ダメ天使
巷で、ダメ天使がもてはやされている。完全にブームだ。大人気だ。
人間たちは愉快にダンスしながらダメ天使の歌を歌っている。歌にまでなってるとか…なんて羨ましい!!違う!
本人は何やらニコニコと満足げなのがまた心底腹立たしい。
なんで、なんでだ!!僕だって一生懸命優秀な天使やってるのにぃイイイイ!!!
今日なんて彷徨う魂四つも成仏させたんだぞ!!昨日は三人生まれ変わらせたし!!
なんでずっこけて魂落っことして一般市民にのっけちゃって二重人格化させちゃう、ダメ天使の方がもてはやされる?!
「てへ☆やっちゃった!」
じゃねえよおおおおおお!!!
こいつは矢だってノーコンでさ?!イケメンに撃ち込むはずの矢をじじいに撃ち込んだりしてさ?!最近繁華街でやけに年の差カップルが生まれてるってんで緊急会議も開かれたぐらいなんだ。残された女子の気持ち考えろよ!!先に逝くことになったじじいの悲しみを考えろよ!!
さらにさらにだ!!天界に定期的に昇って報告しなきゃなんないのに羽が抜けちゃってあがれないとかさあ!!屋上で天使仲間に見つけてもらって引っ張って行ってもらおうとして、飛び降りたら人間が助けようとしちゃって落っこちてさ!!まさかの予想外事故で緊急転生処置とかマジねえわ!!!世界作るのめっちゃ大変で神様組合からかなり絞られたんだぞ?!
「あたしむいてないのかなあ…ぐすっ…。」
泣きゃあ済むと思ってやがる!!
どっかの無気力なクソニートんとこで一緒になってゲームに夢中になって、うっかり魂取り損ねて爆睡とかさあ!!寿命尽きてんのに生きてるとか在り得ねえだろうが!!!僕が間に合わなかったら悪魔に魂刈られるとこだったんだぞ!!!天使が眠りこけてて魂刈られるとか聞いたことねえよ!!!
まったく苛立つ!腹立たしくて仕方がねえ!!なんでこんな奴が天使やってんだ!!!
「あのね、あたし生まれることになったの…お世話になりました。」
イライラしていると、件のダメ天使が僕のところに挨拶にやってきた。なんでも、あまりにも出来が悪いので、一度人として生まれて修行をして来いと上司に言われたらしい。
「いつも助けてくれてありがとう。…見送りとお迎えはあなたにお願いしたいな。ダメ?」
天使は生まれていく魂を送り出して、迎えに行くっていう仕事があるんだ。いつもお前の面倒は見てたからな、そんなのは簡単な事なんだけれども!
「はっきり言ってお前のダメっぷりからすると絶対に嫌な予感しかしないからいやだ。僕も一緒に生まれる展開しか見えない!!」
あれだよ、生まれるために飛び込む雲の大穴。あそこで絶対に転んだりして僕も道連れになるパターンだ!!
「ひどーい!!もういいよ!!さよなら!!」
ダメ天使はプンプンしながら生まれていった。…どうやら誰も道連れにはしなかったようだ、いやあよかったよかった。
ダメ天使がいなくなってかなり天界は穏やかになった。ミスをする者がいないとこんなにも物事は穏やかに進むというのか。日々終わる命を迎えに行き、生まれる命を送り出し。街に出て彷徨う魂を保護して生まれ変わる手伝いをしたり。
「あっ!!もうお迎え?!」
今日も僕は町に出て彷徨う魂を保護してたんだけど、ここでまさかのあの元ダメ天使に出会った。…なんで僕が見えるんだ、こいつの寿命は…まだあるじゃないか!!
「いや、まだだけど、なんで僕のこと見えるのさ?!」
「なんかあたし生まれる時に天使の輪をね、持ってきちゃったのよう。小さくして耳の中に入れてたの忘れてて…。」
こいつ!!またやらかしてたよ!!!
