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2.こいつ1人目に出会うキャラとして出しちゃダメな奴だろ

「モゴモゴモゴモゴモゴ! (あなたも俺と同じなんですか!)」


 やはり言葉にならない。おじさんは相変わらず不思議そうな顔をしている。お前も同じだろうが。


『しょうがないな、ボクが代わりに喋ってあげるよ』


 どこかから声が聞こえた。辺りを見渡してみたが、誰の姿もなかった。ただ、おじさんが驚いたような表情をしているだけだった。ということはおじさんにも今の声は聞こえたんだな。


『どこ探してんのさ、ボクはここだよ! 君の喉にいるよ!』


 喉に!? 喉っていったら⋯⋯餅!? 餅が喋ってんの!? ちょっと待てよ、この声よく聞いてみると俺の声に似てないか?


『その通り! ボクが君の喉を振動させて声を出してるからね!』


 その通り! って、俺の心の声が聞こえているのか!?


『そうみたいだね! ボクもびっくりだよ! でもそれよりびっくりなのが、ボクが餅になったことだよ!』


「モゴモゴモゴ!」


 おじさんが何か言っている。おじさんの方を見ると、手に大きなスケッチブックを持っていた。


『喋れるのか⋯⋯?』


 と書いてある。


 喋れないけど、なぜか喉の餅が代わりに喋ってくれるんですって言って伝わるかな。分かんないよな。俺も訳分かんないし。


『ボクはこの子の喉に餅として転生したようなんだ。ボクには意思があるから、振動させて声を出すことが出来るみたい。ただ、この場から動けないから多分ボク一生このままだ。ここ死ぬほど臭い』


 おじさんが驚いた顔でスケッチブックに文字を書いている。


『めっちゃ喋るやん』


 おじさん、あんな迫真の顔でそれ書いてたんかよ。


 ちょっと待ってくれ。俺の口の中って死ぬほど臭いの? けっこうショックなんだけど⋯⋯


 そういえばこの餅、転生して餅になったって言ったな。もしかして元は人間だったのか? 人間が餅になるって、どんな気持ちなんだろう⋯⋯動けないってどんな気持ちなんだろう⋯⋯


『いや、元はビッグマックだったから、動けないのには慣れてるよ。ただ、ハンバーガーの王様であるこのボクがこんな餅に成り下がるなんてめちゃくちゃ悲しい』


 ビッグマック!?


 ビッグマックが転生して餅になっただと!?


 そもそもビッグマックってどうやって意思宿ってるの? 餅はまだ1個体って感じだから分かるけどさ。いや普通に考えたら分かんないけど、ビッグマックよりは分かるからさ。


 ビッグマックってバンズとパティとピクルスとレタスとチーズとソースと⋯⋯いろいろ入ってるよね! あと胡麻とか! それで1個のハンバーガーとしての人格があるのおかしいだろ!


 ノーマルハンバーガーの倍以上の大きさで真ん中にもバンズがあるのに人格1つなんだね。


『すげー突っ込むやん。ボクがそんなこと知るわけないでしょ。君は自分になぜ意思があるのかって説明出来る? 人格って細かく言うとなんなの? 説明出来る? ん? ん? ねえ?』


 この餅めっちゃ詰めてくるやん。苦手なタイプや。怖い。


 確かに説明出来ないな。そういうものとして受け入れるしかなさそうだ。


「モ⋯⋯モゴ⋯⋯モモ⋯⋯」


 おじさんがこちらを見ながら涙を流している。⋯⋯モモ?


 おじさんはまたスケッチブックになにやら書くと、俺たちに見せてきた。


『こんなに人が喋っているのを聞くのは何十年ぶりだろうか』


 !?


 もしかして、この世界には声がないのか!?


 なぁ餅、代弁してくれないか? おじさんにこの世界のことを詳しく聞いてくれ。


『あのさ、ボク餅じゃなくてビッグマックなんだけど』


 いや、でも餅じゃん。


『君、名前は?』


 ミッチョンコだけど?


