王都とウツボと(6)
「投げるぞ!」
「鬼!悪魔!ろくでn」
有無を言わさずにウツボに向かって投げられた。
意識が飛びそうな状況でウツボの周りにいるタコやらイカやらエビやらの大群から色々な物が私に向かって飛んでくる。
矢だったりビームみたいなのだったり貝みたいなのだったり。
私達をウツボに近付けないつもりだろう。
弾幕ってやつだ。
「弾きながら進め!」
「簡単に言いますけどねえ!」
ハイドラモードで矢と貝殻を弾きながらビームは気合いで避ける。
ギャグ漫画みたいだ。
このビームは魔法の類いなんだろう。
つらたん。
しかしもうウツボも目の前だ。
こっちはもう泣いてるんだよ。
上下に波打ちながら泳ぐウツボの背ビレの真ん中辺りにべちょりと大の字。
生臭。
「タリアさんまじで許せねえ」
全身生臭い。
これこのままウツボが深く潜ったら終わりだな。
顔をあげるとウツボの頭の方からデオさんが雄叫びと共に物凄いスピードで剣をウツボに刺したまま走って来て私の横を通りすぎて行った。
このぬるぬるの表面の上で良く走れるな。
私も立ち上がろうとするとぬっとり、ねっとり、もっちょりとした粘液に足を取られて滑って落ちそうになる。
「ちょいちょいちょい!やばいやばい!」
ハイドラに吸い付く特性はないのか。
いやこんなぬとぬとの表皮に吸い付きたくないけど。
バランスが完全に無くなる前に腰の包丁を二本抜いてウツボの表皮に刺す。
刺さった感じ本当にでかいウツボって感じだ。
背後から雄叫びがまた聞こえたかと思うと再びデオさんが走って来た。
今度は私の前で止まる。
「む、大丈夫か!?」
「ま、まあ生きてるって意味では無事です、外道エルフ、もといタリアさんは?」
「あそこだ」
デオさんが指差す方、頭の方で皮膚を斬りつけていた。
しかしねっとりとした粘液と分厚い皮膚を抜けずにひたすら同じ部位を斬り続けている。
「ナイフでやるから」
「あのナイフは特注品だからな、それよりこの化け物、どうする?私が全力で斬りつけても僅かに傷がついただけで直ぐに塞がってしまう」
「うーん、どうすると言われても、そういえば周りのイカとかタコとかからの攻撃がありませんね」
「まあ我々がここに立っている以上はな」
まあそれもそうか。
タリアさんと目が合って同じ所を斬るのをやめて空を蹴ってこっちに向かって来た。
「ダメだ、生半可な攻撃は通らん、こいつは剣先団の切り札級なんだろうな」
「ええ、諦めるんですか?」
もう王都を見えている。
あと数分でぶつかるだろう。
「いや、諦めないさ、こいつが剣先団の切り札なら私達も私達の切り札をぶつけるだけだ」
「何か策があるんですか?」
デオさんとタリアさんが目を合わせてから二人で私の肩を掴んだ。
「え?私?」
「言っただろう、お前が切り札だと」
「君の双肩に王都の未来が掛かっている、我々もサポートする」
勝手な事言っちゃって~。
「いやいや、具体的にどうするんですか?私に何が出来るっていうんですか」
「簡単だ、いつもみたいに魚を捌く、それだけじゃないか」
「いやいや……」
確かにそうかもしれないけどそうじゃないでしょ。
なんでこんな大冒険してんだ私は。
「いつも通りさ、締めて、血抜きして、捌く、今日の晩飯は決まりだな」
ウツボ料理のフルコースってか。
こういうのは勇者に任せる仕事ってもんでしょ。
「で、弱点はどこだっけ?」
「……首の後ろです」
「では私が運ぼう、時間がない」
そう言ってデオさんが私の襟を掴んだ。
「まじすか」
「大まじだ」
デオさんが突然走り出す。
私は身長もあるし体重も女としては重い方のはずだけど軽々と持つなぁ。
男らしい人は好きだよ。
というか良く滑らないな。
爆速のデオさんがすぐに弱点である首の後ろにたどり着いた。
「この辺りか!」
「そうです!」
「よし!やってくれ!」
デオさんの手から離された。
包丁を急所に突きつけて一気に振り下ろす。
「おお!」
一瞬大きく皮膚が裂けたがすぐに再生が始まった。
「ダメです!」
「まだだ!」
デオさんの剣も同じ場所に深々と刺さって傷口を広げる。
続けて飛んできたタリアさんの体重の掛かった一撃で更に傷口を広げていく。




