Vol.4 Spook & Spell
エイリフ王国にも直属のミレシアンギルドがあった事はあまり語られて
いない・・・。
ある者はそれを黒歴史といい、
またある者は忘れられた存在だという。
しかし、在野のミレシアンギルド以外にも
ポウォールと死闘を繰り広げていたとある
エイリフ王国直属のミレシアンギルドがあったのだ。
彼らは一体なぜ、エイリフ王国に
仕える事になったのだろうか?
ウルラ大陸・タルティーン。
エイリフ王国の最重要拠点にして西に王都・タラ、
東にスリアブクィリンを擁するクィリン城、南にはネア湖を抱え、
遠くダンバートンを望む位置にあるアブネアを統括するアブネア城と連絡する
エイリフ王国にとっての交通の要衝でもある。
また、このタルティーンは錬金術が盛んで錬金術師・ドレンの許で、
盛んに王政・在野の錬金術師達が日夜錬金術の修練や実験に明け暮れており、
更には影世界への門でもあるストーンヘンジがタルティーン北西にあり、
エイリフの影世界への前線基地の役目も有している街である。
そのタルティーン城内の北にある小高い丘に置かれたエイリフ軍司令部。
その司令部敷地内の片隅にある鍛冶場から、
カキーンカキーンとハンマーをリズミカルに叩く音が聞こえる。
そんな中、左目に黒い眼帯を付けた濃緑色のエイリフ軍服を身に付けた少年が、
ゆっくりとした足取りで鍛冶場へと入っていく。
「ハダットじいさん、土産だ!」
少年はそう言って革袋を差し出すと、ハンマーをふるう老人に声を掛け、
右目でニヤリと笑ってみせた。その老人は軍服の上着を脱ぎ、
下着のシャツ姿だったがその体系は筋骨隆々、老人とは思えない体つきである。
「モンタナ、今回の作戦は意外に早かったな」
「ああ、今回はアンドラスから陽動でいいとは言われていたが…。
やはり遠征隊の留守にポウォールがタルティーン強襲を企図する可能性は
否定できなかったからな、あえて防御戦という形で
影世界のタルティーン周辺のポウォール掃討を行ってみたんだが…
これが大当たりでな。その土産がこれだ」
10歳の少年はそういうと、革袋をハダットに渡した。
「アラトの結晶が大漁だのぉ。モンタナ、転生直後のまま作戦に参加したのか?」
「無論だ。俺が行かなくて、奴らは仕切れんよ。
エクセレンでは奴らを持て余すしな」
「ああ、あのサブマスのエルフ娘か。あの娘っ子は生真面目だからなぁ…。
もう少し肩の力を抜けばのぉ…」
「それでもあの娘は努力してるよ、痛いほどな。俺もそれは分かっているだけに、
連中には含み針飛ばしまくって漸くサブマスと、
ギルメン連中が馴染み始めたからな」
「お前も色々苦労してるようじゃな」
「苦労と思うから苦労に感じるんじゃねーか!ってじいさんの口癖だろうが!
俺にそんな事言わせるとは、じいさんも歳か?」
「ぶわははは!こやつめ、年寄りをからかいおって!」
二人は顔を見合わせて爆笑しはじめる。
「よし、儂も一息入れるかのぉ」
ひとしきり笑い終えた二人は、阿吽の呼吸で鍛冶場の奥にある
粗末なテーブルと椅子に腰をかけた。
「どら、その防御戦の戦況聞かせてもらおうじゃないか。
お前はそのつもりで来たんじゃろうて」
「じいさんも、聞きたくてウズウズしていただろ!モイトゥラ戦争を思い出して、
また血が騒ぎだしたんだろうが!」
「まぁ、年寄りをいじめるな。どれ、話をきかせてくれ…」
ハダットは上着を着込みながら、モンタナの話に耳を傾け始めた。
ここからはモンタナがギルマスを務めるギルド…
エイリフ直属ミレシアンギルド【Badfinger】ついて語っていこう。
【Badfinger】ギルド設立は、戦局の悪化がきっかけであった。
当初、ミレシアンの潜在能力の高さに目を付けた、
エイリフ王国宰相・ヴァルトゼーミュラー公爵が
国王エフル・マククル2世に上奏し、
エイリフ王国初の直属ミレシアンギルドを結成させた。そのギルドこそが、
タラに本拠を置くギルド【Schwarz Svastika Ritterorden】
通称・黒十字騎士団である。
ギルドマスター・メッサーシュミット、サブマスター・フルトヴェングラーとし、
ツェッペリン公爵の庇護のもと成長を遂げ、
公爵主導の作戦において輝かしい功績をあげていた。しかし、
影世界が発見されてタルティーン・タラにストーンヘンジが出現してからは、
タラ方面での作戦に忙殺され、タルティーン方面での動きは皆無になっていた。
同時期、タルティーン司令部でも司令官ファロン、
副司令官アンドラスの提案によりミレシアンによる
【パンツァー・レーア】を結成。
ミレシアンの潜在能力はタルティーンでも遺憾なく発揮されており、
タラの黒十字騎士団の活躍にも触発された事もあって即座に結成された。
その教導団の団長を任されたのが、モンタナであった。
モンタナを推挙した人物は、
国王エフル・マククル2世のブレーンとして名高い
アブネア公・アブネア城主ラウエンシュタイン公爵である。
年若い青年貴族であるがタルティーンの重要性をいち早く看破し、
エイリフ王国にタルティーン軍設置を提唱、
またファロン達の【パンツァー・レーア】結成構想を
国王に上奏した人物でもあり、自らは国王に上奏してタラを離れ、
イメンマハ・ダンバートン・タルティーンを繋ぐタルティーンに並ぶ
