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コマドリの願い事



逆さ虹の森には

どんな願い事でも叶える池があり、それを守る動物たちがいました。


ヘビ、キツネ、クマ、アライグマ、リス、

コマドリ


この動物たちにはそれぞれお話があるのですが、今回はコマドリの話をしましょう。



今ではコマドリはとても歌が上手い鳥さんとして有名です。しかしその昔、コマドリは歌えませんでした。ではなぜ、コマドリは歌えるようになったのか。


昔々のひと昔、

こんなお話です。






真冬の、雪がコンコンと降っている中を一羽のコマドリが風に何度もさらわれそうになりながらも飛んでいました。


コマドリは何かとても急いでいるようです。


やがて、雪が止んで、空には月がピカピカと光り、雪原が月の光をボンヤリと反射しています。そんな景色が果ての果てまで続いているのにも関わらず、コマドリは休みもせずに飛び続けます。


しばらくすると、雪原の向こうになにやら黒い影のようなものが見え始めました。コマドリはそこに向かって今まで以上に羽ばたきます。


黒い影のようなものは木々がたくさん生えている場所、森です。


ただこの森は普通の森とは違います。


そこは逆さ虹の森と呼ばれるところでした。

逆さ虹の森にはあるお話がありました。

逆さ虹の森のドングリ池にドングリを投げると願い事が叶う。というものです。


そう、このコマドリはそのお話を信じて、逆さ虹の森まで飛び続けてきたのです。


コマドリは小さな羽をパタパタと一生懸命に動かして、どうにか森の中に入ります。


だけれど、今まで飛び続けてきたのに疲れたのでしょうか。


コマドリは森の入り口の近くにあるカシの木の枝に止まります。


「どうしよう、急がないといけないのに。」

「何を急がないといけないんだい。」

「だれ?」


コマドリは声の主を探します。キョロキョロ見回しても見つかりません。

空耳かしら、コマドリがそう思った時。


「ここだよ!君の頭の上の枝だ!」

と同じ声で言われ、コマドリはその枝を見ます。そこには、


「こんばんは、森の外からようこそ!

逆さ虹の森へ!」

とコマドリより少し大きいリスが木の枝に逆さまにぶら下がっていました。


そのリスはコマドリが知っているリスとは違って首のところに虹色のリボンを結んでいました。


「わっ」

コマドリは驚いて後ろに下がります。


それを見たリスは

「イタズラ成功!」

と嬉しそうにニコニコ笑いながらコマドリがいる枝まで降りてきました。

コマドリはさっきまでぶら下がっていたリスが怖いのか枝の端に寄っています。


コマドリはおそるおそるリスに声をかけます。

「リスさんですか、、」


リスはニコニコと笑いながら

「いかにも、この逆さ虹の森で一番のイタズラ好きと言ったらこのリスさ!」

と胸を張っていいます。


コマドリはリスのことをまじまじと見ます。

このリスはあの有名な逆さ虹の森の動物の一匹だったんだ。とコマドリは思いました。


食いしん坊のヘビ


お人好しのキツネ


暴れん坊のアライグマ


怖がりのクマ


そして最後に

イタズラ好きのリス


逆さ虹の森の動物

彼らはとても有名でした。


なぜかというと彼らは願い事を叶える池を守っていて、池に行くためには彼らに会わないといけないからです。


「リスさん!あの、」

「なんだい、コマドリさん。」

「あの、あの、」


さっきこのリスに驚かされたコマドリにとって、このイタズラ好きのリスに話しかけるのは怖いことです。だけど、このリスに話しかけないと池に行くことができません。コマドリは勇気を出してリスに話しかけます。


「あの、ドングリ池に、い、行きたいんです。」

コマドリはとても小さな声で言いました。


「コマドリさんはなんで行きたいのかな。」

するとリスはコマドリの目を面白いものを見つけたようにジーっと見ます。

見られたコマドリは今まで以上にリスが怖くなります。ですが勇気を振り絞って言います。



「歌う力が欲しい。」




コマドリが言い終えるとビューっと音を立てながら雪原から風が吹き、コマドリはその冷たさのあまり小さな体をさらに小さくし、目をつむります。しばらくして風がやみ、目を開くと、同じ枝にいたはずのリスがいません。

