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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『11年間の日常』

※あらすじにも書きましたが、震災を想起させる内容が含まれています。一読の際はご注意の方お願い致します。



 風の匂いは、あの時から変わることが無い。


 まだ若く、幼く、けれども背伸びをしている中学三年生になる直前の僕は、春に差し掛かった季節風が好きだった。


 昼を過ぎたあの時刻を向かえた瞬間。それは僕の、僕の友達の、僕の先生の、僕の両親の。

 多くの人々のターニングポイントとなり、歯車や道筋なんて物を胃袋へと呑み込んだ。


 

 揺り籠の中にでも居ると思わせる大きな揺れは、学校内の水槽を大きく揺らしていた。校庭に全員が避難を終えた後、安全の観点から即下校となった。


 揺れの大きさは生まれてこの方、アトラクションでしか感じた事の無いようなモノだ。それでも何処か、僕は『大したことにはならないだろう』と、呑気してテレビのチャンネルを回し見ていた。





 『津波警報が発令されました』





 無機質な放送が告げる、歴史の針が大きく動く瞬間。聞いた事のない警報の音は、中学三年生ともなれば『大事(おおごと)』だと自覚するには十分過ぎた。


 非日常の中に自分は居る。濁流にゆっくりと押し流される瞬間がテレビに映された時、それは不思議と僕を高揚させた。一重に幼く、初めての経験だったから。


 当時入り浸っていたソーシャルゲームの掲示板も賑わいを見せて居た。その時にも『陰謀』や『策略』を信じる人達が居て、様々な説が宙に弧を描いていた事を覚えている。


 しかし、そんなのは『その程度』にしか思えない現実も、また転がっていた。





 『○○と連絡が繋がらない。ゲームの約束をしていた』


 『親父達の職場が近い。心配で死にそう』


 『嘘だろ』





 目には見えない屍の数々。動いてるだけのアバターの奥、あった筈の人影が居なくなってしまったかもしれないと思うと、一気に『現実』がのし掛かってきた。


 画面のに移る黒色のうねりの中に、掲示板で探している誰かが居るのかもしれないと思った。それは僕の中の何かを間違いなく瓦解させた。





 その日、僕は家族の中で誰よりも多く飯を喰らった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 



 その日、死んだ人が居る。


 その日、死ぬことを選んだ人が居る。


 その日、生まれた人が居る。


 その日、二十歳を向かえた人が居る。


 その日、結婚を誓った人が居る。


 その日、還暦を向かえた人が居る。



 

 月並みな表現だが、過ぎ去った時が戻る事は無い。

かつてネットで見た死屍累々の数々は、あくまでも『そう見えた』だけの物で、其処に僕の友人が居る訳でもない。


 けれども、その中には本当に屍となってしまった者も居るかもしれない。その人には家族が居て、友達も居て、恩師も居て、関係者は今も尚、探しているかも知れない。




 だからこそ、僕は『日常』に居ようと。

 3/11のあの時刻に、黙って心に釘を刺す。




 あの時と変わらない季節風は、非日常を思い出させるあの時のままの匂いがしていた。

 東日本大震災。あの時からもう11年が経ちます。


 3月の軟化していく北風に混ざる華やかな匂いの中に、あの日を境に悲しい歴史が刻まれました。

 幸い、僕自身はあの地震で親しい者を亡くす事はありませんでした。けれどもそれは僕だけの経験であって、被災した方々は間違いなく、日常を奪われています。


 けれども、同時にその日に誕生日を向かえる人や、還暦を迎える人も居ます。悲しきかな、人生を諦める者も、恐らくいるでしょう。


 僕達は11年、変わらず日常を生きようとしています。これからも僕は、忘れずにいながらも日常を生きます。



 後れ馳せながら、東日本大震災による犠牲者の皆様へのご冥福をお祈りします。同時に被災した地域の更なる復興と発展、被災者の方々が笑顔で日常を送れる事を強く、願っています。


 

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