Vol.2 タルタロスからの使者
真里谷ぴあのとマジッククリスチャンは
どういう経緯で春花秋月のメンバーと
行動を共にしているのか?
その経緯を語るためにはクロノジカルを遡って、
真里谷ぴあの達がソウルストリームに再び戻ってきた頃に戻らなければならない。
再びエリンに戻る決意をしたぴあのとマジッククリスチャンだったが、
ぴあのが降り立った場所は、明らかにエリンと異なる場所であった。
何故だか見覚えのある場所…あちこちに響く砲声や銃声。
砲弾の着弾がひっきりなしに起こり、着弾が土砂や岩を巻き上げる。
そして…硫黄の臭いが立ち込めるあの場所…そうだ、紛れもない。
昭和20年3月の硫黄島だ。ぴあのの前世の人物が戦死した直後なのだろうか、
炎上するM4シャーマンの後ろから日本兵達が突撃を行っている。
しかし不思議なことに、ぴあのの姿が見えていないらしく、
誰も気が付かない様に通り過ぎていく。しかし、
着弾の振動やアメリカ軍が日本軍陣地に向けて放つ火炎放射器の音など、
生々しい戦闘音は聞こえてくる。
「こ、ここは…」
ぴあのは擱座するM4シャーマンを見つめて、ここで戦った記憶が
薄っすらと蘇ってきた。視線を南にやると、摺鉢山に星条旗が風を
受けてはためいている。
「間違いない、おいらはここにいたんだ…この戦いの中に…」
腰に差した刀【八丁念仏団子刺し】の柄を掴みながら、辺りを見渡す。
その刹那、自分に向けて火炎が放たれてきた。明らかにアメリカ軍の
火炎放射器の炎ではない。シリンダーから放たれた火炎だ。ぴあのは
転がるように火炎を回避して【八丁念仏団子刺し】の鯉口を切り、
起き上がると正眼に構えて炎が放たれた方向を見やる。
砲弾が近くに着弾して衝撃がぴあのを襲うが、放たれた火炎の方向を
凝視して身動き一つ動かさないでいる。
「その火炎…フレイマーだな!!出てこい!!」
ぴあのはエリンの錬金術師がいると判断して叫ぶ。自分をここに
引き摺り込んだ張本人だろうと、素早く予想を立てて次の一手を考える。
しかし、フレイマーを放った人物を見てぴあのは驚愕した。それは王政
錬金術師の衣装をまとった真里谷ぴあのだったからだ。
「おいらが…もう一人!?」
驚愕するぴあのに王政錬金術師のぴあのは、
不敵に微笑みながら言葉を放つ。
「ぴあの…真里谷ぴあの…どうしてお前はここにいる、真里谷ぴあの。
お前は死んだんだぞ!モエ海にその身を投げて、死んだんだぞ。
ダメじゃないか!死んだ奴が出てきちゃあ!!私が、私が本当の真里谷ぴあのだ。
お前は…お前は…死んでなきゃあなぁ!!!!!」
そう言い終わると同時に、王政錬金術師のぴあのが
ウォーターキャノンをぴあのに放つ。
「!?」
もう一人の自分の言葉に混乱しながらもぴあのは素早くマナシールドを展開し、
突進して斬り込みをかける。水しぶきを浴びながら、猛然ともう一人の自分に
向けて突進するぴあの。
しかし王政錬金術師のぴあのはそうはさせじと、
ウィンドブラストでぴあのを吹き飛ばす。
「真里谷ぴあの…お前は死んでなきゃダメだ。本当の真里谷ぴあのが、
今度こそ息の根を止めてやろう!!」
王政錬金術師のぴあのが叫んだ刹那、体が光り輝き始めた。
全身が光り輝き始めたと同時に無数の剣が王政錬金術師のぴあのから飛び出し、
ぴあの目掛けて襲いかかる。
「!?」
襲いかかる無数の剣に足を止め、懸命に【八丁念仏団子刺し】で切り払うが、
無尽蔵に剣が襲いかかる。
「こいつぁ、クラウ・ソラスやヌアザが使っていた
LoS…。こいつはおいらの…ドッペルゲンガー…うわっ!!」
王政錬金術師のぴあのはライトオブソードを放ちながら、
エレメンタルウェーブを発動させ、
強化フローズンブラストでぴあのを氷漬けにしてしまった。
「しくった、身動きが取れない…ぎゃあああああ!!」
氷漬けにされたぴあのに無数の剣が襲いかかる。その中の数本が、
ぴあのの左目を切り裂いた。30秒ほどして全身の氷は融けたが、