『ボクは君のことなんて呼べばいい? 餅つまらせ男とかでいい?』


 えっ、普通にミッチョンコって呼んでくれればいいじゃん。


『そういうことだよ。変な世界に変な姿で転生してもボクはボクなんだ。誇り高きビッグマックなんだ』


 確かに。納得させられてしまった。全くもってその通りだ。完全にあなたが正しい。


 ということで、俺はこの餅をビッグマックと呼ぶことになった。

 元の世界で餅を見て「ビッグマックだ!」って言ってる奴がいたら頭がおかしくなったのか、お金がなさすぎて幻覚が見えるようになったのかと疑うけど、今回は正当な手続きを踏んで餅がビッグマックになったので変な目で見ないでほしい。


 そういえばこいつ、自分がビッグマックであることにすごい自信を持ってるな。餅に成り下がったとか言ってたし。ていうか、こいつ餅のことバカにしてるよな? この俺の前で餅をバカにしていいと思ってんのか?


『思ってるよ』


 あ? なんだこいつ。ぶっ殺したろうか!


『殺せるもんなら殺してみな。君は餅を殺すことが出来るのか? 餅大好き人間なんだろ?』


 ハッ! そうだ! こいつは名前はビッグマックだけど、餅なんだ! こいつを殺すことは俺には出来ない! クソ⋯⋯!


 んで、早くこの世界のことを聞いてくれよ。ビッグマック。


『ほいきた!』


 ビッグマックって呼んだら機嫌良くなるのね。


『おじさん、おじさん以外の人はどんな感じなんですか?この近くに村とかあるんですか?』


 おじさんは筆を走らせた。


『まず私について質問して欲しい』


 こいつめんどくせえな。


『おじさんは何者なんですか?』


 もしかしたらすごい人だったりするのかな。こういうのって最初に出会った人がけっこう重要なキャラだったりするし。


『私は30年前にこんにゃくゼリーを喉に詰まらせて死んで、気がついたらこの世界にいたんだ。こんにゃくゼリーが詰まったままでね。んでまぁ30年間適当に暮らしてきたよ』


 自分のこと聞けって言っといてなんなんだこの情報のしょぼさは。別にこんなの聞かなくてもストーリー進むだろ。こんにゃくゼリーってそんな昔からあったのかよ。


『で、他の人はどうなんですか? 村とかあるんですか?』


 ビッグマック、ちゃんと仕事してくれるやん。理詰めが怖いだけで、悪い人ではないのかもしれないな。いや、人じゃないか。


『全員何かしら喉に詰まってて、会話は筆談でしか出来ないんだ。村は知らん。この世界では食べ物も飲み物も摂取しなくても生きていけるから、私はこの辺でウロウロしてるだけなんだ』


 こいつ1人目に出会うキャラとして出しちゃダメなやつだろ。せっかく30年もここにいるのにただこの辺をウロウロしてただけって、しょうもなさすぎるだろこいつ。


『恐らく喋ることが出来るのはこの世界で君だけだ。どうかその力を平和のために使ってはくれないだろうか⋯⋯!』


『この世界の平和を脅かすような魔王か何かがいるってことですか?』


『いや、別にいないけど。まぁ今も平和っちゃ平和だね。君が珍しかったからそれっぽいセリフを言いたくなっただけだよ』


 俺要らなくね? おじさんとビッグマックが普通に会話してるだけじゃん。俺要らんよな。


 それにしても、何も食べなくても30年生きられるなんて、この世界はどうなってんだ⋯⋯

 見た感じ植物とかも生えてないし、もしかしから食べ物もないんじゃないか? だとしたら、餅もないのか? もうずっと餅を食べられないのか!? そんなの⋯⋯俺⋯⋯生きていけないよーーーーー!!!! うわああーーーん!!

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