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Erinn High Hopes ~運命の鐘~  作者: 栂尾天水斎
Chapter.1  Northern Lights
4/6

Vol.3 Waiting In The Wings

瀕死の重傷のぴあの、コール村で手厚い看護を受けてはいたが、


身動きの取れない己の姿にもどかしさを感じていた・・・。


奴らはまた来るのでは・・・焦燥感が募る。

「ゲロマズ~…やっぱこれ飲まなきゃいかんの?」


しかめっ面でクシナが煎じた薬湯を一口飲んで、真里谷ぴあのは


ぼやき始める。


「何言ってるんですか!このお薬湯のお蔭で、ぴあのさんのお怪我はみるみる


治り始めているんですから。コウサイ村長直々の調合されたお薬湯なんで、


中々飲めませんよ!!」


ふくれっ面のクシナが、ぴあのをまるで我が子のように叱る。


「うへ…確かにそりゃそうだけどさ…。1ヶ月前はミイラ女だったのが、


包帯も左目のところと…左腕、右足だけになったしなぁ。


飲むっきゃないかぁ、めちゃくちゃ不味いけど…」


苦虫を噛み潰した顔をしながら、ぴあのは木の椀に入った薬湯を一気に飲み干す。


「ぐぇ…まずい」


顔をしかめながらも懸命に飲み干し、それだけで疲れ切った様子もぴあのに、


「よく飲みましたね!飲んだら…寝てください。マジッククリスチャンさんからも


ぴあのさんの監視を頼まれていますから!」


「マジッククリスチャンめ…しっかりしてらぁ」


ぴあのは文句を言いながらも、きれいに敷かれた藁の上に身体を横たえた。


そして、目を閉じた…。


ぴあのはあの硫黄島での戦いを思い出していた。


一体誰が自分を救い出してくれたのか…。


そもそもあの硫黄島は、本当に昭和20年3月の硫黄島だったのか。


考えを巡らせているといつの間にか眠りについていた。


瀕死の重傷を負ってから深い眠りに就くことが多かったが、


ここ最近は起きている時間も多くなった。


身体が睡眠を欲している…つまりおいらの身体は回復に傾注しているからだな…


そう独り言ちながら、更に思いを巡らせていた。


しかし、かつての自分には程遠いと痛感している。


刀を握ることすらままならないこの体で、万が一…


そう思うと焦燥感だけが先走ってくる。


どうする、どうすれば立ち向かえるか?起きては考えを巡らせ、疲れてまた眠る。


その繰り返しの日々だ。幸いなことに、


マジッククリスチャンやヴァーリャのお蔭で今の所は何事も無く過ごせている、


過ごせているが…。


ぴあのは自分を狙う何者かが好機を窺っているのでは?と気が気でならなかった。


そんな思いが、身体を勝手に刀へと導いていた。


「よし、クシナはいない…」


ぴあのは壁に立てかけてあった【八丁念仏団子刺し】を掴むと、


やおら立ち上がり鯉口を切った。


「うっ…」


全身に力を入れるとまだ痛みが走る。片膝をついてしゃがみ込むぴあの。


「ぴあのさん!!寝てなきゃだめじゃないの!!」


狐の耳と尻尾が印象的な藤色(ウィステリア)の妖狐衣装を纏ったミレシアンの少女が、


驚いた様子でぴあのに駆け寄ってきた。


「かさねさん…もう帰ってきたんだ!」


ぴあのが『かさねさん』と呼ぶミレシアンの少女…譁紗祢(かさね)