全身をズタズタに切り裂かれ、
特に左目からは夥しい出血で立ち上がることすら出来ず、
その場で倒れ込んでしまった。
「はぁ…はぁ…」
全身を切り刻まれ着ていた服はズタボロになり、
全身血まみれで半裸状態になりながらもなお、
【八丁念仏団子刺し】を杖に立ち上がろうとしたが、
起き上がることすら出来ず自分の流した血溜まりに倒れ込む。
「このままで…このままでは絶対に…終われない…。
おいらは…、おいらはマジッククリスチャンと約束したんだ…。
必ず…エリンに戻ると…」
息も絶え絶えになりながらも、再び起き上がろうとするぴあの。
そんなぴあのに、王政錬金術師のぴあのは無感情な表情で近づくと、
ぴあのの頭を踏みつけた。
「死人が何を今更…世迷い言は寝てから言うものだ」
グリグリと踵を回し、出血のひどい左目に蹴りを入れる。
「ぎゃあああああ!!」
悶え苦しむぴあのを王政錬金術師のぴあのは冷笑を浮かべる。
「いいぞいいそ、その悲鳴…私にとって心地よい音色だ…」
エリンで幾多の修羅場を乗り越えてきたぴあのではあったが、
何者かがぴあのの転生直後にエリンではない世界での戦闘に困惑し、
自らの前世の世界を見せつけられ心が揺れ動いた所を巧妙に突き、
かつ自分のドッペルゲンガーを差し向け、LoSを駆使して
圧倒的火力でなぶり殺しにされている。
この状況を何とか打破したいが、
余りにもダメージが大きすぎて身動き一つ取れない。
そして、ドッペルゲンガーは自分の存在を抹消するつもりでいる。
そう感じたぴあのは激しい激痛で動けない身体で、
右手に握った【八丁念仏団子刺し】を自分の体に容赦ない蹴りを入れ続ける
王政錬金術師のぴあのの足に突き刺した。
「!!!!!!!!」
王政錬金術師のぴあのは驚いたように後ろに飛び退いたが、
慌てる様子もなくシリンダーを装備し直して、
倒れているぴあのに対してヒュドラを設置した。
4つの頭を持つヒュドラがぴあのの横で毒を吐き始める。
「最後まで諦めない気概、特別に認めてやろう。だが、これで終わりだ!!
真里谷ぴあの!!」
足の痛みなど全く気にもならないようだ…それどころか、
刀で突き刺した傷がみるみる消えている王政錬金術師のぴあの、
勝ち誇った顔で血溜まりに倒れ込むぴあのに冷笑を向ける。
「うぅ…」
意識が遠のいていくぴあの。ヒュドラの毒までも受けて、
最早これまでと覚悟を決めたその時…どこからともなく蹄の音が聞こえてきた。
「!?」
王政錬金術師のぴあの、予想外の音に周囲を見渡す。
そこへ黒い馬に跨った人物が、虫の息のぴあのを片手で一本釣りの如く掴み上げると、
その勢いを利用して馬上へ載せた。そして、踵を返すと
王政錬金術師のぴあのへ向けて騎馬突撃を始めた。
「な、なんだと…」
馬が蹄で王政錬金術師のぴあのを踏み潰そうとしたが、
素早く身を翻しウォーターキャノンを騎馬へ放った。
しかしその騎馬の人物は腰の刀を引き抜くと素早く一閃させ、
ウォーターキャノンの水球を両断する。
その騎乗の人物の服装は、エリンの民・トゥアハ・デ・ダナンにとっては
異装そのものであった。
ぴあのと同じ【刀】を持っているが、
東方の大陸に住むという山の民が着ていると伝わる、
襟が高く袖の長い体をすっぽり覆うガウン…【チュバ】。
チュバはくるぶしまであり、そのチュバを紐できつく腰をしばっている。
そして、幅広の背中まで届くような
赤・白・黒・緑・黄などの段だら模様がついている 色彩鮮やかな【パンデン】、
そう呼ばれているエプロンのようなものを着用している。
更には、頭から顔全体を白黒のチェック柄の模様があしらわれた
縦横百数十cm程の布【クーフィーヤ】を巻きつけている。
そのクーフィーヤの隙間から垣間見える隻眼からは殺気を帯びた眼光が炯々と、
ドッペルゲンガーのぴあのを射ている。
一見、野獣化したエルフ・ファルコンの衣服にも似てるようには見えるが、