コマドリはリスさんはどこと思いながらあたりをキョロキョロ見ます。すると、


「コマドリさん、ここはとても寒い。ここにいてはコマドリさんも、このリスも風邪を引いてしまう。

それにコマドリさんは、森の外から飛んできて疲れているみたいだし。

よし!ここはひとつ、風が入らない森の奥のある広場に行こうか。」

コマドリが今いる枝の真下からリスの声が聞こえます。コマドリは声がした方を見ると、リスはコマドリがいる木の根元の雪の積もった地面にちょこんと立っていました。


コマドリはリスが目をつむった一瞬の間に地面に降りたことに驚いてポカンとしていると、リスは森の奥へちょこちょこと歩き出します。


「早くしないとおいていくよ。」

とコマドリにいって

「待って!」

ポカンとしていたコマドリはあわててリスの後を追って地面に降ります。


コマドリは鳥なので最初、飛んでリスの後についていこうと思いました。しかし森の中を吹く風は思っていたより強く、森まで飛び続け疲れたコマドリにとってその風の中を飛ぶのは無理でした。ですからこうしてリスの後を歩いているのです。


リスの後を歩きながら、茂みを抜け、石を飛び越え、コマドリは森の奥へ進んでいきます。


どこまでいくのかしら。

コマドリはそう思いました。

リスの背中を見続けるのに疲れたコマドリは不意に夜空を見上げました。


夜空に浮かんでいる星がピカピカと瞬きます。するとゴウゴウという大きな音とともに風がどこからともなく吹きました。風は地面の雪を巻き上げ、コマドリに吹き付けてきました。コマドリは目をつぶってその風に耐えます。


風は強く、小さな体の飛び疲れたコマドリは簡単に吹き飛ばされてしまうようにみえました。しかし、コマドリは飛ばされまい踏ん張ります。飛ばされてしまったら、リスから離れてしまったら、願い事を叶えることができなくなる。そう思い、風に耐えます。


けれども、風は止まずむしろ強くなり地面にいるコマドリを吹き飛ばそうとします。コマドリは願い事を叶えるという思いを力に変え、踏ん張ります。


風はますます強くなり、コマドリはとうとう風に吹き飛ばされそうになりました。

ついに飛ばされる、そうおもえたその時、


「歌う力が欲しい!」


コマドリは叫びました。

それはリスを怖がり、やっとの思いで出した小さな声とは全く違いました。

コマドリを吹き飛ばそうとしていた風が出していた音すらかき消すほどのとてもとても大きな声でした。


すると


コマドリに吹き付けていたはずの風はパタリと止みました。目をつぶっていたコマドリはおそるおそる目を開けると、リスがコマドリの目の前にいて、コマドリの顔をジーっと覗いていました。


「わっ」

コマドリは最初にリスを見た時のように後ろに下がります。


「ついたよ。」

後ずさりしたコマドリをよそにリスは嬉しそうにコマドリに言いました。


言われたコマドリはやっと気づきます。


ここはどこ?

コマドリはそう思いました。


真っ白な冷たい雪がかかった木々や地面ではなく、代わりに黄色や赤色の温かい落ち葉があたり一面に広がっています。そして丸く円を描くように何百本もの木の根がその周りを囲っていました。

