〜第1話〜吉凶は糾える縄の如し
上から見渡す風景は、空に舞う無数の花びらによって埋め尽くされ、何もない教室は、見慣れたようで新しく始まる物語を実感させる。物語とは、蜘蛛の巣のように複雑で、無限大であり、恋や運動など、人によって変わる変動性がある。文月颯太もその中の一人であった。
「昔から華宮の事が好きでした。僕と付き合ってください!」
教室で2人きり。シュチュエーション的には完璧なのに、緊張で頭は真っ白になる。心音のリズムは、ついさっきまで走っていたかのように早まり、呼吸もままならない。もしかしたら聞こえてるんじゃないかと不安にもなる。颯太はそんな状況で、華宮睦月の顔を見ることも出来なかった。
「ごめんなさい。颯太くんはいい人だと思うけど、付き合うってなると違うと思うの。だから諦めてほしいな」
こうして颯太の物語が終わったのだった───
「いやお前の恋物語早すぎだろ!!まだ新学期、2年の序章だろ!?」
如月裕也は、金髪を少し整えながら華麗なツッコミを入れた。
「まだ諦めてないよ。自分の気持ち伝えたんだからここからでしょ!」
顔と発言がまるで合っていない。人は、感情が顔に出るものだが、ここまでわかりやすいのは逆に珍しい。絶望を知った顔だ。
「ほんと颯太って昔っからわかりやすいな。だが、そんな颯太にいい情報だ」
裕也は、ポケットから小さく折られた紙を取り出すと、丁寧に開けだした。ニヤニヤしている裕也は、気持ち悪いから触れないでおこう……。
「これ読んでみろ!」
颯太は疑心暗鬼になりながらも、紫と黒の不気味なチラシに、目線を向けた。
【⠀絶対当たる!!占いの館。恋も仕事も金運も、その人の未来も言い当てます!!】
(いや思った以上にうさんくさぁ……)
「どーだ!これで華宮さんとの恋愛も右肩上がりっしょ!」
目を輝かせる裕也であったが、颯太の表情は、何も変わっていなかった。
「噂では、ここの占い師が結構な美少女で……」
「いかないぞ?」
占いに興味のない訳ではない。ただ、ここまで胡散臭いと騙される前提に考えるのが普通だろ。お前は純粋か。と、颯太は心の中だけで呟いた。
「根本的に、恋愛運が上がるわけじゃないだろ……?」
「確かにそうかもしれないが、未来のお嫁さんとかも占ってもらえるぞ??」
「今は、俺が華宮と付き合うための話だろ?未来のお嫁さんはもっと先でも……」
「颯太……。それが華宮だったらいいんじゃね……?」
颯太は、不覚にも納得してしまった。今じゃなく、将来をみれば、自分の努力で結ばれる可能性も高い。
「いやまぁ行かないけどな」
ただ颯太は、結ばれる可能性よりもリスクをとった。これで華宮じゃなくて、例えばあいつだったりしたら最悪だ。
「そこは行けよ!!絶対行け!!んで諦めろよ非リア!!」
「感情の表裏が激しすぎるだろ‼︎俺は絶対行かないからな‼︎」
薄暗い商店街に光る紫色の照明。主張のない占いと書いた看板だけを照らす照明は、誰もが近寄り難い闇の空間と化していた───
「結局来てしまった……」
裕也の諦めが悪く、颯太は渋々、紙に書いてある地図に従い、ここにたどり着いた。[不気味]という言葉はここのためにあるのかもしれない。それほどに、ひと気も活気もなかった。
「……もしかしてあの子か?」
何もないと思った颯太の目線の先には、水晶をセットしている1人の少女が映った。チラシの通り、そして裕也の言う通り、暗がりの中でも、黒髪ロングの美少女であることがわかる。颯太は無意識に、その美少女と目線を合わせ続けてしまった。いや、そらすことができなかった。
「すみません、ジロジロ見ないでください。恥ずかしいです」
気づくと美少女は颯太の前に立ち、顔を少し赤くして待っていた。急な展開で、空気でピリピリとくる気まずさだ。