全く違う異装であることは誰の目にも明らかであった。
「ヒラールよ、このミレシアンを安全な場所へ頼む」
ヒラール…イリアの言葉で【新月】という意味の名を持つ黒い馬は
主人の言葉を受けて嘶く(馬が声を高く上げげ鳴くこと)と、
ぴあのを乗せて南の方角…摺鉢山方面へ走り出した。
「なんの、逃がすものか…」
王政錬金術師のぴあのはそういうや否や、自らの分身を大量に発生させてきた。
「追え、追え!!」
本体のぴあのは分身のぴあのに命令をするが、謎の人物が動きが先手を取った。
素早くファイナルヒットを発動させ、ヒラールを追いかけようとした
分身のぴあのを次から次に手にした刀で切り刻み、完全に殲滅させてしまった。
「貴様…何者だ!?」
王政錬金術師のぴあのが、初めて困惑の表情を見せる。
「ドッペルゲンガーに名乗る名など持ち合わせて居らぬわ!
貴様はこの【痣丸】の錆落としにしてくれる」
隻眼をギラつかせて、王政錬金術師のぴあのと対峙する謎の人物。
「ふん、小癪な…」
王政錬金術師のぴあのは再び不敵に笑みを漏らすと、全身をを光り輝かせ始めた。
「ぬかったな、たわけが!浜千鳥斬月!!」
謎の人物はそう叫ぶと、刀を地面に突き立てて王政錬金術師のぴあのに向けて
突進を始めた。
「な、なに!」
突進スキルの数倍の速さで迫りくる謎の人物の動きに焦りを隠せない
王政錬金術師のぴあの。
「笑止笑止!!貴様はそのLoSの発動するまでに
数秒の間がある事を知らぬわけではなかろうて!!」
【浜千鳥斬月】で王政錬金術師のぴあのに瞬く間に接近すると、
謎の人物は【痣丸】を王政錬金術師のぴあのの股下から頭へ目掛け、
全力を振り絞って斬り上げた。
「!!!!!」
切り裂かれ、派手に血しぶきを巻き上げながら身体を舞い上がらせる
王政錬金術師のぴあの。
謎の人物はすかさずクナイを取り出し、
王政錬金術師のぴあのの影に影縛りを放つ。
「な、なに!?」
中空で身動きが止まる王政錬金術師のぴあのに、
腰に刀と共にぶら下げている改造ダウラSEをホルスターから抜くと、
すかさずフレンジーで攻撃を始める。
「こいつ…何者だ!?エリンのスキルを身に着けている…だと…」
ダメージの蓄積が確実になってきたか、
王政錬金術師のぴあのにも苦悶の表情が浮かび上がる。
影縛りが解けたと同時に落下する王政錬金術師のぴあのに、
謎の人物は今度は煙玉を投げつける…朧煙幕である。
そしておもむろに指笛を吹くと、ヒラールが戻ってきた。
馬上で倒れこんでいるぴあのは微かながら意識が戻っていた。
「こ、これは…」
ぴあのの言葉など聞こえなかったかのように、謎の人物はヒラールに飛び乗ると、
念押しの為か今度は起爆札の付いたクナイを朧煙幕の周囲に投げつける。
大地陣で王政錬金術師のぴあのを足止めし、
馬首を再び南の摺鉢山方面へ向かわせようとする。
「逃さん…逃さんぞ…」
大地陣の爆発で吹き飛ばされながらも、
全身がズタズタになった王政錬金術師のぴあの、
シリンダーを構えて騎乗の人物たちに攻撃を加えようとしたその時、
謎の人物は背負っていた銃身の長い銃を片手で構え、
王政錬金術師のぴあのに向けて照準を合わせた。
それは現実世界でいうところの【ライフル】そのものであったが、
銃口には何か発射機が取り付けられている。
「異形なる魂よ、塵芥となれ!!」
謎の人物がそう叫ぶと、銃のトリガーを引いた。
発射機から擲弾が放たれ、
ゾンビのように追いかけてくる王政錬金術師のぴあのの足元に着弾する。
その着弾と同時に周囲で巻き起こる砲撃の着弾威力の数倍以上の爆発と火炎が
王政錬金術師のぴあのに襲いかかる。
もはや声すら上げられないままに、
王政錬金術師のぴあのはその爆発と火炎の中に包まれ、
文字どおり消え去ってしまった。
その光景を見届けて、
謎の人物は長銃身の銃を背に負うと馬首を摺鉢山に向けて走らせた。
「真里谷ぴあの、貴様はまだくたばる訳にはいかん!!
