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 授業を終えアルバイト先に向かっている最中で、見覚えのある男性を見かけた。学院の敷地内で見ることはあるが、市街で会うのは初めてだったので、声を掛ける。


「あなた――レティシアの付き人よね」

「ん? あぁー……シャシンヤさんか」


 執事服(バトラースーツ)を着た青髪の男性は、一応同い年だが、へらへら笑う雰囲気から貴族らしさは一切感じない。平民の生まれだが、書類上は公爵家子息ということになっているとレティシアが語っていた。まぁ簡単に言うと、レティシアの実家、マニュエル公爵家の養子だ。

 付き人であっても貴族家の人間でないと学院の敷地には入れないから、養子に受け入れたと聞いている。つまり彼は、養子に迎え入れてでも側近に置くほど優秀な人間と言うことだ。


「こんなところで何してるの?」

「ちょいと野暮用でね」

「そ。じゃ、お達者で」


 その返事で絶対に面倒事だと確信したので慌てて離れる。

 彼はレティシアの付き人として学内を歩くことが出来る立場ではあるが生徒ではないし、寮の部屋以外で会うことはなかった。普段はどこに居るのか分からないが、レティシアの傍に居ないということはつまり、私のように彼女に便利に使われている駒の一人であろう。

 そんな彼が、今何をしているか。それを知ってしまえば、私も無関係ではいられない。これ以上面倒事を抱えたくないのだ。レティシアの相手だけで大変なのに。


「うぃー」


 私を止めるつもりは一切なかったようで、背を向け手を振ってくれた。ふぅ良かった、なんとか逃げられたようだ。普段からこのくらい軽いノリで接してくれるから話しやすさはあるし、貴族らしくない軽薄さもあってか、女生徒やその付き人からも人気があるらしい。

 私の好みからは外れているし、よりにもよってレティシアの付き人なので付き人コミュニティでも相当上位に居るらしいが、浮いた噂もそれなりに聞く。


 彼に背を向け歩き出すと、後ろの方から怒声が聞こえてきたけど、聞こえないフリ。

 「よくも俺の婚約者を――」とか叫ぶ男の声が聞こえるけど、私は関係ないし、興味もないし。絶対関わらないと心に決めて、アルバイト先へ向かう。

 彼との出会いは、まぁ最悪だったのだから。それを思い出し、ハァと溜息が漏れた。



「あんた誰?」


 ある日、私がレティシアの部屋で写し絵を作るための準備をしていると、部屋に入ってくる者が居た。

 てっきり先程部屋を出たレティシア本人かと思い扉が開いても目を向けなかったが、その声が聞き慣れない男性のものであったから慌てて振り返った。


「……あなたこそ誰?」


 青髪が目立つ男性だ。制服を着ていないから、恐らく生徒ではない。歳は同じくらいであろうが、私を見る目はまるで獲物を見つけた猛禽類のようだ。


「あんた、お嬢の何?」

「何って……」


 レティシアとはまだ交流して一か月しか経っていない。彼女の依頼でオリーブを盗撮するようになって一か月、ようやく揃った材料を床に並べて複製魔法の準備をしていた私は、確かに見ようによっては強盗の類にも見えたかもしれない。

 ――いや、だからと言って。


「え」


 一瞬で視界から姿を消した青髪の男は、背後から私の首筋にナイフを押し当て、腰に回した腕をぎゅっと締めて低い声で呟いた。


「さっさと名乗れ。3秒以内に名乗らなかったら殺す。返答が納得出来なくても殺す」

「ま、待って。レティシアから聞いてない? ディアヌよ」

「…………誰?」

「あなたのご主人様の依頼で女生徒の盗撮をしてる同級生!!」


 先程彼はレティシアのことを「お嬢」と呼んだ。つまり、彼の立場はレティシアの護衛または付き人、いや格好からすると執事だろうか。

 これまで何度かこの部屋に訪れてもメイド一人しか見たことが無かったから、彼と面識はない。

 が、恥ずかしかろうが何だろうが、今は自分の命が大事である。レティシアの関係を隠すことでもないので正直に答えると、ようやくナイフは首から離され、私は解放された。


 ――離れてようやく見えた。あれ、ただのペーパーナイフだ。首筋に当てても皮一枚切れなかったのはそういうこと。まぁペーパーナイフでも首に刺せば人は殺せるだろうけど。


「なら、あんたがシャシンヤさんか」

「…………何それ?」

「さぁ? お嬢はそう呼んでた。オリーブとかいうのの写し絵を作らせてる女が居るって」

「……そうね、それなら私のことで合ってるわ」


 写し絵を作ることの出来る魔法使いは少ない。複製魔法は特定の血族に連なる者にしか使えない特殊な魔法で、生まれた後で覚えることの出来るものではないからだ。

 私はこの魔法を使って、入学以前から貴族の依頼で写し絵を作る機会があった。どうしてレティシアがそれを知っていたかは教えて貰えないが、口の軽い貴族から聞いていたのであろう。彼女ほど地位の高い者から質問されて答えないでいられる貴族など少ないはずだし。

 どうしてオリーブの盗撮を求められているのかは、もっと分からない。一目惚れかと思いたいが、その割にはオリーブについてそれなりに詳しいようだし、独自の情報網で彼女の動向を見守っていたようである。どっちかと言うと、惚れた相手への行動というより、親が子を見ているような雰囲気だが、まぁ私からするとどっちでも構わない。お金さえ貰えればお客さんだ。


「あれ、マキラだ。もう帰って来ていたの?」


 一定の距離を保ったまま対峙していたところ、何も知らぬ呑気な部屋の主、レティシアが帰ってきた。これほど嬉しい来訪はない。


「ねぇレティシア……」


 私殺されかけたんだけどと言おうとして、これは失言になるなと口を閉じる。

 マキラと呼ばれた青髪の彼もこちらを睨んでいたし、たぶん言わない方が良い。あの状況でいきなり殺しに来る付き人とかガラが悪すぎる気がするけど、レティシアの付き人ならそのくらい過激な人じゃないといけない気はする。


「どうしたんですか? 写し絵、もう出来ました?」

「……まだよ。今から作るわ」

「楽しみですわぁ……」


 彼女が外に出て何をしていたのかと思えば、写し絵の台紙に合わせた額縁を取りに行っていたようだ。それも、大量に。私が今回作る写し絵の、数倍の量がある。


 ――あれ、私しばらく解放されそうにない?


 これからもレティシアから逃げられそうにないことを察し、嫌な汗が流れたのであった。


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