「悪いんだけど、上に持ってってくれないかなー、お願い☆」
僕は元ダメ天使から指輪になっていた天使の輪を受け取って、そのまま天界に昇った。
天界は大騒ぎだった。天使の輪には天界の記憶が残っている。元ダメ天使が天界の記憶を持ったまま大人になってしまったことが大問題になっているのだ。通常の人間の思考とは違うから、普通の人間らしく生きることができないし、どこで天界のことを暴露されるかわからない。ただでさえ匿名でいろんなことがつぶやけるご時世、軽い気持ちで世界のネタバレをされてしまったら大変なことになる。
「君、監視役になりなさい。」
「いや、女性がいいと思いますよ、今彼女は女子でしょう、僕が彼女にそばにいるのは得策じゃない。」
こんなのは絶対に受けるべきじゃない!問題が起きるとしか思えないじゃないか!!!大勢の天使の皆さんが一斉に僕を見る。なんだこの雰囲気は。
「女子では彼女のドジには太刀打ちできないし、君は何かと因縁が深かっただろう。彼女も君を希望してるんだ、諦めて寄り添ってきてくれないか。」
僕は…一斉に拍手を受けて地上に…地上に降り立つことにっ!!!
「ちょっと待て、天使ちゃん@本物って…何モロバレしてんだよ!!!!」
「こんなの誰も本当だと思わないってーきゃは☆」
「アカウント削除だ!!!」
かくして僕は元ダメ天使に寄り添う事となったのだが。…こいつは、人としては孤独な人生を共に送る羽目になってしまった。その異端児っぷりから、家族と疎遠になり、伴侶も見つからなかった。しかし、常に僕が寄り添っているので寂しさとは無縁の人生になった。
「じゃあそろそろ上がるか。」
「うん。」
ようやく帰る時がやってきた。元ダメ天使の老いた体から魂が抜ける。僕はそれを抱えて懐かしい天界へと向かった。
「お世話になりました☆」
「まったくだ!!もうとっとと生まれちまえよ!!!」
今度は天使の輪もない、まっさらな魂のままで生まれる、ダメ天使。僕は知っている、この魂はもう天使にはなれないという事を。いろいろと問題を起こし過ぎたのだ。だから、このまま、お別れだ。
「お迎えは来てくれるんでしょう?」
「さあな!!!」
「いじわる!!」
最後に、元ダメ天使がこぼした一粒の涙が、印象的だった。
地上に行くたびに、元ダメ天使を見に行った。今回は素直に育っているようだ。ドジなところは変わっていない。…ずいぶん、生きにくいみたいだ。時折流す涙に、僕の心が痛んだ。
「どうして、私は一人ぼっちなんだろう。」
素直に育った元ダメ天使は、初めての人生に振り回されていた。人として生きる初めての挑戦。人のレベルが低いのだから仕方がない。人としての経験がないうえに、魂そのものが持つ特性はドジ。よほどの熟練者でないとクリアするのが難しい人生。
「誰か、誰か。私と、共に。」
魂がどんどん傷ついていく。とても、見ていられない。こいつは僕と共にいた時、あんなにもニコニコとしていたのに。笑顔を見た記憶がとても遠い。…記憶が思い出せなくなる頃に、元ダメ天使は張りのない手を空に伸ばした。その手を、そっとつかむと、魂がスッと抜けたので、そのまま抱きしめる。
「…お疲れさま。」
「迎え、来てくれたんだ。」
魂となった元ダメ天使は、久しぶりにニコッと笑ったが、それから笑うことはなかった。
「どうしても、生まれたくないのか。」
「うん…。」
元ダメ天使の魂はずいぶん傷ついてしまったようだ。生まれようとしない。寂しい人生の記憶が魂に刻まれてしまったのだ。このままでは、魂ごと消滅してしまう。悪魔が捕獲に来る可能性だって、ある。
「このままじゃお前食われちまうんだぞ!」
「食われても、いいよ。なんか疲れちゃった。」
この僕をあれだけ翻弄して、怒り狂わせて、天界全体をフルパワーで混乱に貶めた魂が食われて終わるだと?!
