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異能と踊る終末曲  作者: 疎遠
序章 舞台に上がるその前に
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 現実というやつは、無情で、無慈悲で、いつだって唐突だ。

 わかりやすい伏線などはなく、気づいた時にはもう手遅れ。

 どんな作り物(フィクション)よりも救いがない。それが現実というものだった。


「————え、あの。今、なんて?」

 七月二〇日。一八時。

 伊月修哉は、困惑しきった顔で目の前の男にそう訊き返した。

「うん?いや、だからね」

 呆然と立ち尽くす彼とは対照的に、男は呑気そのものといった様子で頭を掻きながら、


「家、なくなっちゃいました」


「…………、」

 ダメだった。

 もう一回聞いても意味不明だった。

 もはや痛みを訴えだしたこめかみを揉み解しながら、伊月は冷静になって考えてみる。

 家は家でも学校から帰ってきたらなくなってる家。これなーんだ?

「いや分かるかよ!バカじゃねえの⁉」

「うんうん分かる分かる。そうなるよなー、俺も最初なったもん。だけどね修哉くん、これが現実なんですよ。現実ってやつはいつだって唐突に訪れるもんなんだな」

「…………、」

 たはーっ、いい事言った!などと一人ではしゃいでる父親を異常にどつきまわしたくなる。

 もはやどこからツッコめばいいのかすら判然としない。ボケと言えば『差し押さえ』などと貼り紙された扉の前で立ち尽くす男二人というこの状況がすでにド級のボケだ。

「とりあえず」溜息を一つ。「なんで?」

「なんでって?」

「なんでいきなりウチにこんな物々しい赤紙広告が貼られてんの?」

「あーそれなー」

 父親————伊月俊介はなぜか照れたように頬を赤らめて。

 こう言い放った。

「この前ウチに山科さんって来たでしょ。父さんの友達って言った人」

「ああ」

「その人さあ、工場の社長さんなんだけどね?結構経営厳しいらしくて」

「……はあ」

「お金貸してくれって言われたので貸したらそのままどっか行っちゃったので家賃払えなくなりました!」

「…………ちなみに、いくら?」

「聞いて驚け二〇〇〇万だ」

「…………、へっ」

 にへら、と伊月は力なく笑った。

 もう本当にバカバカしくて笑った。

「…………、バカじゃねえの?バッカじゃねえの⁉何してくれてんだテメェ勝手に‼おま、二〇〇〇万ってお前、どういう金額か分かってんのか!サラリーマンの平均年収五年分だぞ‼どうすんだこれ俺らこれからどうやって生きていくんだ五年間‼貯金とかあんの⁉」

「いやー、全部渡しちゃったから無いんだなそれが。ぶっちゃけ今日の晩御飯すらどうしようか困ってる。修哉金貸してくんない?」

「流れるように息子へ無心してんじゃねえ‼」

 もはや頭を抱えるしかなかった。

 どこでどう人生のレールを敷き間違えたらこんな訳のわからないルートに迷い込むのか。

 お人好しがどうこうとかいうレベルじゃない。根本的に頭が悪すぎるだろうウチの親父。

「あー…………、その。絶望してるとこ悪いんだけどね修哉くん」

「……なんだよ。まだなんかあんのか」

「うん。いや、そのね。あるっていうかだね」

「?」

 ここにきて妙に歯切れが悪くなった俊介に、伊月は眉を顰めて顔を上げる。

 そして、


「正直、父さんも自分を賄うので精一杯だから、これから先修哉の面倒とか見れそうにありません。独り立ちの時期です。頑張って生きて」

「は?」


 ————伊月修哉。齢一七にしてホームレス。

 さて、この先どうする?

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