は荷物をその場に置き、ぴあのを寝床に就かせた。


「ぴあのさん!怪我はまだまだ治ってないんだから、


寝てなきゃだめじゃない!!」


「譁紗祢さんには敵わないよ…ハハ…」


譁紗祢に【八丁念仏団子刺し】を枕元に置いてもらって、気恥ずかしそう


こぼすぴあの。


譁紗祢という娘は、ダンバートンに拠点を置くミレシアンギルド【春花秋月】


のメンバーである。


ギルドマスター・マリー=ルイスの依頼で新装開店するお店の開店準備の為に、


コール村へ資材の買い付けに来た所、


先の硫黄島の戦いの後に担ぎ込まれたミイラ女のぴあのと出会い、


ぴあののその只ならぬ様子から何かを直感で感じ取ったらしく、


『私にお手伝いできる事があれば!』


そう言って看病するクシナやマジッククリスチャンに初対面ながら、


臆する事なく申し出て2人から事の顛末を聞き、


益々ぴあのに対する強い興味と、


何があってもこの子(ぴあの)は守ってあげなくてはいけない…と、


溢れんばかりに湧き出した使命感から、


コール村でぴあのの看病を手伝っていたのであった。


…彼女は私…いえ、【春花秋月】で守ってあげなくてはいけない、


マリー(ギルドマスターのマリー=ルイス)にもこの事を知らせておかねば…


譁紗祢自身、何故そう思ったのかはよく分からない。


だが、自分の中から突き動かす何かが、この娘(ぴあの)を…


守ってあげればいけないという使命感をひしひしと感じている。


私のこの思いは間違っていない…


譁紗祢は共にコール村へ来ていた自分と同様に狐の耳と尻尾が印象的な、


真紅の妖狐衣装を身に着けている春花秋月ギルドメンバー・ちじこに


事の仔細を話し、同意を求めた。


ちじこは話を聞くなり二つ返事で賛成し、


その場でしばらくコール村へ滞在する旨を手紙に書いて(したた)め、


フクロウに託してダンバートンのマリー=ルイスへ届けさせていた。


ほとんど寝たきりで意識も朦朧としているのぴあのが、時折譫言(うわごと)の様にお酒の名前


を呟く事に気が付いたちじこが、ぴあのがお酒を飲みたいのかな?


そう気がけて、クシナ・譁紗祢・マジッククリスチャンらと語らって


ウルラやベルファストでぴあのが呟くお酒を買い揃えてみようか?と話をまとめ、


ちじこと譁紗祢でぴあののお酒を買い出しに向かっていたのだ。


ぴあのが意識を取り戻し、


刀を握ろうとしたのは譁紗祢とちじこが戻った時であった。


古来からはるか東方に伝わる言葉がある。


【智者は智者を識り、好漢は好漢を愛す】


まさにこの言葉を具現化しているのがこの場面ではなかろうか。


「ダンバートンやイメンマハで、


お酒と一緒にマジッククリスチャンさんからの手紙に書いて


あった追加のお酒と道具類や材料、買い揃えてきましたよ」


譁紗祢はちじこと共に馬に載せてあった荷物を重そう抱えて小屋の中に入り、


ぴあのの枕元にドサリと置いた。相当重かったのか、


二人は軽く息を弾ませている。


「ぴあのさん、身体のお加減如何ですか?」


「ちじこさん、トンクス!コウサイ村長のゲロマズ薬湯でここまで回復したぜ!」


親指を立てて包帯から垣間見える右目でウィンクしてみせるぴあの。


「よかった…あ、そうそう。ちょっと聞いてくださいよ!!


ルーカス、ルーカスですよ!!あいつ、


『氷』を勿体振って中々売ってくれなかったんです。


思わずチェーン振り回そうかと思ったけど…ルア姐さんが気を利かしてくれて


融通してもらったんですよ!!あのヒゲ、今度会ったらとっちめてやる!!」


ちじこが思い出したかのようにふくれっ面をすると、譁紗祢が微笑を浮かべる。


ぴあのはそんなちじこを見て、


「ちじこさん!そういう時はさ、ルーカスに鼻フックだよ、鼻フック!!」


身体を横たえたまま中指と人差し指を折り曲げて動かす仕草をするぴあの。


「それだ!!」


「そうそれ!!」


お互いを指さして大笑いする2人。それにつられて大笑いする譁紗祢。


他愛のない事で笑ったのは久しぶりな気がする。ギルマスをやっていた時は、


いつも難しい顔をしていた記憶しか無かったぴあのにとっても、


新鮮な雰囲気を味わえて心地よい爽快感を味わっていた。


「戻りましたー。あら、譁紗祢さん、ちじこさんお帰りなさい」


「ぴあちゃん、ちゃんと寝ていたか!お、アネさん、ちじこさんおかえり!」


マジッククリスチャンとヴァーリャが部屋に戻ってきたが、


ヴァーリャの呼び方が相当気に入らなかったぴあの、


「テメー!ぴあちゃん言うなし!!


