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女を喰った男  作者: シス
10/12

ラブレター

 後日、娘の井之上春香に対する強姦容疑の疑いで警視庁長官である父親の井之上重次は逮捕された。

それも、死刑囚である牧瀬哲也と結婚した犯罪心理分析官であり娘の井之上静香の密告によってだ。

当然、世間では大スクープ。各メディアは世界的ニュースとして報道し、各SNSでは荒れに荒れてお祭り騒ぎだ。

だが、もうそんなことはどうでもいいのだ。これ以上、社会のオモチャとして世間に自分が消費され続けたら、もう私は消えてしまいそうだからだ。

 そうして世俗との関わりを一切断ってから、3か月が経った。勿論、牧瀬との3回目の面会後、私は彼と連絡を一切取っていない。

この3か月というもの、真っ暗闇の部屋の中でただ一人呆然とベッドに仰向けになって寝込んでいた。自殺する元気すらなく、辛うじて食べやすい乳製品やインスタント商品で命を繋いでいた。要するに、牧瀬哲也との会話は私の精神を崩壊させる十分な理由だった。それは今まで信じていたものが全て嘘で、嘘を本当にしようとしてきた私の生き甲斐を全て奪っていった。

 暫くするうちに、私は社会の道化にしか過ぎないのだと考え始めた。社会の不幸の渦に絡めとられ、必死に守っていた妹に実は守られており、必死に目指していた父に実は裏切られていたのだ。そして、この世界に神も仏もいないなと思うと同時に、いや、神も仏もこんな私を見てほくそ笑んで楽しんでいるのかもしれない、と訳の分からない悟りを開いていた。

 しかし、朧げな意識の中、久々にテレビのリモコンを付けると、私は目を疑った。そこには牧瀬哲也の恋文なるものがテレビで取り上げられていたのだ。


 「この手紙は僕の最愛な妻、井之上静香へ捧げる。

 刑の執行は近い。僕は君にまだ、喋り切れていないことがある。

 犯罪心理分析官として、妻として、井之上静香として、そんな社会の肩書はどうだっていい。

 僕と同じように社会から爪弾きにされた独りの名もなき人間として、もう一度、僕に逢いに来てくれ。愛してる。

                           

                                      牧瀬哲也」


 牧瀬は世界各国の報道機関及び犯罪心理捜査官との面会を受け入れる代わりに、面会室で口頭で喋った井之上静香への恋文をテレビや各メディアを通して流してもらっていたのだ。

何もかも希望をなくしていた私は、半ば自暴自棄になりながら、大急ぎで牧瀬哲也の収監されている刑務所へと駆け付けた。


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