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14.しっこのコーティング!

 いざ魔王と対峙してみると、改めてその大きさに圧倒される。家より大きい気がする。


『さぁ⋯⋯死ぬがいい!』


 魔王はスケッチブックを掲げながらこちらへ走り出した。

 

 死ぬがいいってなに!? 俺殺されるの!? 連れ帰って客寄せパンダにするんじゃなかったの!?


 俺はバトル漫画の主人公のごとく、魔王の攻撃を華麗に躱した。


 はずだった。


 右足の一部が5センチほど(えぐ)られている。


『ミッチョンコ!』


 ビッグマックが心配してくれているが俺はそれどころじゃなかった。今までに味わったことのない痛み。そして恐怖。


 よく考えたら今まで俺は魔王はおろか、一般人とすら戦ったことがなかったのだ。なので、俺が今までにした怪我といえば餅と一緒に炙ってちんちんを火傷したくらいだった。


 足を押さえてしゃがみ込んでいると、魔王が嬉しそうな表情でスケッチブックを見せてきた。


『オワタ\(^o^)/』


 腹立っつ!!!! 手書きの顔文字腹立っつ!!!!


『フフフ⋯⋯次で終わりだ』


 終わってたまるか!


 怒りで痛みが薄れてきた俺はすぐに立ち上がり、ポケットから水筒を取り出した。健康ナルナールをぶっかけてやるのだ。


 魔王の方を見る。いない。


 どこ行きやがっ⋯⋯ううっ!


 腹に鋭い痛みが走ったと同時に、目の前に魔王が現れた。魔王の巨大な爪が腹に刺さっている。腹からは虹色の血が流れている。


『ミッチョンコ!』


 ビッグマック、さっきから俺の名前を呼ぶだけのキャラになっちまってるよ⋯⋯


 それにしても痛い。これ、多分死ぬやつだ⋯⋯


 せっかく異世界転生したってのに数日でまた死んじまうなんて。しかもこんな惨い死に方で⋯⋯


 でもな、俺はタダじゃ死なねぇぞ。この健康ナルナールでお前を道連れにしてやる!


 俺は水筒の蓋を開け、魔王に近づけた。


「モゴッ!?」


 そう言って魔王は水筒を掴んだ。

 くそ、そう上手くはいかないか⋯⋯


『このピンク色の液体はもしや⋯⋯!』


 魔王は驚いた表情で俺を見た。


『なぜお前がこれを持っている! この世界最強の毒薬を⋯⋯!』


 そうか、知ってんのか。ならもう無理だな。勝てねぇわ。俺は魔王に傷1つ付けることも出来ずに死んでいくんだ。


『お前、他になにか隠し持ってないだろうな』


 魔王は俺の着ていた真っ赤なドレスとTバックをビリビリに破り、辺りに投げ捨てた。


『こ、これは⋯⋯!』


 魔王は俺の股間に釘付けになっている。


『まさか、こんなことって⋯⋯』


 さっき王子に婚約破棄されてまた求婚されたマッチョンピも見ている。


『どういうことだ!』


 王子も動揺を隠せないでいる。


 くそ、誰にも見られたくなかったのに⋯⋯


『なんでちんちんがタコさんウインナーになってるのよ!』


 村長の娘が俺にスケッチブックを向けている。


 チッ。


 ちんちんがタコさんウインナーだったらダメなのかよ。そんなに珍しいか! タコさんちんちんが!


『説明しろ』


 魔王が腹の爪をグリグリしながら書いた。

 こんな辱めってあるかよ。


『早く言え!』


 痛い!


 魔王め、容赦ないな。そんなに知りたいのかよ。別に誰のちんちんが8又だろうがお前には何の関係もないことだろうがよ。なんでわざわざ説明しなきゃならんのだ。

 でもお腹痛いからビッグマック、通訳頼むわ。


『分かった』


 それからビッグマックに俺の過去を教えた。そのまま伝えてもらうように頼んだ。


『俺は昔、いじめられていたんだ』


 魔王を含めた全員が憐れみの表情に変わった。お前らもしかして優しいやつらなのか?


『中学2年のある日、俺は担任の女教師に裸にひん剥かれ、ちんちんの先に泡立て器を押し当てられた。担任はそのまま体重を乗せて⋯⋯ということだ』


 皆涙を流しながら聞いている。


『その1ヶ月後、やっと出血が止まった俺の8又ちんちんをさらなる悲劇が襲った。過去に俺が振った女子が、俺を無理やり家に連れ込み、2人で餅を食べようと言って炙り始めたんだ』


 皆床に手と膝をついている。魔王はポケットからハンカチを取り出している。


『餅大好き人間の俺は夢中になってバクバク食べていたんだが、彼女がその隙を狙って俺を縛ったんだ。そしてちんちんを炙られた。それでこんなクルンクルンの8又になっちまったんだ』


 皆わんわんと泣いている。悔しそうに地面を殴る者もいた。魔王は鼻水まで垂らしている。


『お前は立派な男だ!』


 魔王が俺の肩を叩いた。


『だから立派に死ね! これはお前が飲め!』


 魔王は健康ナルナールの入った水筒を俺の口にあて、流し込んだ。俺はもう終わりか。ナルナールで殺された人ってこんな気分だったんだろうか。あっま。ガムシロ飲んでるみたい。あっま。あっまぁ⋯⋯


 ん?


 なんだこれ、なんか力が漲ってきたぞ?


