9.革命教団ハナクソを滅ぼせ!
村の入口に看板が立ててあった。
『北村』
北村っていう村なんだ。人の苗字みたい。いや、さっきのビッチョンコ村も人の苗字だったし、実際にそうかもしれないな。
あれ、横に小さく「村」って書いてある。てことは、北村村? 北村さんが村長の村? そんな名前の村があっていいのか? まぁ実際にあるんだからしょうがないか。
さて、ここに餅はあるだろうか。そこにいるおじいさんに聞いてみよう。
『おじいさん、この村にお餅はありますか?』
「モホッ!? モホモホモホ!」
モホっていうパターンもあるのか。
あ、よく見たらこのおじいさん歯が1本もないわ。だからモホモホって言ってんだな。
『きみ、喋れるのかね!』
おじいさんがスケッチブックを見せてきた。このやり取りそろそろ飽きてきたな。
『うるせぇジジイ! あばよ!』
ビッグマックが気を利かせてくれた。ちょっと乱暴だけど、まあ助けてくれたんだしいいか。ありがとう。
あっちの若い女性に聞いてみよう。
『すみません、この村にお餅はありますか?』
「モホッ!? モホモホ!?」
お前もなのかよ。モホ村に改名しろよ。20代くらいに見えるけど、この歳で歯全部ないのかよ。歯磨いてないのか? あれ、でも食べ物食べないから磨かなくていいのでは? じゃあなんで歯が抜けるんだ? なんだこいつら。
『喋れるんですか!? ⋯⋯あなた、旅のお方ですね。私たちを助けていただけませんか?』
必死に私にすがりついてくる女性。いったい何があったのだろうか。そしてなぜ誰も質問に答えてくれないのだろうか。餅あるかって聞いてんだろうが。
『何があったんです?』
ビッグマックが聞いている。
『実は村長の北村さんがある組織に誘拐されていまして、今はそいつらがこの村を支配しているんです!』
涙を浮かべ始める女性。
『ある組織と言いますと?』
『革命教団ハナクソ、という組織です』
おいおい、児童館の遊びに付き合ってるんじゃねーんだぞ! 平均年齢6、7歳の集団か? まったく、こっちはそんな話聞いてる暇ないっつーの。
『ハナクソというのは「歯をなくそう」という意味だそうで、彼らは「どうせ喋れないし食べれないんだから歯なんて全部引っこ抜いてしまおう」という思想を持っているんです。それで私たちの歯も⋯⋯』
だからみんな歯がないのか。児童館みたいな名前に反してやってることが怖すぎるよ。
『なるほど、分かりました。ご協力しましょう』
ちょっと、勝手に承諾するなよ! そんなヤバそうな集団と戦うなんて無理だよ!
『ボク達には健康ナルナールがあるじゃないか! それに、目の前でこんなに泣かれたら断れないよ』
優しいんだな、ビッグマックは。
『あと、もし歯を抜かれたとしてもボクが痛いわけじゃないしね』
最低だった。
『ありがとうございます! 自己紹介が遅れてすみません、私、ウンチンコと申します!』
やっぱ児童館じゃねーか! お前の親は小学1年生か? マジでなんなんだよその名前。ヤバい集団に歯を全部抜かれた可哀想なキャラの名前じゃねーだろ。
『どうされました?』
自覚なしなんだ。どういう環境で育つとこんな風になるんだよ。うちの親がどれだけまともだったか痛感するよ。
『ミッチョンコって名前も大概だぞ』
お前は私の味方じゃないのか、ビッグマックよ。
『早速行くか! あのでっかい建物が多分そうだよね!』
『そうです! お願いします!』
すごい、こんな変な世界にもこんな図書館みたいな立派な建物があるんだ。
さてどうするか。俺のしっこを飲ませるにはどうしたらいいのだろうか。1人1人捕まえて飲ませるくらいしか思いつかないんだけど、どう?
『ワインに混入させよう』
ワイン? この世界って基本的に飲み物ないんじゃないの?
『いや、あそこ見てみ』
おじさんがトラックから酒瓶やらジュースやらを降ろしてる。飲み物どころかトラックもあんのかよ。さっきの村はなんだったんだよ。
俺はウンチンコから借りた教団の服を着て潜入した。ソムリエがあくびをした隙を狙ってしっこを飲ませた。するとしばらくして倒れた。
なるほど、すぐには死なないんだな。10秒はかかるようだ。覚えておかねば。
『君今サラッと人殺ししたけど、なんも思わないの?』
いや、お前が引き受けたんじゃん。俺は仕方がなくやってるだけだよ。そりゃ心は痛むけど、人の歯を抜いて回ってる奴らなんだから死んで当然だろ。
『なんかこわ』
ひどい。
さて、ワインボトル1本に何滴くらい入れればいいんだろうか。適当に50滴くらい入れておけば大丈夫か。多いくらいだよな。よし。
コンコンコン
「モホホ」
ドアを叩いたら中から返事が聞こえた。多分「入れ」って言ってるんだよなこれ。
17人の男女が机を囲んで座っている。16人が横で、1人がお誕生日席に座っている。恐らくこいつがハナクソ教団の教祖だろう。
机にグラスを置いて回り、その後ワインを注いでゆく。
『う〜んなんと芳醇な香り』
『ワインは赤に限りますなぁ』
『早く飲みましょうよ』
皆スケッチブックで会話している。タブレットのある村とかないんかな。
『さぁ、乾杯しましょうか』
17個のグラスをぶつけ合い、「チン」と鳴らす。
『あ、こぼしちゃった。手が濡れちゃったなぁ』
教祖がスケッチブックに書いた。よく見てみると、全員こぼしている。どういうことだ? 毒が入っていると見破られたのか?
『ウンチンコから聞いているよ。村に侵入者が入ったとね。フフフ⋯⋯』
教祖が自慢げに書いた。
ウンチンコだと!?
俺は騙されていたのか? あの涙は演技だったっていうのか? 俺は今からこいつらに歯を抜かれてしまうのか? やだよ⋯⋯やだ! やだぁーっ!
『そうか、よく考えてみたらそうだ! 被害者であるウンチンコが教団の服を持っているのはおかしい! 最初からグルだったんだ!』
ホンマや⋯⋯
じゃあもうダメやん⋯⋯
歯全部抜かれるやん⋯⋯
諦めかけたその時だった。
「モッ⋯⋯!」
えっ?
「モモッ⋯⋯!」
教徒達が次々に倒れていく。
『どうしたお前たち! ⋯⋯モホッ!?」
遂には教祖もその場に倒れた。どういうことだ? 俺は助かったのか⋯⋯?
『もしかして健康ナルナールって触るだけでもアウトなの?』
え? そゆこと?
怖すぎるだろ俺のしっこ。
1滴で1人死ぬって聞いたら誰でも飲ませるものだと思っちゃうじゃん。触れるだけで死ぬなんて思わないじゃん。
てことは、水鉄砲を手に入れたら最強なんじゃないか? 俺。
『そうなるね。強すぎる』
お誕生日席に座っていた教祖を蹴り飛すと、地下に繋がる階段を見つけた。お前こんな不安定なとこに椅子置いて座ってたのかよ。
地下に村長がいると考えた俺は階段を下った。
しっこで人が殺せる時代、来るといいですね!