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13.『マッチョンピ、君との婚約を破棄する!』

 魔王ファン村を出た俺は、ビッグマックに言われた通り休むことにした。確かにほとんど寝ていなかったからな。


 俺は意識を「暴れミッチョンコモード」に切り替え、道端で横になった。毛が一切なくなった状態の羊を数える。そうすると、滑らかに夢の世界に入ることが出来るのだ。


 これで朝起きたら次の村に着いているという寸法だ。


『ちょっと待って、工程飛んでない?』


 何が?


『次の村に着く理屈が分かんないよ』


 ああ、それね。それは「暴れミッチョンコモード」の効果だよ。暴れミッチョンコモードに設定して寝ると、寝てる間に大暴れして大移動するんだ。


『なんて物騒なモードなんだ』


 そうだな、物騒といえば物騒だ。暴れミッチョンコモードのせいで何回か捕まってるからな。


『何やったんだよ』


 無意識に餅を強盗したらしい。


『ゴリゴリの悪人じゃねーか。そんなふうになるくらいなら普通に寝て、起きてから次の村に向かえばいいじゃん。時間もあるんだし』


 作者が道中を書くのがめんどくさくなってきたって言ってるんだよ。俺の意思ではどうしようもないんだよ。


『ならしょうがない』


 そんなわけで、俺は暴れミッチョンコモードでひん剥かれた羊を数えた。

 目を覚ますと、大きな村の前にいた。やはりここにも看板がある。


『婚約破棄村』


 何でもありなんだな、この世界は。ちょっと覗いてみるか。公衆トイレあるかな。朝起きるとおしっこしたくなるんだよな。


 少し歩くと、広場のようなところで3人の男女が言い争って(書き争って)いるのを発見した。

 マントを羽織り、王冠を被った若いイケメン。そのイケメンにベッタリとくっつく目つきの悪い、性格の悪そうなおばさん。そして、まるで絵本から出て来たかのように可愛らしい、まさにお姫様! という感じの若い女性。


 劇でも始まるのか?


『マッチョンピ、君との婚約を破棄する!』


 当然のようにスケッチブックでの筆談。お姫様みたいな子は驚いた表情をしている。


『王子! なぜなのですか! 結婚式は2時間後ですよ!?』


 この人王子なのか。結婚式の2時間前に婚約破棄ってすごいな。普通2時間前って式場にいるよな。こんな人気のない広場にいないよな。俺が見てるのってバレてるのかな。


 婚約破棄婚約破棄って、元の世界で生きてた頃からもう何百回とその文字見せられてるけどさ、そろそろ公式な文書で婚約しようぜ。

 めちゃくちゃ大事なことなんだからさ、口約束で婚約成立じゃなくて、公式な文書にサインして初めて婚約成立っていうふうに法律で定めろよ。ちゃんと定めないから婚約破棄が横行するんだぞ、君たちの世界で。


『彼女が僕と結婚してくれると言ったんだ。だから君との婚約を破棄した。ただそれだけのことだよ』


 俺だったら絶対こっちの子の方が良いけどな。だってあっちおばさんじゃん。この子にめっちゃガン飛ばしてるし。絶対悪いやつだよそいつ。考え直せよ王子。


『そうよ〜ん、王子は貧乏人のあなたを捨てて、村長の娘である私を選んだのぉ〜』


 げ、こいつ村長の娘なのかよ。俺が喋れるって分かったらまた惚れられるんだろうか。そろそろ飽きてきたぞ、それも。予言師が昔言ったんです、とかももういらんからな。


 そういえば、村長とか村長の娘とかがいるのに、それとは別に王子がいるんだな。これは変ではないのか? 国があって、この人はそこの王子で、その国の中にある村の村長がこのおばさんの親ってこと?