完全復活したら【八丁念仏団子刺し】の錆落としにしてやる!!」


ぴあのがそう言い放った途端、傷口に痛みが走ったらしく苦悶の表情を浮かべる。


「オメー、まだ完治してないんだから。村長と俺、


クシナの3人ががりで数時間かけておめーの傷を全部縫合したんだからな。


結構ざっくり切られていたからな…いや、斬られてたというのが正しいか。


とにかく抜糸が終わったところで、まだ傷は完全に癒着してねーんだから、


怒ったり感情を高ぶらせたらまた傷口が開くぞ!!」


ヴァーリャの言葉に譁紗祢とちじこ、マジッククリスチャンが目を点にする。


「ヴァーリャって、ヒーラーなんだ!?」


譁紗祢が興味深げにまじまじとヴァーリャの顔を覗き込む。


「ヒーラーじゃねぇよ、


ただフィリアで同じエルフのミレシアンがよく怪我をしていたもんだから、


応急治療をアトラタからしっかり勉強していたんだ。戦いに臨む者、


自分の怪我は自分で直せなくちゃな…なんだよ!ジロジロ見るなっての!!」


譁紗祢の言葉に、何気なく言葉を返したヴァーリャだったが


興味津々の様で自分を見つめる3人娘と、


更には寝床から目をキラキラさせて自分を見つめるぴあのに、


いよいよ照れ始める。


「やっぱヴァーリャンってかわいいわぁ」


ぴあのがニヤニヤしながらそう言うと、


「ぴあちゃんの意趣返しか!!ヴァーリャンっていうな、


高粱(コウリャン)みたいで馬に食われそうな気がしてならんじゃねぇか!!」


照れ隠しに少し怒ってみせるヴァーリャに一同どっと笑う。


ひとしきり笑い終えた所で、


「それじゃ買い物した品物はココに置いておくよ。


譁紗祢、次はイリアだね…。


ケルラベースキャンプ・バレス・フィリア・カリダ探検キャンプ。


ぴあのさんの欲しい物ってエリン中あちこちに散らばってるから大変だけど、


でも楽しいね!あちこち行けるから!!」


「ちじこ、それ物見遊山じゃない。ちょっと違うんだけど…まぁいいか。


ぴあのさん、しっかり養生してくださいね。それでは行ってきます」


譁紗祢はちじこを軽く窘めてから出掛けるよと無言で促し、


ぴあのの次なる買い物依頼の為に、再び家の外に出た。


マジッククリスチャンとヴァーリャ・そして帰って来た2人が


再びコールを離れると聞いて店から出てきたクシナが


譁紗祢とちじこを見送るために、


村の広場まで見送りに出てきてひと時の別れを惜しむ。


譁紗祢とちじこが3人に別れの挨拶を告げると、ダチョウを呼び寄せて飛び乗り、


バレスに向けて駆け出していった。


「【春花秋月】ギルドですか…。みなさん人のいいミレシアンの方々で、


私たちへの温情に感謝しきりです」


「マジッククリスチャンよ、縁とは分からんもんだな。どこをどうやったら


こんな出会いが待ち構えていたかなんて…おいらが再びエリンに戻って、


虫の息で救いの手が差し伸べられて…


そして譁紗祢さんとちじこさんとの出会い…。


【Divisionbell 運命の鐘】というヤツが鳴り響いているのかね」


感慨深げにマジッククリスチャンと話をしていたぴあのは、


不意に外の風景に目をやる。


「おい、何だあれ?雪か?ちょっと薄ら寒いが…


コールにはこんなに寒い日なんてあったか?」


ぴあのが雪らしきものが降り始めた事を


マジッククリスチャンとヴァーリャに告げると、


2人は気になったようで外に出て行く。


村人たちも物珍しげに降り始めた雪らしきものを触ったり、


思いっきり浴びたりしている。


しかし、次の一声で空気が一変する。


「皆のもの、その雪もどきに触れてはならん!!すぐ家の中に入るのじゃ!!」


コウサイ村長の何時になく厳しい怒声が村中に響き渡る。


しかし、コウサイの言葉は一足遅かった。


雪を浴びた者達…村に来ていたミレシアン、村人達…


そしてマジッククリスチャンとヴァーリャも急に藻掻き苦しみ始めたのだ。


「!!!!!」


家の中から外の異変を目の当たりにしたぴあの、


起き上がって自分も出ようとするが家の中にいたクシナがそれを制した。


「ぴあのさん、ダメです!!コウサイ村長の言葉、聞かれたでしょう?


