5.強襲! 口付け! 仲間割れ!
「うめーっ! なんでこんなに美味いんだっ! 誰かちゃんと説明しろーっ! この美味さの原理を説明しろーーーーーっ!!!!」
おっす! 俺はお餅大好きミッチョンコ! 気軽にミッチョンコって呼んでくれ! って言ってる場合じゃねぇんだよ! 餅が美味すぎてやべーんだよ! じゃあな!
「こらミッチョンコ! 夜中の2時に大声出してんじゃないわよ!」
「モゴーーーーーーッ!」
⋯⋯なんだ夢か。夢にまで見るなんて、俺は本当にスーパー餅好きなんだなぁ。
でも、昨日は1個も餅を食べていないのに禁断症状が出なかったな。何も食べなくても生きていける体だからか? だとしたら俺はそのうち餅という存在を忘れてしまうんじゃないか⋯⋯?
『ボクが存在してる限り大丈夫だと思うよ』
そうか、喉に餅詰まってんだもんな。良かった。ありがとうビッグマック、安心したよ。
おしっこしたいな。何も飲んでないのにおしっこはしたくなるんだな。本当に変な世界だ。
『場所分かる?』
分かんない。
『じゃあとりあえず村長の部屋に行って聞いてみる?』
いや、起こすのも悪いから、自分で探そう。
『そうだね』
☆♡☆10分後♡☆♡
やばいやばいやばいやばい漏れる漏れる漏れる漏れる!
『こんだけ探して無いんなら無いんじゃない?』
そんなわけあるか! だとしたらビッチョンコ一族はどこでしっこしてんだよ!
『しない⋯⋯とか?』
ふざけてるだろ!
『いや、干からびてないのがその証拠だと思うんだ。もし何も飲まずにおしっこだけ出るような体だったらいつか水分がなくなってしまうだろ?』
え⋯⋯じゃあ俺は近いうちにカラカラになって死ぬってこと?
『分かんない、もしかしたらおしっこをしても水分が抜けないような体質なのかもしれないし。なんたって呼吸や飲食をしなくても生きていられる体だからね。今更何があっても驚きはしないよ』
やばいマジで漏れる! どうしようビッグマック! 知恵を貸してくれ〜!
『最終手段だ! 外に出て立ちション!』
その手があったか! ありがとう!
俺はすぐに外に出た。さすがに敷地内でするのは気が引けるので、とりあえず門を出よう。
こんな夜中でも門番は立っていた。邪魔だな。門は開けられるけど、あいつらにどいてもらわないと。
『すいませ〜ん、ちょっと通してもらっていいですかね』
門番たちは微動だにしない。
無視してやがんのかコラ。俺は無視されるのが1番嫌なんだよ。
俺は門番の肩を叩いてみた。
反応がない。
おい!
揺さぶってみた。すると、門番はそのまま倒れてしまった。腹が切り裂かれて、緑色の血が出ている。死んでいるのか⋯⋯?
ていうか、この世界の人間は血が緑なのか。俺も緑なのか? めっちゃヤなんだけど。いや、そんなこと言ってる場合じゃない! 侵入者だ! 村長に知らせに行かないと!
ドガーン!
後ろからもんのすごい音がした。多分村長の家が爆発した。爆発してなかったとしてもだいぶやばいことになってると思う。どうする? このまま逃げてしまおうか? ビッグマック、どうすればいい?
『泊めてもらった恩も忘れて逃げ出すようなやつだったのか、君は』
泊めてもらったって言っても、今夜中だからまだ半泊まりくらいだよ。
『見損なったよ』
分かったよ! 家に行けばいいんだろ! 行くよ!
家を見てみると、屋根にでっかい穴が空いていた。村長やモッチンコは無事だろうか。
そう思った時だった。
屋根の穴から人の3倍はありそうなサイズの化け物が這い出てきた。背中には大きな翼が生えている。なのに這い出てきた。飛ぶには狭かったのかな。
人間ではありえないほどの筋肉、体中に走る稲妻のような模様。そして、鋭い爪の生えた両腕。正直中二心をくすぐる見た目をしている。
ちょっと待てよ? 右手に何か持ってるぞ? あれは⋯⋯
モッチンコだ! あいつ、モッチンコを攫っていく気か!
化け物は俺の存在に気付いたようで、こちらを見て口を開いた。何本もの鋭い牙がぎらりと光る。
「モゴモゴモゴ」
お前もかよ!!!
化け物まで何か詰まってんのかよ! いったい何食べたんだよお前。あんなすごい歯があるのに詰まるなんて、相当なものを食べたんだな。スーパーもちもっち餅とか。そんなものないけど。
「モゴモ」
そう言うと化け物は翼を広げ、飛び去っていった。モッチンコが攫われた。
そうだ! 村長は無事か!