さっきまで寒い風に吹き飛ばされそうになっていたのになんでこんな風のない温かいところにいるのだろう。


「ここが森の奥にある広場、

根っこ広場だよ。」

リスはコマドリを見ながら嬉しそうに言いました。そして続けてこう言いました。


「おめでとう、コマドリさん。

コマドリさんは願い事を叶える池、ドングリ池に行くことができる。」


ドングリ池に行くことができる。


リスにそういわれコマドリはもっとわけが分からなくなりました。コマドリはあたりをキョロキョロと落ち着きもなく見回しています。


そんなコマドリを見たリスが

「コマドリさんってドングリ池のお話を信じてこの逆さ虹の森にきたんだよね。」

「はい。」

すると、リスはコマドリを見ます。

逆さ虹の森にきてから何回もリスに見られたコマドリはもうリスと目を合わせても、怖いとは思いませんでした。


リスはコマドリと最初にあった時みたいにニコニコ笑っていながら言います。

「そのお話には伝えていないことがあるんだ。」

「伝えていないこと?」

コマドリは目をパチクリさせてリスを見ます。リスは続けてこう言いました。


「そう、そりゃドングリ池に行くには森の動物たちに会わないといけないって話なんだけど、本当はそれだけじゃないんだ。

逆さ虹の森が本当に願い事を叶えたいのか知るために試練を与える。それを乗り越えたら晴れて森の動物たちにドングリ池に案内してもらえる。本当はそんなお話なんだ。」


コマドリはリスの話を聞いて、さっきまで強い風が吹いていてそれに飛ばされそうになったことを思い出しました。

あれが試練だったんだ。

コマドリは目をパチクリするのをやめて、代わりに口をポカンと開けました。


「だから、逆さ虹の森が与えた試練を乗り越えたコマドリさんは、このリスの案内で、ドングリ池にいくことができる。」


そうリスに言われ、コマドリは嬉しさのあまり飛び上がろうとしました。


これで願い事を叶えられる。

早く願い事を叶えに行かないと。


そう思い羽を動かし飛ぼうとした時、


「あれ?」


いくら飛ぼうと動かそうとしても羽が思うように動かないのです。


コマドリは変だな、おかしいなと思いながら羽を動かそうとします。ですが羽はコマドリが思うように動きません。それに心なしか体のあちこちがキリキリと痛むような気がしましたし、息をするのもしんどい。そんな感じでした。


「コマドリさんは疲れているように見える。しばらく根っこ広場で休んでからドングリ池に案内するよ。」

とリスは心配そうに言いました。

このリスは今まで何回もドングリ池に願いにいく者を案内しましたから、コマドリが試練で疲れていることを知っていました。

リスはコマドリも今までと同じように一度休んでから行くと思っていました。


しかし、コマドリは、

「休んでる暇、ない、早く、朝になる前に、願い事を、叶えないと。」

と息を絶え絶え、言います。


リスはそんなコマドリに驚かされました。

リスが知っている限り、試練を乗り越えた後に休まずにドングリ池に行こうとする者を見たことがなかったからです。


疲れて弱っているはずなのに弱音を吐かないで願い事を叶えに行きたいと言ったコマドリを見てリスは気になっていたことがふつふつと湧いてきました。


どうして、真冬の夜の逆さ虹の森にきたのだろう。

今まできた者はみんな、季節がいい春や秋に来ていたのになんでコマドリさんはこんな、寒さが厳しい真冬の夜にきたのだろう。


コマドリさんが「歌う力が欲しい。」と願うのだろう。

今まできた者の中にはコマドリさん、以外のコマドリも何羽かいた。でも彼ら彼女らの中に「歌う力が欲しい。」と願う者は誰もいなかった。それはコマドリという鳥にとって、歌えないことは当たり前のことで、コマドリたちが歌いたいと思っているのを見たことも聞いたこともリスは今までありませんでした。


しかし、


「歌う力が欲しい。」


まさか冬に森の外から誰も来ないだろうと思いながらも、パトロールを兼ねて、カシの木の実を取りに森の入り口に行ったらコマドリさんがいて、願い事を叶えたいとリスに小さな声でしたがはっきりと伝えてきたのです。


あ、このコマドリさんは本当に叶えたいんだ。とリスは思いました。


だからリスはコマドリさんを試練を受けさせるために森の奥へ案内したのです。そして、試練を乗り越えたコマドリさんをすごいとリスは思いました。


「リス、さん、お願いです。

早く、ドングリ池に案内し、てください。」


息するのも疲れてしんどいはずなのに羽をバタつかせコマドリは途切れ途切れにリスにドングリ池に連れて行ってもらえるよう頼みます。


「どうしてコマドリさんはそんなにも願い事

、歌う力が欲しいの。」


コマドリを少しでもいいから休んで欲しい。

何がコマドリさんに願い事を叶えたいと思わせているのだろう。それを話している間だけでもいいから休んで欲しい。

そう思いリスはコマドリに聞きました。


するとコマドリは羽を動かそうとするのをやめて、肩で息をしながらリスに言いました。

「歌う、力が欲しい。歌えるようになれば、お姫様を、助けることができるから。」

そこから、どうしてコマドリが逆さ虹の森にきたのか話し始めました。



コマドリは逆さ虹の森から遠く離れたところにある小さな国のお姫様と友だちでした。お姫様とコマドリは子どもの頃からどこに行くのもいつも一緒でコマドリが飛べるようになり、お姫様が美しく成長しても側にいました。