危ないから止めてください!!」


「でも、マジッククリスチャンやヴァーリャが…」


クシナとぴあのが押し問答をしていると、雪を浴びた者達の動きが一斉に止まり、


全員が白目を剥いてムクリと立ち上がった。


そして…黒いオーラを発して毛むくじゃらの化物…


かつてぴあのも変身させられた【巨大な悪霊】に変身してしまったのだ。


ただ今回は、ミレシアンだけではなく住民たちまで


【巨大な悪霊】に変貌を遂げてしまったのだ。


「むぅ…まさか、こんな手の混んだ細工を仕掛けてくるとは…


ヴォヴォカ、シャマラ!!お前たちは無事だったか!」


村長を守るためにヴォヴォカとシャマラが駆け寄ってきた。


「村長、また忌々しい【あれ】と戦うのか?」


「ガルル…クェーサルはもう居ないはず…誰がこんな真似を!」


二人は村中で暴れまわる【巨大な悪霊】を只々見守るしか無かった。


それぞれがミレシアンや村人たちの変わり果てた姿である。


迂闊に手出しができず、歯がゆい表情を浮かべる。


「こ、これは…」


ぴあのは愕然とした表情で破壊される村を眺めていた。


今の自分ではどうにもならないのは分かっている。


分かっているが身体が本能的にもう我慢しきれず、


刀を杖代わりに自分がいた小屋を出た。


「ぴあのさん!」


「クシナ、止めるな!!」


制止しようとしたクシナを、


ぴあのは怒りに燃える目と威圧を込めた声で黙らせる。


クシナはぴあのの湧き上がってくる気迫に気圧されて、


押し黙ってしまったようだった。


「クシナは絶対にここから出るな!いいな!!」


女の子とは思えない乱暴な口調のぴあのだったが、


精一杯の思いやりの言葉をかけて一瞬、優しくクシナへ微笑むと、


荒れ狂う【巨大な悪霊】達の許へ歩みを進める。


「何をする、ミレシアン!!危険だ、下がれ!!」


コウサイの言葉を無視するがごとく、


何かに取り憑かれたようにおぼつかない足取りで村の中心へ歩み続けるぴあの。


そんなぴあのの前に、何者かがテレポートしてきたかの様に突然現れた。


「見つけたわぁ、真里谷ぴあの~♪アタシのえ・も・の♪」


ポウォールの錬金術師がぴあのを見つけて嬉しそうに叫ぶ。


「お、お前は…。そのオネェ言葉…」


「そうよ、アタシはティアマト。覚えてくれていて嬉しいわぁ」


「お前は影世界で、ケイのライフドレインに倒されたんじゃ…」


「アナタ、それ本気で言ってるワケ?