 ややこしいな。諦めよう。もうなんでもいいわ。関わりたくないからさっさとどっか行こ。


『マッチョンピ、貧乏人は貧乏人らしい態度を取りなさい。あなたごときが不服を言ってはダメなのよ? お金持ちの私が王子と結婚するって言ってるんだから、あなたはただそれを黙って受け入れるの。分かった?』


 ひどいおばさんだ。自分の親が金持ちだからってその金で王子を釣って結婚だなんて。王子も王子だよ。2時間後の結婚式を突然中止にしようだなんて。

 なんでよりにもよってあんな性格の悪いおばさんなんだよ。お前王子だから金あるんじゃないのか? 金銭欲が無限なのか?


『分かったら返事! 負け犬はさっさと消えなさいよ! ああ汚らわしい! 早く私の前からいなくなってちょうだい!』


 マジなんなんこいつ。あの子が可哀想過ぎるよ。こんな悪役令嬢悪役令嬢した人間がいていいのかよ。


『おいお前!』


 ビッグマックが口を開いた。俺の口だけどね。

 ついにビッグマックの堪忍袋の緒が切れたようだ。ジャギのようなセリフを言っている(おいお前、俺の名をいってみろ!)。

 おばさんはビッグマックの声を聞いて驚いたようで、こちらを向いてぽかんとしている。


『自分が何言ってるか分かってる? 無関係なボクでも有り得ないくらい腹が立ってるよ。ホントお前は最低な人間だよ! ハッキリ言って異常だよ! 異常!』


 おばさんがスケッチブックになにやら書いている。


『あなたが勇者様ですね! まさか本当に現れるとは! お待ち申しておりました! しかも、私の名前をご存知なのですね! 私、あなたと結婚します! これからよろしくお願いします!』


 ⋯⋯うん。1つずつ突っ込んでいこう。


 まず、俺が勇者だと思われていること。十中八九予言師の仕業だろう。全部の村に言って回っているのだろうか。


 2つ目。「まさか本当に現れるとは!」なのか、「お待ち申しておりました!」なのかどっちなんだ。勇者の存在を信じていなかったのに待ってたっていうのはおかしくないか? 矛盾してないか?


 そして3つ目! 俺はお前の名前なんて知らんわ! 会ったこともないし聞いたこともない! もし知ってたとしても嫌いだろうから名前なんて呼ばんわ!


 んで最後! なんでお前らは俺と結婚だったり旅だったりしたがるんだよ! 見ず知らずの俺の何に惹かれたんだよ! お前らの3分の1の年齢なんだぞ俺は! こっちの身にもなってみろ!


『めっちゃ吐き出したね』


 うん、だってあいつやばいもん。完全におかしいもん。代弁しといてくれ。


『やっぱりお前異常だな!』


 そういえばビッグマックが人のことを「お前」って呼んでるの初めて聞いたかも。それだけ腹が立ってるんだな。初めてじゃないかもしれんけど。ていうかそもそもまだ出会ってから2日くらいしか経ってないからな。


『やっぱりって、もしかして勇者様も私を探してらしたの? うふふ』


 なんでこんな話が噛み合わないの? こいつバカなの?


『異常さん、僕は?』


『王子、あなたとの婚約を破棄します!』


『えぇーっ!』


 王子が振られた!?


 てか、王子今このおばさんのこと「異常さん」って呼んでなかった? そんなあだ名で呼んで大丈夫なのか? ビッグマック、これどういうこと?


『異常さんって呼ばれてるんですか』


 落ち着きを取り戻したビッグマックが聞いた。


『ええ、私の名前が安久谷暮(あくやくれ) 異常(いじょう)なので、基本的に異常さんとか異常ちゃんって呼ばれてますね。でも勇者様は呼び捨てでしたね! 男らしくってますます惚れちゃいます!』


 名前があくやくれいじょうなんだ。あくやく れいじょう。じゃなくて、あくやくれ いじょう。なんだね。キモ。


 さっきからビッグマックが怒ってお前は異常だ! って言いまくってたのもただのワイルドな呼び捨てだと思ってキュンとしてたってわけか。腹立つな。


『僕も振られたから、残り物同士くっつこうか』


 王子があの子にスケッチブックを向けている。


『しね』


 あの子やっぱ怒ってたんだ。そりゃ怒るよな。王子もフットワーク軽すぎなんだよ。

 んでさ、なんで2文字で1ページ使っちゃうかな。スケッチブックもったいなくない? 貧乏なんじゃなかったの? ちゃんと裏も使ってるか?