コマドリはこれから先もずっとお姫様の側にいるそう思っていました。


しかし、お姫様は呪われてしまいました。


お姫様に呪いを掛けたのは、魔女でした。

その魔女、容姿はとても美しい女性ですが、美しさを保つために999人の女の子の命を奪い、999年も生き続ける恐ろしい化け物でした。


魔女は自分が永遠に美しく生き続けるために、千人の女の子の心臓を必要としていました。魔女は千人目はとびっきりに美しい女の子ではなくてはと思い探し、目をつけたのはお姫様でした。


ある日突然現れた魔女はお姫様以外のお城にいる人たちを石に変え、お姫様には呪いを掛けました。


その呪いは魔女の誕生日の朝にお姫様が心臓を魔女に渡さなかったら、国中の大地を草木が一本も生えない荒地に変えるというものでした。


お姫様は悲しみました。


魔女なんかのために死にたくない。


でも、


私が心臓を渡さなかったら、国中の大地が荒れてしまう。


そう悩んでいるお姫様をコマドリはそばで見ているぐらいしかできませんでした。


呪いを掛けられたのがお姫様じゃなくて、このコマドリだったら良かったのに、と何度何度思いました。


魔女の誕生日がもう明日と迫っていたその時、魔女は突然呪いを解く方法を言いました。しかし、それは大変なものでした。



コマドリが歌うと呪いが解ける。



それは無理難題としかいいようがないものでした。なにせ、コマドリたちはみんな歌が歌えないのが当たり前でしたから。


コマドリも最初は無理だと思いました。しかしその時、逆さ虹の森のお話を思い出し、飛んできたのです。


逆さ虹の森のドングリ池に行けば願い事を叶えることができる。


その話を信じて。


「そんなことがあってコマドリさんは、逆さ虹の森にきたんだね。」

「はい。」


そう返事をしたコマドリは肩で息するのをやめて今は落ち着いています。


「逆さ虹の森にきてどのくらいの時間が経っているのかよくわかりませんが、魔女の誕生日、朝になる前にお姫様のところに戻りたいんです。」


コマドリはうつむきながらそう言いました。


すること、リスが少し考えるようなそぶりをした後、


「コマドリさん、ちょっとこっちを見てくれないか。」

とコマドリに声をかけます。

コマドリは顔を上げ、リスの方を見ると、リスは手に赤い木の実を持ってコマドリさんの顔をじっと見ていました。


「コマドリさん、今すぐにコマドリさんが動けるようになる方法が一つだけある。」


そう言われてコマドリは目をパチクリした。


「この赤い木の実を食べるんだ。ただこの実はとてつもなく苦い。それでも食べるかい。」

「食べます。」

コマドリは迷いもなく食べることを選びました。


返事を聞いたリスはうなずくと、コマドリに渡します。コマドリは渡された赤い木の実をジーッと見ます。赤い木の実はキラキラと光っていてまるで綺麗なビーズ玉のようでした。

コマドリは意を決して口に放り込みます。


今まで食べたことのないような苦い味がコマドリの口いっぱいに広がります。


あまりの苦さに吐き出そうとする口を意地で閉じて飲み込みます。


するとどうでしょう。


コマドリが感じていた疲れがなくなりました。

キリキリと感じていた痛みがなくなり、息をするのも楽になりました。

そしてコマドリは試すように羽を動かすと、


「飛べた!やった!」

羽が思った通りに動き、飛べたことをコマドリは喜びました。


その様子を見たリスは満足げに笑いながらコマドリに言いました。

「よし!コマドリさんが元気になったみたいだし、ドングリ池に行きましょうか!」

「はい!」


リスに案内され、コマドリは木の根っこが絡み合い壁のようになっているところに近づきます。周りをぐるりと囲んでいる木の根の壁は全部同じように見えていましたが、コマドリとリスが立っているそこだけ、変わっていました。