エリンで為すべき事を成し遂げろ!!生きよ、生きよ!!」
薄れゆく意識の中で、
ぴあのは謎の人物が自分に語りかける声をしっかりと聞いていた。
「!!!!!!!」
「マスター!!」
2人の女性の顔が、不安そうにおいらを覗き込んでいた。
「こ、ここは…。うっ、いてて…」
全身が痛いし、特に左目が痛い…気がつけばおいらは全身が包帯で
ぐるぐる巻きにされている。
右目だけ出している状態でまるでミイラ女だ。
だが、はっきりと分かるのはここは硫黄島ではない、ということだ。
うだるような蒸し暑さ、そしておいらが寝かされている家…コール村だ。
そしておいらの顔を覗き込む2人の女性の顔…
コール村のクシナとマジッククリスチャン、
不安そうに見つめる顔がぼんやりとしているおいらの視界に飛び込んできた。
「やっと意識が戻ったのですね。よかった…」
マジッククリスチャンとクシナは我が事のように、
二人で喜びを分かち合っている。
おいらは硫黄島でドッペルゲンガーと戦ってたはずだった…でも、
今はコール村にいるようだ。あの戦いは夢かと思ったがそうではない…
現実に戦っていたのだと、硫黄島の戦いの時ほどの激痛ではないが、
相変わらず全身を電撃の如く走る激しい痛みに堪えながら
おいらは感じ取っていた。
「マスターはカルーダンジョンのロビーで全身血まみれで
虫の息だったそうです。それを…」
「俺とヴォヴォカが連れてきてやったんだ。感謝してもらわないとな!」
エルフの少年がニヤニヤしながらおいらの顔を覗き込んできた。
「マスター、紹介します。彼はミレシアンエルフのヴァーリャです」
「もう少し発見が遅れたら…カルーの化物共のご馳走になってたんだぜ!」
ドヤ顔で自分の置かれていた状況を話すヴァーリャに、
「ヴァーリャ、ありがとな…」
やっとの思いでお礼を言えたおいらは、再び意識を失った。
「マスター!」
心配するマジッククリスチャンに気がついたかのように、
コウサイ村長が部屋に入ってきた。
「大丈夫だ、ミレシアン。この娘はもう安心だ。今は休ませる時じゃ。
心穏やかにな…」
諭すように語るコウサイに、マジッククリスチャンはホッとした様子だ。
「ソウルストリームからエリンに帰ってきた時、
私だけがケルラベースキャンプに辿り着いて…。
マスターの姿が見えなく、胸騒ぎを覚えましたが…しかし、マスターの身に何が?」
深い眠りについた、傷だらけのおいらの顔をマジッククリスチャンはまじまじと見つめていた。
To Be Continued …
九死に一生を得たぴあのだが、エリンではない空間からぴあのを
救い出した謎の人物とは?
また、その空間を創り出し、ドッペルゲンガーを配置してぴあのを
絶体絶命まで追い込んだ人物とは?謎が謎を呼び覚ます・・・。
今回のタイトルはNHKスペシャル「大モンゴル」のサントラより。
冨田勲作曲の一曲であります。