『勇者様ぁ〜ん! 凛々しいお顔ですこと〜っ! もっと近くで見せてぇ〜ん!』


 このおばさんなんとかならないかな。どっかに縛り付けたり出来ないだろうか。早くこの村から出ていきたいし、このおばさんについてきて欲しくないし。方法をさがさないと⋯⋯


 こんなことを考えていると、突然広場に雷が落ちた。雲ひとつない快晴だったはずなのに、なぜ雷が。音のした方を見てみても、誰もいない。


『ミッチョンコ! あっちだよ!』


 喉の中で左の方に暴れられた気がしたので左を見ると、おばさんの頭が魔王にガッチリと掴まれていた。


『まずは胃袋を掴め! って言うけど、魔王はとにかく頭を掴むんだね』


 ビッグマックが独り言を言っている。


『独り言じゃないよ! 君が共感してくれないから独り言になっちゃうんじゃないか!』


 こちらで言い争っている間に、魔王はスケッチブックに長文を書き上げた。


『またまた会ったな。お前いつも見てるだけで助けようとしないけど、本当に勇者なのか? 俺の力にビビっているというよりかは、俺が女の子達を連れて行こうとしていることに興味を持っていないように見えるんだが』


 村長達が勝手にそう呼んでるだけなんだよなぁ。俺は勇者じゃなくてただのミッチョンコだよ。

 興味を持っていないわけじゃないよ。むしろ逆だ。興味津々だよ。だって連れ去ってくれないと俺が困るんだもん。連れ去ってくれてありがとうっていつも感謝してるよ。


『魔王にはいつも感謝してるよ』


 ビッグマック、そこだけ通訳するのね。


『俺お前に何かしたっけ』


 魔王は異常の頭部を鷲掴みにしたまま考え込んでいる。

 ビッグマック、詳しく言ってあげて。


『いやね、どの村の村長の娘もさ、ボクを見るとすぐに勇者様勇者様、結婚してください旅に連れて行ってくださいってうるさいから、魔王が連れ去ってくれて助かってるんだよ』


『そうなの? じゃあ俺たちはウィンウィンの関係なんだな!』


『そゆこと!』


 魔王は異常の頭部を鷲掴みにしたまま考え込んでいる。


 おい、今考え込むタイミングじゃないだろ。そんな流れじゃなかっただろ。もしかしてお前もボケ担当だったのか?


『ということは、お前を捕らえて連れ帰って「勇者がいますよ〜」って宣伝すれば村長の娘たちが集まってくるんじゃないか?』


 お前今そんなこと考えてたのかよ。俺主人公ぞ? ミッチョンコぞ? お前に連れ去られるわけにはいかんのよ。分かってるだろ?


『善は急げだ。お前も頭を鷲掴みにして連れ帰ってやろう』


 善じゃねーだろ。なんで鷲掴み限定なんだよ。鷲掴みフェチかよ変態が。


『大人しく捕まるとでも思ってるのか? お前ごときに捕えられる勇者ではないわ!』


 ビッグマックが挑発している。なんでそんなことするんだ。


『たまにはカッコつけたいじゃん』


 大変なの俺なんだぞ。


『ごめん』


 いいよ。


『フン、言うじゃないか。力づくで連れ帰ってくれるわ!』


 こんな急に魔王とバトルすることになるなんて思ってなかったよ! でも俺には健康ナルナールがある! 見てろよ魔王! 次話でお前はダンゴムシみたいにまん丸になって死ぬんだ! 覚悟しとけや!


 バトルスタート!

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[良い点] 全部 [気になる点] なし [一言] 異常さんが笑いのツボだった。
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