あんな裏切り者のライフドレイン如きで殺られるアタシじゃないわ。


当然、あたしの影武者に決まってるじゃないのよっ」


笑いを殺しながら言うティアマトに、戦慄の表情を浮かべるぴあの。


「でも、今のアタシはポウォールじゃないから。


ポウォールよりもっと面白い事を見つけちゃったのよねぇ。


だからアタシ、大総長(グラン・メール)の指示で


あなたを特別な空間に投げ込んだワケ。楽しかったでしょ、


自分のドッペルゲンガーと硫黄島で戦えたなんて…ククク」


眼の前のティアマトが、自分を絶体絶命に追い詰めた張本人だった。


ぴあのはその言葉に怒りで体が震えた。


「あら、怒ったの?怒ったの?やぁねぇ…。


ちょっと予想外の邪魔者が入って、


あなたを始末できなかったけど…今のあなたなら、


アタシが手を下さなくても…


あたしが仕込んでおいたこの毛むくじゃら(巨大な悪霊)達と…」


そう言ってティアマトは指をパチンと鳴らす。


するとぴあのの周囲にクェーサル、悪霊戦士、悪霊弓使い、悪霊詩人、


悪霊グールが取り囲むように突如現れた。


「!!!!!」


不意の出来事だが、ぴあのは【八丁念仏団子刺し】の鯉口を切って、


いつでも抜刀する構えをみせる。しかし、体中に痛みが走って力が入らない。


【巨大な悪霊】達も悪霊詩人の奏でる演奏で、ぴあのの周囲に集まり始める。


「アタシが手を下さなくても、あなたはここで朽ち果てるのよねぇ。


残念だわぁ…これからもっともっと楽しめるかと思ってたのに…


アハハハハハ!!」


苦悶するぴあのの姿を見て益々嘲笑するティアマト。そこへ、


どこからともなくチェーンスィーピングが包囲網の一角へ叩き込まれる。


悪霊戦士と悪霊詩人達が地面に倒され、


そこにチェーンを振り下ろされていく。


「ぴあのさん!!」


カットスロートチェーンを手にした譁紗祢が、


アンカーラッシュでぴあのの許へ飛び込む。


「譁紗祢さん!!」


「村の様子が何か異様な気配を感じたので戻ってきたのです。


やはり…!!」


表情は冷静を装っていても口調の端々に憎悪を滲ませる譁紗祢に、


「譁紗祢さん、あの毛むくじゃら(巨大な悪霊)はミレシアンや村人が変えられた姿。


倒さないでください!!」


「はい!!」


顔に朱が混ざり始め、怒りが頂点に達しつつある譁紗祢だが、


ぴあのの言葉に冷静に反応し応える。


そこへちじこがコロッサスを操って乱入してきた。


「タダで済むと思うなっ!!春花秋月のアイドル・ちじこいきまーっす!!」


ちじこは不敵な笑みを浮かべるとマリオネットのコロッサスを操り、


誘惑の罠を放って巨大な悪霊を無数の糸でコロッサスの周辺に引き寄せ、


悪霊戦士達と引き離しを行い、今度は改めてマリオネットのピエロを出現させ、


悪霊戦士達を再び誘惑の罠でピエロの周辺に引き寄せ、


狂乱の疾走でピエロを突進させていく。


蹴散らされていく悪霊戦士達だが後詰も続々現れる。


譁紗祢もチェーンスィーピングで悪霊弓使いや悪霊グールを地面に叩きのめすが、


ティアマトは次から次に後詰を送り込んでキリがない。


そこにコウサイに率いられた村人達とヴォヴォカ、シャマラが乱入してきた。


「よいか、村を元に戻しあのミレシアンを必ず救うのだ。村の名誉にかけて!!」


村人達は雄叫びをあげると一斉にティアマト率いる謎の集団と戦闘に入った。


「ミレシアン、お前は下がっていろ」


ヴォヴォカが鯉口を切ったまま立ち竦んでいるぴあのを抱えると、


村の外へ駆けようとした。


「あらあら、逃さないわ…!!」


ティアマトは、ヴォヴォカに連れられて逃げようとする、


ぴあのを追撃しようとするが、譁紗祢のスピニングラッシュに捕まる。


「やれやれ、東方に伝わる言葉に


【目の前の獲物に夢中の蟷螂は頭上の鳥に気が付かない】


というけど、あなたの事を言うのね、ティアマト!!」


譁紗祢がニヤリと笑ったその刹那、ティアマトは巻き込まれた


悪霊戦士達と共に引き寄せられ、チェーンのダメージを受け吹き飛ばされる。


そこにファイナルヒットを発動させたシャマラが襲いかかる。


「ガルル…」


シャマラの連続攻撃がティアマトを切り裂く。


しかし、途中から手応えがなくなった。


「!?」


ティアマトはテレポートを使って難を逃れていた。


「アタシとしたことが油断していたわ。怪我で使い物にならない真里谷ぴあのだけ


かと思っていたら…うふ。


でもこうでなくっちゃゲームは面白くないわよねぇ。


まぁいいわ、今日の所は見逃してあ・げ・る。


こいつらの相手でもしておくといいわ…またね!アデュー!!」


ティアマトはそう言い残して、消え去ってしまった。


「…」


後味の悪いシャマラだったが、気を取り直して戦っている村人の加勢に加わる。


そこへ、ヴォヴォカがぴあのを抱えて戻ってきた。


「何故戻ってきたのじゃ!」


サンダーを放ちながらコウサイが叫ぶが、


「村長、おいらは逃げたくないんだよ!!