「占いの館ってここであってます…?」
見てたことを誤魔化すように、颯太は美少女と少し距離を置き、恐る恐る聞いた。なにせ、こんな暗がりな場所で、この雰囲気で、胡散臭いチラシ。美少女だが、詐欺師の可能性は大いにある。
「はい!こちらの椅子にお座り下さい」
颯太は素直に勧められた椅子に座った。しかし、座り心地が変になく、椅子はひとりでに動き出した───
やはり詐欺師か霊媒師だったのか。颯太は、何が起こってるのか理解できない状況にあった。くねくねと動く椅子の幽霊なんて、颯太は聞いたことも見たことも……。
「あっ、そちらバランスチェアですのでご注意くださ───」
「すみません普通の椅子でお願いします!!」
「はい…(?)」
普通、占いでバランスチェアがくるとは思わないだろう。美少女は、それを回収すると、自分の椅子と交換した。
「いやそれに座るんだ……」
「改めまして……。初めまして、占い師の占衣薰愛です。今日は何を占いましょうか」
颯太は、ここで初めて美少女の名前を知った。そんな特別な感想もなく、ただ美少女という言い回しをしなくて良くなったと思った程度だった。いや、お客さんにバランスチェア提供するほど、考えが少しずれてるやつではある。
「恋愛運を占ってください…!」
ただここまで来たんだから、ものは試しだ。颯太は今ある疑いを全て忘れ、騙されても結果を聞くことにした。薰愛は、黒いローブを何度か整え、水晶を1回撫でた。
「承知しました。それでは、まずその方のお名前を言い当てます」
薰愛の占いの見せ所のひとつ、水晶当て。これは、本当に絶対的中の[美人]占い師だということを、証明する最初の前座だ。普通なら「好きな人は誰ですかー?」と聞く方が手っ取り早いが、信じてもらうチャンスにはちょうどいい。
「あなたの好きな人。それはズバリ!!」
颯太はゴクリと唾を飲み込み、結果を待つ。薰愛は、この待ち時間をも楽しみの一つと思っている。だから少し長く待たせる。
「……華宮睦月さんですね?」
薰愛は、自信満々に言い切った。占い師の薰愛にとっては水晶当てなど挨拶程度に過ぎない。その証拠は、颯太の反応で全てわかることだ。
「はいそうです!!華宮睦月です!!よく分かりましたね」
颯太の中の疑いは、すっかりとなくなってしまった。それどころか、尊敬の念を送っている。2礼2拍手1礼……。
「何祈ってるんですか?しかも神社でやるやつですよねそれ……」
「いやほんと、詐欺師とか霊媒師とか危ないやつだとか思ってすいませんした!」
「……初対面に向かって失礼極まりないわね」
薰愛は、自分の印象の悪さに怒りを覚えたが、相手がお客さんという立場上、何も言うことはなかった。
「それでは、恋愛運のどのジャンルを占いましょうか?告白の成功確率や相性診断など。そして───」
「【未来のお嫁さん】もわかります」
颯太は、裕也との会話を思い出した。もし、ここで未来のお嫁さんを知ってしまったら、その子と今後上手くいくのだろうか。睦月じゃなかった時、もう諦めるべきなのか。そんなリスクを負ってまで聞かなくてもいいと、普通なら思うのだろう。だが、颯太の答えは既に決まっていた。どんな結果になろうと、
「未来のお嫁様を教えてください!!」
颯太の声は、暗い商店街に響き渡った。
ご愛読ありがとうございます!!
やっと第1話書き終わることができましたぁぁ
自分お疲れ様です。笑
さて、今回の第1話であまり進展はありませんでしたが、薰愛と接触した颯太が今後どう展開していくのでしょうか。薰愛のたまに出るタメ口は何を物語っているのか……、などは今後のお楽しみで!私自身も何回も読み直し、自分の思うラブコメを書いていくので、今後とも雑賀長政をよろしくお願いします!!