『村長ーっ! 村長ーっ!』
俺は必死に村長の名前を呼んだ。あ、名前はUFOだわ。必死に肩書きを叫んだ。
「モ⋯⋯モゴモ⋯⋯」
瓦礫の下から声が聞こえた。そこに村長がいる!
俺は瓦礫を1個ずつどかした。腕が上がらなくなってきた頃に村長の顔が見えた。頭から黄色い血を流している。緑じゃないのかよ。じゃあの門番は何者なんだよ。いや、お前がおかしいのか。
「モゴ⋯⋯! モゴゴゴゴ! モゴゴゴゴ!」
必死に何かを言おうとしている。しかし、スケッチブックもペンもどこにあるか分からない。机には塩と胡椒と醤油とシナモンシュガーしかない。⋯⋯醤油こぼれてるやん。
「モゴ⋯⋯! モゴ⋯⋯ッ!」
涙を流しながら必死に訴える村長。だんだんと顔色も悪くなっていっている。クソっ、どうすれば⋯⋯!
『一か八か、やってみるか⋯⋯』
ビッグマックが言った。
『胡椒を手に持って』
えっ? おい、どういうつもりだ! ふざけてる場合じゃないぞ!
『いいから言う通りにして! 時間がない!』
分かった、信じてみるよ!
俺は胡椒を手に持った。
『村長とキスして!』
ふざけてるだろ!
『早く!』
はい!
俺は指で村長の顎をクイッと持ち上げ、唇を奪った。
「モゴッ!? モゴモゴ!?」
村長は目を見開いている。パニックになっているんだろうな。俺も意味が分からない。
『胡椒を鼻にいっぱいかけて!』
くしゃみをさせたいのだろうか。呼吸もしていないのにくしゃみなど出るのだろうか。
とりあえず言う通りにした。
「モ⋯⋯モ⋯⋯モッゴションッ!」
思いっきり出た。その衝撃で喉の餅が村長の口の中に飛んでいった。そしてその勢いで村長の耳から血が噴き出た。紫色だった。それはおかしいだろ。人によって色が違うのはまだ許せるけど、頭から出る血が黄色で耳からは紫って、それはダメだろ。
『ミッチョンコ! 成功だ! 村長の意思が感じ取れる! 今から通訳するよ!』
「なんだって!?」
あ、声が出た! 久しぶりの混じりっけなしの俺の声だ! なんか泣けてきた!
『おお⋯⋯これは奇跡⋯⋯!』
村長が驚いている。
『ワシはもうじき死ぬじゃろう⋯⋯どうか、どうか娘を救ってくれんかの⋯⋯』
1つ気になったことがあった。
「村長、この世界は平和で、魔王みたいなのはいないって言ってませんでした?」
『ああ、いなかった。初めてなんじゃ、あんなのが現れたのは⋯⋯ただ』
ただ?
『50年前に現れた予言師様が言ったのじゃ、「50年後の勇者が現れた日の夜に魔王が現れ、あなたの娘さんを攫っていくでしょう」と!』
「なんでもっと早く言わなかったんですか!」
『まさか本当に来るとは思っていなかったんじゃ⋯⋯』
初めて俺を見た時と同じこと言ってる。俺が現れたんだからその日の夜の予言も信じろよ。まさかじゃないだろ。予測できただろ。
『娘を⋯⋯頼⋯⋯みましたぞ⋯⋯』
そう言い残し、村長は力尽きた。
『ミッチョンコ!』
死んだはずの村長が喋った。
「生きてるんですか!」
『いや、声帯を震わせて喋ってるだけだよ』
なんだビッグマックか。
『早く取り出して定位置に戻してよ』
えっ?
「なんで? 俺としては普通に喋れた方がいいんだけど」
『それだとボクが乾いて死んじゃうだろ』
「餅って乾くと死ぬの?」
『なんか死ぬ気がする。ボクの直感がそう言ってる』
んー⋯⋯
『何悩んでるんだよ、早くしてよ』
村長の喉に詰まった餅を取り出して、自分の喉に押し込むって、想像しただけで吐きそうになるんだけど。
『1人で旅出来るの? 君バカなんだから、ボクがいないと何も出来ないだろ? 早くしてよ』
なんか腹立つなこいつ。こんなやついなくても大丈夫な気がしてきた。喋れるだけで勇者扱いされるんだ、1人でもやっていけるだろう。よし、そうしよ。
「悪いけど、ビッグマックはここに置いてくよ。連れて行ってもあんまりメリットなさそうだし、なんかムカつくし」
『ちょっと待ってよ! 村長が干からびたらボクも死んじゃうんだよ! 待ってよミッチョンコ! ねぇーっ! おーい! この野郎! 呪ってやるからなぁ! 死ねぇーっ!』
聞こえないふりをして俺は村長の家を出た。
すごい話だな。