7.カラフル出血! ベッチャベチャの餅!
『そういえば勇者様』
チンコを見せてきた。間違えた。チンコがスケッチブックを見せてきた。
「なんですか? あと、ミッチョンコでいいですよ」
『なぁミッチョンコ、お前って何が出来るの? 俺は村1番の力持ちゴリマッチョだから戦闘力高いけど』
勇者様って呼ばれるのが嫌だったから名前を教えただけなのに、なんでいきなり馴れ馴れしくなるんだよ。「お前」って言うなよ。
あとなんなの? 「何が出来るの?」って質問。バカにしてんの? なんでどいつもこいつも俺のことバカにするの?
俺に出来ること⋯⋯
あれ、俺って何が出来るんだっけ。
『特技とかあんの?』
くっそムカつくわ。普通にオラオラ系やん。
特技かぁ。
「特に目立ったことはしてこなかったからなぁ」
『全く?』
「いやまぁ悪目立ちはしてたかもしんないけど⋯⋯」
うん、めっちゃ悪目立ちしてたわ。
『なに? 喧嘩が強いとか? センコー殴ったとか? もしかしてヤンキーなの? お前』
「いや、餅が好きすぎて、そのせいでいつも周りを巻き込んでトラブルになって」
『なんだよそれ、酷すぎるだろ。そんなエピソード聞いて喜ぶヤツがいると思ってんのかよ。本当に勇者なのかよお前』
どうしよう、泣きそう。まだ村出てから5分も経ってないのに。つらい⋯⋯
こんなん絶対ずっと嫌な気分で旅することになるやん。なんでこんな怖いお兄さんと旅せなかんのよ。こんなんブラック企業じゃんよ⋯⋯
この村に来るまでは楽しかったのに。しりとりしたり、しょうもない話したり。ビッグマック⋯⋯
よし、引き返してビッグマックを連れていこう! 善は急げ思い立ったが吉日電光石火森羅万象雲湖朕鎮なので俺は村長の家に行くことにした。
「モゴモゴ!」
腕を掴まれてしまった。行かせないつもりか。
『どこ行くんだ』
こっわ!
「村長の家に忘れ物をしたので取りに行くんです」
『何を忘れたんだ』
取り調べかよ。
「餅です」
『嘘つけ! この世界に食べ物はないんだよ! どんだけ餅好きなんだよ!』
「ほんとだもん! 嘘じゃないもん!!」
『トトロかよ』
メイだろ。
ていうか、こいつこの世界に食べ物ないって言った? じゃあ餅もないの? そんなことって⋯⋯
俺は絶望した。餅が食べられないなら生きている理由がなくなってしまう。こいつを信じるわけじゃないけど、嘘を言っているという根拠もない。
『仕方ねぇなぁ、じゃあ俺も一緒に行く。もし嘘だったらお前の目玉をえぐり出して食ってやるからな! 覚悟しとけ!』
もうお前が魔王だろ。
もしかして魔王が人間の姿に化けてるとか? 勇者である俺を警戒して、ずっとそばで見てる作戦とか?
もう何もかも信じられないよ。なんで目ん玉えぐり出されなきゃならないんだよ⋯⋯んもう。
チンコの愚痴を聞きながら村長の家に向かった。相変わらず門番はカラフルな血を流して倒れていた。
『さぁ、餅はどこにあるんだ』
「ここです」
そう言って俺は村長の口を開け、指を突っ込んだ。
『えっ』
こんだけでも1ページ使うんだよな、こいつら。スケッチブック何個あっても足りんだろ。そういえばスケッチブックは誰が作ってるんだろうか。どうやって流通してるんだ?
あった。
超くさい。どうしよう、チョー臭い。
『本当だ、餅だ⋯⋯』
チンコは言葉を失っている。失ってはないか、普通に書いてるもんな。
これを飲み込めばいいんだけど、んー。どうするか。
そうだ、シナモンシュガーかけてみよ。村長の口臭が消えるくらいかけよ。どうせ使う人もいないんだし、全部かけちゃうか。
『お前、それ食うつもりなのかよ⋯⋯人の口から出てきたベッチャベチャの餅を』
さっきまで威勢の良かったチンコが俺に怯えて小さくなっている。ざまみろ。調子に乗ってるからこうなるんだよ。
さて、いただくかね、噛まずに飲み込めば詰まるだろう。シナモンシュガー増し増し餅、いただきます!
「ムエッフエッフエッフ!」
「モゴッ!?」
信じられないくらいむせた。餅がどっかに飛んでいってしまった。
「エッフエッフエッフオゲオゲオエ〜」
あかん、シナモンシュガーが喉に張り付いて、あかん、あかん、やばい、飲み物飲まんと咳が止まらん!
ちょっと待てよ? さっきチンコなんか言ったよな。「モゴッ!?」って言ってたよな。もしかして⋯⋯
『せっかく寝てたのに粉まみれにされて吹き飛ばされて、ボクは今誰の喉にいるんだ! んもう!』
チンコの口から発せられた言葉だった。むせて吹っ飛んでった餅はチンコの口にスポッて入っちゃったのか。
「モゴモゴ!?!?」
チンコは驚いている。そりゃそうだよな、声が出たんだもんな。でもその餅俺のだから。
「ビッグマック、さっきはごめん、お前がいなくなって初めて気づいたよ。俺は1人じゃダメみたいだ」
『いや、ボクのほうこそごめん。バカとか言っちゃって』
「てことなんでチンコさん、その餅返してください」
『⋯⋯えっ!?』
チンコは驚いている。いや、ビッグマックか? これどっちが驚いてるのか分かんないな。
『こいつ、ヤダねって言ってるよ! ボクを返す気ないみたいだ! どうしようミッチョンコ!』
マジかよ⋯⋯
どこまでも邪魔ばっかりしやがる⋯⋯チンコめ⋯⋯チンコという名前のものに対してここまで憎悪を抱いたのは初めてだ。クソが。
『お前は腰抜けだからいつ逃げるか分からないから、ボクを人質として取っておくって言ってるよ。ボクは通訳係だって⋯⋯トホホ』
「どこまでも汚い奴め!」
チンコの太い腕が俺の頭を掴んだ。痛い。
『次なんか言ったらぶっ殺すって⋯⋯』
なんてこった!
『早く行こうかだって。あ、いちいち「だって」って言うなって怒られた⋯⋯これから「だって」は外すけど、ボクの言葉じゃないってことは覚えておいてね。ボクはもう君に酷いことは言わないから』
早くモッチンコを助けてこいつと別れないと! そんな理由で力がみなぎってきた。今の俺なら魔王も倒せる気がする。行くしかない!
いいねっ! 頑張って魔王倒してね! 作者より!