要衝・アブネア城へ城主として着任、
ダンバートン周辺のラビ・マスダンジョン、
イメンマハ周辺のコイル・ルンダダンジョンのポウォールの動向を睨みつつ、
タルティーン軍司令部との連携を密にして危急の事態に対処できるように、
城下の発展とミレシアン召募、城兵の調練に手腕を発揮している。
エイリフ貴族としては珍しい行動派な人物である。
そんな中ラウエンシュタイン公は、
アブネア城下で頭角を現していたモンタナを見いだし、
【パンツァー・レーア】のリーダーに推挙したのだ。
モンタナをリーダーに【パンツァー・レーア】が
タルティーン軍兵士達の調練を開始して間もなく、
ファロンが影世界で行方不明・部隊は全滅という一報が
タルティーンにもたらされるに至り、
アンドラスは劣勢下における戦力減少を恐れ、急遽【パンツァー・レーア】を
エイリフ直属のミレシアンギルドに昇格させるべく、
ラウエンシュタイン公と会見。危急の状況という事もあり、
タラへは事後報告という形で
エイリフ直属の2つ目のミレシアンギルドが結成された。
それが【Badfinger】ギルドである。
ギルドマスター・モンタナ、サブマスター・エクセレン。
メンバーは【パンツァー・レーア】のメンバー全員が移籍し、
スライドしてギルドメンバーになったが
戦闘団として動くには絶対数が不足していた為、
タルティーンでメンバー募集をかけ、
モンタナ・エクセレン・アンドラスの面接により選抜し、
ミレシアンギルド【Badfinger】は結成された。
【Badfinger】は即座に影世界の前線へ投入され、
アンドラス・グラナット・カルペン率いる遠征隊の支援部隊として、
影世界のスリアブクィリンにおいてポウォールの交通遮断と補給線破壊、
影世界のアブネアにおいてはタルティーンに侵攻するポウォール軍に対し
奇襲攻撃を行い壊滅に追い込み、クラウソラス練成阻止作戦においても
遠征隊や作戦に参加したミレシアンギルド達と共に参加、
レイモア・ジェナや他のミレシアンギルド達と共に
影世界タルティーン城内に突入、クラウソラス練成を阻止に成功した経緯がある。
エイリフ王室内では【Badfinger】メンバーやミレシアン達を、
【影世界の英雄】と呼んで持て囃していたが、
モンタナを始めギルドメンバー全員がそれを激しく嫌悪しているのは、
皮肉としか言いようがないものである。
それは、タラを本拠にする
【Schwarz Svastika Ritterorden】黒十字騎士団ギルドに対する思いにも
通じるものがあった。
【Schwarz Svastika Ritterorden】はエイリフのミレシアンギルドという立場
ではなく、いわばツェッペリン公の私兵ともいうべき
存在ではないかと、王国内でも実しやかに噂されており、
ギルマスのメッサーシュミットがその噂の火消しに躍起となっているという話が
セットでタルティーンにも流れ込み、【Badfinger】メンバー達が
タラの貴族嫌悪に拍車がかかったほか、エイリフ軍が一枚岩ではないのか?
という疑念を在野のミレシアン達に印象付ける結果になった。
クラウソラス練成を阻止したものの、影世界の戦況は相変わらず苦しく、
エイリフ軍が支配下に収めている地域はタラとタルティーン、
【背後の敵】作戦で打通が成功した影世界コリブ渓谷では、
重兵を置いてポウォールから死守している状況下では、
ポウォールにつけ入る隙を与えているに等しい状況であった。
影世界コリブ平原打通作戦【ワインの香り】失敗以降、
タラ城外とコリブ平原境界の地域をポウォールに押えられ、
常にタラが攻撃の矢面に晒される危険性を危惧した
タラストーンヘンジ臨時司令部司令官・ペイタンは、
タルティーン軍司令官・アンドラスと協議し、遠征隊による
タラ南部掃討作戦を企図。また同時に【Schwarz Svastika Ritterorden】による
影世界ラフ城内に残るポウォール・アラト錬金術師学会の残党である、
堕落した錬金術師達の掃討戦も同時に行う、
クラウソラス練成阻止以来の大規模軍事行動である。
モンタナ達【Badfinger】ギルドはアンドラスの指示により、
影世界のタルティーンにおいて周辺地域の掃討作戦を下命されたのだが…
モンタナは手薄になったタルティーンにポウォールの強襲を警戒し、
またポウォールの耳目をタラ南部からタルティーンに向けさせるため、
そしてタルティーン方面の安全を図るために周辺のポウォールを引き寄せ、
一気に壊滅させる作戦を【Badfinger】ギルドのみで企図した。
その作戦こそ、モンタナがハダットに語ろうとしている
タルティーン防御戦【Frühlingserwachen -春の目覚め-】であった…。
To Be Continued …
モンタナとハダットが語っていたタルティーン防御戦
【Frühlingserwachen -春の目覚め-】とは?
この戦闘についても、いずれ語らねばならない。
そしてそのタルティーン防御戦【Frühlingserwachen -春の目覚め-】
の最中に、イリアでもまた・・・。春花秋月メンバーとアルバン騎士団に
謎の組織の魔手が伸びる。
今回のタイトルはドイツのテクノユニット・ハードフロアより拝借しました。
やっぱりTB-303は最高っす!!