 腹や足の痛みが引いていく⋯⋯


『どうだ? 気分は』


 魔王が悪い顔で聞いている。俺の表情を見ているようだ。


 ビッグマック、なんでか分かんないけど全回復したぞ! 今の気分を魔王に教えてやってくれ!


『フフ、最高だよ!』


『なに!? どういうことだ!』


 俺は水筒に残っていたしっこを頭から被った。全身しっこでコーティングだ! しっこーティング!


『どうだ魔王! これでお前は俺に触れられない!』


『フン、舐めるなよ勇者! 触れずにお前を殺す方法なぞ山ほどあるわ!』


 魔王はビームを出してきた。


 おいおいそんなの聞いてないよ! ビームは反則だろ! また絶体絶命かよ!


 しかし、しっこーティングでテカテカになっていた俺の体は、魔王のビームを反射した。


「モッ!?」


 反射したビームは作中1番可哀想で可愛いキャラであるマッチョンピに直撃し、彼女は炭になった。


『ビームが効かねぇとはな⋯⋯ならばこれはどうだ!』


 魔王は羽根を使ってこちらに飛んできた。肉弾戦をするつもりなのか? 血迷ったか魔王め!


『はぁーっ!』


 俺の目の前でピタリと止まった魔王はスケッチブックに掛け声を書き、複雑な動きを始めた。手で魔法陣を描いているようだ。


 あ、もうダメだ。


 もう漏れる。


 村に入った時から我慢してたからもう限界だ。


 俺は目の前の魔王に構わず放尿した。8又のちんちんからシャワーのようにしっこが放たれる。


「モゴ!? モゴーーーーッ!」


 魔王が悲鳴を上げた。俺のしっこがかかったからビックリしたのだろうか。

 そういえば俺のしっこ、健康ナルナールだったな。これ魔王死ぬんじゃね?


 結局、魔王はすぐに溶けて死んだ。


 人が死んだのにしっこをしている訳にはいかないので、俺はしっこを止めた。というのは建前で、本当は魔王の悲鳴にビックリして止まってしまったのだ。


『ねぇミッチョンコ。今まで殺したやつって死ぬ時溶けてなかったよね』


 そうだな。魔王と人間とでは違うんじゃないの?


『そういえばミッチョンコ、健康ナルナールって名前の意味がやっと分かったね』


 名前の意味?


『本人が飲むと万能薬になるから健康ナルナールって名前なんじゃないかな』


 あ、だからさっき全回復したのか。


 さて⋯⋯


 自分が連れていかれない為に戦った結果、村長の娘を守ったことになってしまったが、どうしたものか。


 ドゴーン!


 後ろから雷が落ちたような音が聞こえた。雲もないのに、なんなんだ。音のした方を見てみると。体長50メートルくらいの化け物が立っていた。


『魔王を倒すとは中々やるな。我は魔王2号。美熟女を求めてやってきた』


 おいおい勘弁してくれよ。大きさ10倍はさすがにひどいだろ。どうやって倒せばいいんだよこんなの。


『お前なんで裸なんだ。あとちんちんすごいな』


 なんでこんな50メートルの化け物にまで気にされなきゃいけないんだ。いじめの記憶の象徴のこんなちんちん、すぐにでも忘れたいのに。


 魔王2号は村長の娘の頭部を掴み、持ち上げた。


 ⋯⋯こいつの足にしっこかけたらどうなるんだろ。ちょっとやってみるか。ジョボジョボ。


(あった)か⋯⋯って何してんだ! お前は犬か! ってピンク!? もしかしてこれって、うぐうああああああああああ!』


 魔王2号は蒸発して死んだ。スケッチブックに書いてる暇があるなら避けるとかもがくとかしろよな。


『勇者様! 2度も助けていただいてありがとうございます! 私と婚約してください!』


 やっぱりこうなるのか。めんどくさいな⋯⋯


 ドゴーン!


 もう勘弁してよ。魔王3号? もうしっこ残ってないよ⋯⋯


「モゴモゴ!」


 知らない声が聞こえたかと思うと、目の前にいたはずの村長の娘が消えていた。この一瞬で連れ去ったというのか!?


 広場に取り残された俺と王子。


『どうしてくれるんだよ! 金持ちの娘と結婚出来るチャンスだったのに!』


 スケッチブックに書き殴られた王子の文字。お前さっきそこの炭とよりを戻したんじゃなかったのか。こいつすっげーコロコロ変わるやん。炭→村長の娘→炭→村長の娘、じゃん。最低だなこいつ。


『一緒に魔王3号を倒しに行こう』


 王子が無理難題を突きつけてきた。魔王3号って名前なのかどうかまだ判明してないだろ。

 それに3人目のあいつは2人目までとはわけが違った。俺はあいつの姿を見ることが出来なかった。それほどのスピードだったんだ。


 なぁビッグマック、どう思う? あんなやつに勝てるわけないよな? 今回は俺の身が危なかったから戦っただけで、わざわざ人を助けるなんて嫌だよな?


『そうだね、王子を無視して次の村へ行こう』


 ということになったので、俺は広場から離れようとした。しかし、王子が俺の腕を掴んだ。


『逃げるな。もし僕に協力してくれないのなら、この国の全戦力でお前を叩き潰す』


 そういえばこいつ王子だったな。別に俺と一緒に行かなくても、国の軍で魔王を倒しに行けばいいじゃないか。


 でも俺は言いなりになるしかなかった。だって怖ぇんだもん。なんで俺の仲間になる人ってみんなこうなの?

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