マジッククリスチャンやヴァーリャが化け物(巨大な悪霊)になっているんだ。


絶対に助ける!!だからヴォヴォカに戻ってくれと頼んだんだ!!」


地面に降ろされたぴあの、並々ならぬ決意の表情でコウサイに訴える。


「村長、ミレシアンの気持ちわかる」


言葉少なに、ヴォヴォカがぴあのの意見に賛同する。


そして戦闘の続く広場へ斧を抱えて突っ込んで行った。


「…わかった、だが儂の傍から離れるな。


お前はまだ怪我の養生中なのだ、まだ足手まといだという事を忘れるでない」


「わかってるよ…」


悔しいがコウサイの言ったことは事実だ。自分が無闇に突っ込んで、


味方の足手まといになることは愚の骨頂であることは、


痛いほど分かる。分を弁えてここで待機することが、


最善の結果であると素早く結論付けたぴあのは、


【八丁念仏団子刺し】を杖代わりにして戦いの様子を見守っていた。


譁紗祢、ちじこ、シャマラ、ヴォヴォカ、村人達も善戦していたが、


クェーサルのファイナルヒットに手を焼いていた。


「村長…」


「我慢だ、今は我慢のときだ。クェーサルめ、


化け物を盾に上手に戦っておるわ…。


村人やミレシアンを攻撃できないと知って…」


ぴあのも歯がゆいが、コウサイも歯がゆい表情を隠さずにいる。


するとそこへ、


巨大な黄色い何かが高速で突進してきた。


「何じゃ、敵の新手か!?」


色めき立つコウサイとぴあのだったが、その正体が黄色いアロハシャツを着込んだ


ジャイアントである事に気付き、表情が明るくなった。


「コール村でパーリーピーポーがいると聞いて飛んできましたっ!!」


颯爽と現れたのは、ジャイアントのえもめん。


ケルティックウォーリアアックスを片手に全身に喜びを湛えつつ、


混沌とする戦いの場でまずは咆哮一声、やおら一瞬立ち止まって敬礼を行い、


スタンピードを発動させ、クェーサル達の集団に驀進(ばくしん)