僕は知ってるんだよ!
お前がどれだけ頭の悪い考え方を惜しむことなく披露していたか!
お前がどれだけ能天気に笑っていたか!!
お前がどれだけ誰かの悲しみに涙をこぼしたのか!
お前が、どれだけ。
僕と一緒にいたと思っているんだ!!
「僕が一緒に生まれてやる。だから、生まれるんだ。」
「え…。」
天使だって、生まれることができるのさ。僕なら、きっとうまく生きることができるはず。僕は天使界のエリートだからな。
「お前と一緒に生きてやる。」
「でも。」
僕は元ダメ天使の手を引き、仲の良い天使のところへ行った。
「おい、こいつと赤い糸を結んでくれ。」
「お前本気なのか?!もうじき役職付くって言ってたのに、このタイミングで生まれるつもりなのか!」
役職なんて僕はいらないのさ。今生まれなかったらきっと僕は、ずっと心にわだかまりが残ったまま魂を迎えに行くことになる。
僕は魂に寄り添えるような天使になりたいんだ。
傷ついた魂に寄り添えるような魂でいたいと願うんだ。
僕が生まれることできっと、僕の魂はより輝くはずなんだ。
僕は、傷ついた魂と寄り添う事で、その傷を癒したいと願うんだ。
僕と、元ダメ天使の小指に、赤い糸が結ばれる。
「いいか、僕と出会うまで、生きるんだ。約束。」
「できる、かな…。」
「疑問形にするな、自信を持て。僕たちは出会うんだ。最後まで、必ず隣にいるから。」
「隣に…?」
「僕はお前のダメっぷりを知ってる、だから安心して生まれたらいいんだ。」
「…いいの?」
「いいんだ、よし行くぞ。」
「うん…ありがとう。」
僕は、仲の良い天使に自分の天使の輪を差し出した。
「これ、迎えの時に持ってきてくれる?」
「よし分かった。…いい人生を!」
「迎えに来たぞ、お疲れさま。」
「おお、サンキュー。」
天使の輪を返してもらったとたんに僕の中に記憶がよみがえる。
…ダメ天使は本当にダメ天使だった。
赤い糸を結んだのに、別の糸無しと一緒にいることを望んだんだよなあ…。ドジが長じて、事故であっという間にここに戻ってきたらしい。で、ここにきて糸の事に気が付いたが後の祭り。まだ僕と出会えると信じて生まれていったもののすれ違ってばかりで結局今糸無しと一緒に暮らしているらしい。
「なんかあれだけ意気込んで生まれていったのにお疲れ様だったなあ…。」
「ま、こういう事もあるさ、じゃあ僕はお迎えに行こうかな。」
僕は、久しぶりに天使に戻って地上へと降り立った。
「…お疲れさま。」
「迎え、来てくれたんだ!」
ああ、家族に囲まれてるな。幸せな人生だったようだ。魂の傷もなくなっている。ベッドの上で浮遊していた元ダメ天使の魂をふわりと抱きしめて、天に昇る。
魂となった元ダメ天使は、久しぶりにニコッと笑った。
「お前な!せっかく結んだ糸を無駄にしやがって!!僕独り身で結構きつかったんだぞ!!」
「ごめんちゃい☆」
はは、ずいぶん…回復したみたいじゃないか。もう大丈夫だな、うん。
「よし、じゃあ次生まれてみるかあ!」
「はーい☆」
縁があったのかなかったのか、僕はずいぶん元ダメ天使の魂をむかえにいくことになった。いつ見ても何かやらかしていて、どこか目が離せない、危うい人生。いつ落ち込むのかひやひやしながらも…。
「どーも☆お迎え、乙!!」
「…お前なあ!!!」
心のどこかで、また赤い糸を結んで…共に生まれることを望んでいたり、しないでも、ない。