表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

佐賀かおりのショートショート

恋するヒーロー

作者: 佐賀かおり


 ナツは朝もやの中、高台にある公園に走り込んだ。ランニングを中断して眼下に広がる街を見渡す。

 中一の時に引っ越してから十三年ぶりに帰って来た懐かしい街だった。

 耳を澄ました。

 彼女はこの時間が好きだ。

 始発電車が動き出し、眠っていた街が動き出すと色々な音が溢れだす。

 すると背後でも物音がした。

 振り向くとゴミ袋を手に空き缶拾いをしている男性がいた。

 シルバーのマントに漆黒のコスチューム、筋骨隆々の体。


  ヒーローだ


 ヒーローと視線があった。

 細面の顔に下がり眉。

 Ⅱ型だ。

 彼はナツを凝視した。

 「ナツちゃん?」

 「え?・・あっ、マサル?」

 幼馴染(おさななじみ)のマサルだった。


 この星にはヒーローがいた。

 彼等は空を飛び巨大な岩をも砕く怪力で市民を助ける、まさにヒーローだ。

 ヒーローは一般市民の女性と結婚した。

 一般市民といってもヒーローと結婚する女性達だ。モデルや、科学者、女医など粒ぞろいだった。

 そして産まれた子供達は十八歳で成人すると特殊能力が覚醒し、父と同じヒーローとなる。

 


 「で、ハヤト君と会ってるの?」同級生だったモエが居酒屋で言った。

 「ハヤトと会うっていうかマサルの家族、四人に会っているんだよ」

 「いいなー」

 「そう?」

 「変わらないね、ナツは昔からハヤト君にキャーキャー言わない」横からサユリが言った。


 公園で再会してから八カ月、ナツは週に一度はマサルの家にお邪魔していた。


 「だって完全型だよ」モエが言った

 「・・ちょっとトイレ」ナツは席を立った。

 トイレにいるとサユリが入って来て訊いた。

 「どうしたの?」

 「・・完全型って、嫌いな呼び方だから・・」


 ヒーローにはⅠ型とⅡ型がある。

 両者の違いはただ一つ、イケメンか、そうでないか。

 イケメンのⅠ型とそうでないⅡ型。


 マサルの家族は父と兄のハヤトがⅠ型、弟のマサルはⅡ型だった。

 そして人々の中にはⅠ型を完全型、Ⅱ型を不完全型と呼ぶ人もいた。


 サユリが言った。「本で読んだけど七十年前まではⅠ型だけだったんだよ」

 「そうなの?」

 「うん、そこに十パーセントだけⅡ型が誕生するようになった。何故、誕生するようになったのか、それはね」

 サユリは説明しだした。


 それを聞いたナツは言った。

 「ごめん、私、行かなくちゃ」




 ナツは高台の公園で寝静まっている街を見ていた。


 「こんな所で女、独り、危ないだろ」

 振り向くとハヤトがいた。

 「心配してくれるんだ」

 「一応、ヒーローだからな。で、どうするの?」

 「何が」

 「マサルにプロポーズされただろ」

 二週間前、ナツはマサルからプロポーズされ返事はまだしていなかった。

 「俺が口出しする事じゃないけど、あいつ『不完全型』と呼ばれて苦労してきたから幸せになってもらいたいんだ」

 「不完全か・・Ⅱ型が生まれるのは遺伝とか関係ないでしょ。じゃあ、何故、生まれるのか、それはヒーローやその家族が人間らしく生きる為なんだって」

 「人間らしく?」

 「かっこいいヒーローと素敵な奥様、そしてかわいい子供達、判で押したような幸せ家族じゃない、人間臭い家族」

 「確かにウチはマサルはⅡ型でお袋はガッツだけが取り柄の普通のおばさんで、人間臭いけど・・その為に弟が犠牲になるのはおかしいだろう」

「犠牲になっているのはマサルだけじゃないよね・・ハヤトだって」

「俺は犠牲になんかなってないよ」

「じゃあ、なんで私にプロポーズしないの?マサルと結婚させようとするの?」

「それはマサルの為に・・」

「それだけじゃないでしょ・・私を不幸にさせない為でしょ。さっきハヤトの家でおじさんに話を聞いていたの」


 ハヤト達の父、アキラにはⅡ型の友人がいた。

 人々は言った。友人を『不完全』と、そしてそんなヒーローが産まれたのは母親の遺伝子のせいだと・・

 でもⅡ型が産まれるのに遺伝子は関係ない。


 それはいわれのない中傷だった。


 アキラは友人とその母の苦しみを目の当たりにした。

 そして自分は結婚するまいと誓ったのだ。

 もしⅡ型の子供が生まれたら相手の女性を不幸にしてしまう


 だが一人の女性に出会った。芯の強い女性でその強さに()かれた。

 そして、その強さに()けてみたいと思った。


 二人は結婚した。

 女性はハヤトというⅠ型とマサルというⅡ型を産んだ。

 

 ナツは言った。「おじさん、言ってたよ。何があってもへこたれない。ウチで一番強いのは一般市民の妻だって」

 「・・」

 「私、強いよ。おばさんみたいになれる自信ある」

 

 本当はマサルと結婚した方が幸せになれるのだ。もしⅡ型が産まれてもマサルの血を受け継いだと人々は思うだろう。

 でもハヤトは違う。

 Ⅱ型が産まれればナツは・・矢面に立たされるだろう。


 ハヤトと結婚する事が決まれば同級生のモエは羨ましがるだろう。

 でも、もろ手を挙げて喜べるものではないのだ。


 夜空が白み始めた。

 もうすぐ始発電車が走る。

 憂いに満ちたハヤトの整った横顔はナツだけに見せた人間臭い顔だった。

 

 

 


 

 

 

 

 




最期までお読み下さいましてありがとうございました。もしよろしければ『弱小、超常現象研究部』をお読みください。今までの短編をまとめた一話完結の短編集になっておりますので、お楽しみいただけたらと思っております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