間に立ちはだかり一人と一匹を隔てた。

 いきなり目の前に造られた壁に熊は止まれなかったらしい。勢いに負けて壁に突進し、砕けてしまった。

 砂埃が舞い、向こう側の様子が見えない。

 足止めになったのか、壁があっても尚勢いを止められなかったのか。

 私が迷っていると、空が真っ赤に色付いた。ゴォと云う音に見上げると太陽のような人を飲み込んでしまうくらいの火の玉が浮かんでいて、吃驚する。

 な、なにあれ……?

 いきなり現れた炎の塊は徐々に落下していき、砂塵の空間へと沈んで行く。視界から見えなる。

 瞬間、砂埃が朱色に染まり、耳鳴りのような爆発音が鼓膜を震わせた。

 そして、静かだった翠がいきなり唸りの声を出し、直後、熱風が吹き荒れ、吹き飛ばされると思うくらい身体が後ろに持っていかれた。


「────ッ!!」

 

 慌てて翠の体毛を掴んだが、暖風にさらけていた顔や腕、更には喉が灼けるような気がして、瞳さえも溶けるような暑さにぎゅっと瞼を閉じた。

 何が起きたのか分からない私はパニックに陥っている中で、ただ呼吸を小さくして藻掻くことに必死になっていた。

 


 

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