合法的な五股 -2-
「えっと……?」
「ん? 食べていいよ。飲み物は人数分あるけど種類は早い者勝ちね、はいアタシ炭酸!」
「私は水」
真剣な雰囲気を和らげる梓さんの行動と翆の淡々とした声。それに釣られて、それぞれ飲み物とピザを手にした。
「あのさ」
皆が話すよりピザを食べることにした矢先。
「夢と現実は違うよ。夢に出てきた人が現実にもいて、それっぽくなっちゃってるけどさ。夢で付き合ってたから現実でも付き合ってるっていうのは、違う」
梓さんはふざけてるようで心境を察するのが得意だ。特に立ち回りが完璧で、言うべき時と雰囲気を間違えない。
「もっとゆっくりいこうよ。夢の中で抱いた気持ちが現実もあるなら、また付き合えばいい。なかったら、他の男を選んでもいいんだから」
夢の中の梓さんと変わりない気遣いと言葉遣い。人をあやすのに慣れているというか、大人だ。
「……それもそうね。せっかくの親睦会、雰囲気悪くしちゃってごめんなさい」
凛が謝る必要はない。悪いのは俺だ。
夢の中で抱いた皆に対する好意は俺の中に残っている。それは五人同時に存在してはいけないのに、そうなってしまっている。
「まぁ、でも……こんな可愛い女の子達から選べないってんなら、贅沢だねぇ」
ニヤニヤとしながらからかい口調の梓さん。
ここは男として、ずっと考えて心に決めたことを皆に打ち明けよう。
「選ぶなんてできない」
結婚の話を聞いてから二か月、ずっと思っていたこと。
「全員と付き合ってたから分かる。皆は俺には勿体ないくらい良い人達だから、俺は選べる立場にないんだ」
俺は彼女達の誰かと結婚しなければならない。彼女達は俺と結婚しなければならない。
俺はともかく、彼女達の意思を無視した上に、俺に決定権があるかのような言い方がずっと引っかかっていた。
「だから両親の言ってたことはあまり気にしないで、同じアパートで暮らす友達として仲良くしたいと思う。……どうかな?」
すると皆はそれぞれ顔を合わせながら頷き合い、不満が感じ取れる表情。
「そうだね、まずはお友達から! リトくんのことは《《十分》》知ってるけど、皆のことも知りたいな」
「うんうん! アタシもリー君のことは《《ナニからナニまで》》知ってるし、皆とも友達になりたいな~」
「そうね、あたしもリトのことなら《《なんでも》》知ってるし?」
「わ、私だってリトさんのこと《《すごく》》知ってます!」
「リトのこと、私が《《誰よりも》》知ってる」
「「「「「…………」」」」」
バチバチと散る火花の視線。
「えぇ……」
最初は皆と友達になる意思があるのに、後半に至っては俺のことをどれだけ知ってるかという争いになってしまっている。
こんなんじゃダメだ。友達として一歩を踏み出す機会だし、話題を変えよう。