そこには真っ暗なトンネルがあったのです。


「ここを通り抜けたらすぐにドングリ池がある。そしたら、このドングリを投げて願い事を言って。」

といってどこからかドングリを出してきました。ドングリはまるで宝石のようにキラキラとドングリそのものが七色に光っています。

「ここから先はこのドングリが道を教えてくれる。このリスが案内できるのはここまでなんだ。」

リスはコマドリにドングリを渡しました。


渡されたコマドリはぺこりとリスにおじぎをしました。

「リスさん!今までありがとうございました!」


「わざわざ、ありがとうなんて言わなくてもいいよ。ドングリ池に願い事を叶えに行く者を案内するのがこのリスを含め、森の動物たちの役目だから。さあ、行って。

コマドリさんはお姫様を助けに行くんだ。」

リスは相変わらずニコニコと笑いながら言いました。


「はい、行ってきます!リスさん!」

「行ってらっしゃい。コマドリさん。」


リスに別れを告げ、コマドリはトンネルに入ります。ドングリの照らす光を頼りにトンネルの中を進みます。


しばらく進んでいると視線の先にぽつんと光の点が見えてきてました。コマドリは、トンネルの出口だと思い、そこに向かって飛び込みました。


飛び込んだコマドリは眩しさのあまりめをつぶります。そしてゆっくりと目を開けました。

目を開けるとそこには、


「きれい。」

コマドリが、いえこの場所に来た誰もがそう声に出して見とれてしまうほどのきれいな景色が広がっていました。


月光が照らし、霜が降りた針葉樹に囲まれた池があり、その池の中にはいくつものドングリがキラキラと色を変えながら輝いています。


ちょっとの間見ほれていたコマドリは願い事を叶えに来たことを思い出します。


持っているドングリを池の方に投げます。


そして


「歌う力が欲しい。」

投げるのと一緒にコマドリは願い事を言いました。


ドングリは、ぽちゃんと音を立てて池の中に

水面に波紋が広がらせたその時、池から七色の光が飛び出してきました。


その光は空へ浮かび形を作ります。


逆さ虹だ。願い事が叶ったんだ。


コマドリは逆さ虹に見とれて声も出せずにその場でじっとしていると逆さ虹が近づいてきて、コマドリを包み込みました。眩しさのあまりコマドリは目をつぶります。

虹は小さくなりコマドリの首元にかかります。そして、コマドリは目を開けて水面に映る姿をみると


「虹色のリボン?」


首に結ばれていたのは虹色のリボンでした。それはリスが付けていたものと一緒です。


それは願い事が叶えられた証でした。


コマドリはリボンを風に揺らしながら飛び立ちました。



お姫様を絶対助けるという思いを胸に抱いて





一方で、ここはコマドリの友達のお姫様の国のお城です。その城の王座に魔女は杖を片手に我がもの顔で座っていました。


東の空が明るくなり始め、夜が明けるのがもうすぐだと誰がみてもわかりました。


魔女はどうせ、千人目も心臓を渡すだろうと思っていました。今までだってそうです。


大きな湖の水をからにしたら解ける。


冬に咲かない花を咲かせられたら解ける。


こんな風に魔女は呪いを解く方法を無理難題にしていました。

今までこの無理難題を解決して、魔女の呪いを解いた者は一人もいませんでした。


魔女は王座からお姫様を見ます。

魔女の目の前にはお姫様がスッと背筋を伸ばして魔女を見ています。日が差していない王座の間は薄暗く、お姫様がどんな表情をしているのかわかりません。お姫様の後ろにはお姫様のお父さんとお母さんである、王様と王妃様は石にされていました。その周りに王様の家臣たちも同じように石にされていました。