クェーサルにのみ標的を絞って攻撃し、


ジャンプ一番飛び上がってケルティックウォーリアアックスを、


頭上から次々に叩き込んでいく。


斧を振り下ろすたびに片っ端から真っ二つにされるクェーサル達。


更にはファイナルストライクまで発動させて、


益々嬉々とした笑顔を絶やすことなく、


かわるがわるファイナルヒットで立ち向かうクェーサル達を、


血潮の海へ叩き込んでいく。


毛むくじゃら(巨大な悪霊)には極力手を出さず、


悪霊戦士・弓使い・詩人・グールを全て殲滅させ、


追い込まれたクェーサル達へ譁紗祢が、


トドメとばかりにトゥアリムエクスプロージョンで攻撃を行い、


トゥアリムの大爆発と同時に謎の集団は全滅した。


それと同時に、毛むくじゃら(巨大な悪霊)達の動きがピタッと止まった。


そこへシャマラが呪文を唱え始める。その直後、


シャマラから白い霧が立ち込め始めた。


「なんだなんだ…」


白い霧が村中に立ち込め、騒然とする村人たちだったが、


霧が晴れたと同時に毛むくじゃら(巨大な悪霊)と化していた村人やミレシアンが、


元の姿で倒れていたのを見て、村中から歓声が上がった。


「アクルから習得したか…。でかしたぞ、シャマラ」


「はぁはぁ…あたいにもできた…」


近寄ってきたコウサイに、シャマラは肩で息をしながらも安堵の表情を浮かべる。


「シャマラにしちゃ、珍しい表情だな…」


ぴあのがシャマラを見つめていると、


その視線に気づいたシャマラは表情をいつもの無表情(ポーカーフェイス)に戻す。


「まずは怪我をした者、化け物に変えられた者を助け起こすのだ」


コウサイの陣頭指揮のもと、村の女たちも駆り出されて救護活動が始まった。


ぴあのもマジッククリスチャンとヴァーリャを探していたが…、


「何だありゃ、この子は…化け物になってた訳じゃねぇな…


うわっ、酒くさっ!!こいつ、二日酔いで寝てたのかよ。


しっかし、よくもまぁあの戦いの中で踏み潰されずにいたものだわ」


二日酔いで苦しんでいるミレシアンの少女は、


今にも吐きそうな表情で悶絶していた。


「ま、マスター…私達は一体?」


「何があったんだ?????」


マジッククリスチャンとヴァーリャが、ぴあのの姿に気が付いて歩み寄ってきた。


「おう、お前たち無事だったか!!あ、すまんけどヴァーリャ。


おいらの寝床にあるカバン持っていてくれないか」


「お、おう…」


何が何だか分からないまま、


ヴァーリャはぴあのに言われるままカバンを取りにぴあのの小屋へ駆けていく。


「ぴあのさん、大丈夫?」


譁紗祢とちじこがえもめんを伴ってぴあのの許へ駆け寄ってきた。


「譁紗祢さん、ちじこさん…ありがとう!


そして…黄色いアロハの兄ちゃん!!


めっちゃかっこよかったよ!!いぇい!!」


親指を立てて片目を瞑るぴあの。


それに応える譁紗祢とちじこと、ダブルピースで応えるえもめん。


「お初っス!俺はミレシアンスーパージャイアントのえもめんっス。


実は俺も、【春花秋月】ギルドメンバーなんですよ!」


えもめんはニヤニヤしながら譁紗祢とちじこを横目で見つつ、ぴあのに挨拶する。


しかし、どうしても我慢が出来なかったのか、やおら、


「ちじこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


と、いきなり絶叫し始めるえもめん。


「えもめん…わかってるでしょうね…」


譁紗祢が無言でチェーンを握っている。


表情は伺い知れないが譁紗祢の身体が小刻みに震えている。


「は、はは…。いつもの癖で…さーせん」


「えもめん、場所を弁えろ!」


慌てて譁紗祢に謝るえもめんに、ちじこが追い打ちの釘を差し込む。


「ちょ、ちょっと。なんだなんだ?面白すぎて…いてて、


…傷に障るからあんまり笑わせるなよ…」


ぴあのが体勢を崩しかけるが、そこをえもめんが抱き留める。


「わりぃね」


「いいっすよ。ぴあのさんって、結構カワイイし」


「え~も~め~ん~」


譁紗祢とちじこから只ならぬオーラを感じ取ったえもめんが、


真面目な表情でぴあのを抱える。


「マジッククリスチャン、また春花秋月だぜ!!これは何かあるな!!