「あー、あー、お姫様を守ってくれる人はみぃんな私が石にしちゃった。残されたのはか弱いお姫様ただ一人、あー、かわいそー。」

と魔女は大きな声でわざわざお姫様に聞こえるように言います。


お姫様は魔女に言い返しもせずにただ黙っているだけです。その様子が魔女を焦らせました。今まで魔女が命を奪ってきた女の子たちは、魔女を前にすると泣き、殺さないでと魔女にすがり着きました。その姿をしばらく見て楽しんだ後、魔女は女の子たちの心臓を奪ったのです。


しかし、今、魔女の目の前にいるお姫様は違いました。泣きもせず、かといって魔女にすがりもせずに暗がりからじっと魔女を見ています。


「なんか言ったらお姫様!どうせ後ちょっとで朝になって私がお姫様の心臓をもらうんだから!辞世の言葉くらい言ったら!」

と魔女は言いました。


それでもお姫様は黙っていました。


そんな様子のお姫様に魔女はついに痺れを切らしました。

「まあ、いいわ!だってもう朝になるんだもの。さあ選びなさい!


自分の心臓かこの国の大地か。」

魔女は東側の窓を指差します。

そこから朝日がさしこみ、お姫様を照らします。


すると、今まで黙っていたお姫様がキッと魔女を睨みました。


「魔女、あなたなんかにこの国の大地を荒地にしたり、私の心臓を渡したりしないわ。」

お姫様は力強い声で言い返しました。



言い返したお姫様に腹を立てた魔女は顔を真っ赤にさせました。魔女が腹を立てたのは、今まで言い返されたことがなかったからです。魔女は何がなんでもお姫様の心臓を奪おとしました。


「ええい!呪いを使えばお姫様、お前の心臓なんざ簡単に手に入る!」

魔女は手に持っている杖をお姫様に向けます。

「"かの者の心臓を奪え。"」

杖から黒い煙が出てお姫様の方へ向かいます。


黒い煙がもう少しでお姫様に触れると思ったその時、


王座の間にとても美しい鳥の歌声が響いたのです。


するとどうでしょう。お姫様に届きそうだった黒い煙が溶けるように消えました。


魔女は驚きます。今まさに心臓を奪おうとしていた呪いが解けて消えたのです。


魔女は歌声が聞こえる方を見ます。


朝日を背に一羽のコマドリがちょこんと窓枠に止まっていました。

「まさか、」

魔女はコマドリが歌えるようになるなんて少しも思っていなかったためとても驚きます。


そのコマドリは魔女が知っているコマドリとは違って首のところに虹色のリボンを結んでいました。

そうです。ドングリ池で願い事を叶えたあのコマドリです。


コマドリは歌います。誰もが初めて聞くとても美しい声で、


するとどうでしょう。


石にされていた王様と王妃様、その家臣たちが元に戻りました。実は彼らもお姫様と同じように呪いをかけられていて、同じように解く方法がコマドリが歌うことだったのです。


コマドリの歌声がお城中に広がり、魔女にかけられた呪いがみんな解け消えます。お城のあちこちで元に戻ったこと喜ぶ声が聞こえてきます。

しかし、魔女が指を加えて呪いが解けていくのを見ているわけがありませんでした。このままコマドリが歌い続けたら城中にかけた呪いが解けてしまう。

そう思った魔女はコマドリに死の呪いをかけます。


魔女が放った呪いは一直線にコマドリの方へ行き、もう少しで歌っているコマドリに届きそうになったその時、リボンが光り、呪いを魔女の方へ跳ね返しました。


魔女は返ってきた呪いを受けて、断末魔もあげないでサラサラと塵になり死にました。



コマドリが歌い終えるとお城中から拍手喝さいでした。


拍手が鳴り止まないなか歌い終えたコマドリは、真っ先にお姫様のところに行きました。


お姫様は泣きながらコマドリを撫でます。

「ありがとう。本当にありがとう。」


コマドリは撫でられながら、これからもずっとお姫様の側にいようと思いました。


その後、コマドリはお姫様の側にいながらも時々、逆さ虹の森に遊びに行き、時々他のコマドリたちに歌を教えて行きました。

そしていつしかコマドリは

歌上手のコマドリと呼ばれ、逆さ虹の森の動物になりましたとさ。めでたし、めでたし。

読了ありがとうございました。

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