オラ…じゃねぇや…おいら、なんかわくわくしてきたぞ…」


えもめんに抱きかかえられたぴあのは、


子供の様に嬉々としてマジッククリスチャンに話しかける。


状況が呑み込めないマジッククリスチャンはただ苦笑するばかり。


そんな騒ぎの中、視線を二日酔いの少女に向けた春花秋月の3人が、


その少女を見て3人共揃って目が点になっていた。


「あいとぅ!!!!またやったのか!!!!」


3人は口を揃えてあきれた口調で言い放つ。


「ふぁっ!?この子も春花秋月のギルドメンバーなのか!?」


呆れた表情のぴあのだったが…すぐに何か思いついたのか、


急にニヤニヤし始めた。


「おーい、ぴあの。カバン持ってきたぞー!で、何するんだ?」


それと同時にヴァーリャが、ぴあののかばんを手に戻ってきた。


「ヨシ!ヨシ!!えもめん、ありがと。降ろしてもらっていいかな?」


えもめんにそっと地面に降ろしてもらったぴあのは、


カバンの中をごそごそと漁り始める。


「マスター、何をされるのです?」


マジッククリスチャンの言葉にぴあのは、


「この酔っぱらい娘の二日酔いを治す特効薬作るのさ!」


「ぴあのさん、調合するの?」


今度はちじこが興味津々に訊ねる。


「この子は、薬だったら絶対飲まないね!顔を見てわかる!!だから…」


そう言ってカバンから取り出したのはシェーカーだった。


「カクテル…ですか?」


「そだよ、ちじこさん。カクテルに二日酔いの特効薬があるんだよ。


今回はこのシェーカーは使わないんだけどね。あ、誰か…。


クシナに頼んで井戸水でよく冷えたトマトを貰ってきてくれないかな?」


ぴあのはそう言うと、グラスを準備して目の細かい篩を取り出した。


「私が行きましょう」


譁紗祢が駆け足でクシナの許へ行き、よく冷えたトマトを持って帰ってきた。


「トンクス!では、このトマトを…」


ぴあのはそういうとトマトの皮を丁寧に剥いて用意しておいた篩で、


丁寧に裏漉しを始める。


「料理だな…」


「ま、そんなもんだね」


ヴァーリャとえもめんは興味津々にぴあのがトマトジュースを作る様を、


飽きもせず眺めている。周囲は戦闘の片付けでバタバタしているが、


ぴあのの周囲だけは別世界のようだった。作業の手を止め、


興味深く見る村人も少しずつ現れ始める。


「よし、トマトジュースをグラスに注いで…」


ぴあのは自作のトマトジュースをグラスに流し込むと、


カバンの中からイメンマハ産のビールを取り出した。


「ビール!!ルア姐さんがお土産にってくれたお酒ですよ!!」


「流石姐さんだわ。よく分かってる!」


ちじこの言葉に頷くぴあの。


そのイメンマハ産ビールをトマトジュースに注ぎ込み、


軽くステア(混ぜる)する。


「よし、完成。【レッド・アイ】だ!えもめん、


そこの酔っぱらい娘を起こしてくれない?


おいら、身体がこんな調子だからさ…たはは」


寂しそうに笑うぴあのにえもめんは快く頷くと、


酔っ払った少女・あいとぅを介抱し座らせる。


「ほれほれ、あんたの好きなお酒だよ~」


ぴあのはあいとぅの口にレッド・アイを含ませる。


あいとぅは最初は拒絶していたが、


カクテルと分かると自らグラスをぴあのから奪い取って、


ゴクゴクと飲み干した。


「ぷふぁー…生き返ったっ!!」


ぴあのの言葉通り、二日酔いが一気に醒めてシラフに戻った少女。


周囲からは拍手が巻き起こった。


「すごい!マスター、バーテンダーされていたのですか?」


ぴあのの別の一面を垣間見たマジッククリスチャンが、目を点にして訊ねる。


「昔取った杵柄だよ。タラにいた頃に、少しな…」


少し照れくさそうにいうぴあのに、


「ありがとう、ありがとう!!二日酔いで吐きそうだったし、


頭ガンガンでにっちもさっちもどうにもこうにもブルドックソースだったのよね。


あ、あたし…」


二日酔い少女・あいとぅは早口で捲し立てる。


「あいとぅ、また飲みすぎ?はるるんからお灸据えられるよ…」


譁紗祢の言葉があいとぅを突き刺すが、


「あたしはお酒があってのあいとぅなの!!お酒の無い人生なんて…。


あ、あたしの二日酔い治してくれてありがとう!あいとぅです、よろしく!!」


全く反省の色なしの様子でニコニコしながら、


改めてぴあのに礼を述べるあいとぅ。


「おいおい、ぴあの…またコッテコテな奴と知り合ったな…」


ヴァーリャが目を点にしながらぴあのに言うと、


「いいじゃんいいじゃん。みんな面白いしさ、これで、いいのだ!!


なーんちゃって!!」


そういってケラケラ笑うぴあの。


「なんだそりゃ…」


ヴァーリャの言葉を尻目に、再び心の底から笑えた気がしたぴあのであった。




To Be Continued …

手負いの真里谷ぴあのに降りかかる困難、彼女は乗り越えられるのか?


【Divisionbell 運命の鐘】が静かにその音色を奏で始めたエリンで待ち受けるものは?


今回のタイトルは


イギリスのロックバンド・BBMベイカーブルースムーアのナンバーから。


とにかくゲイリー・ムーアのギターがかっこいいです!

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