思い出とサバと(9)
私も蜜の近くで仕掛けを落とす。
蜜が仕掛けをあげたままペンライトでバケツの中の魚を見ていた。
「これ何するんだ?」
「うーん、サイズがサイズだしなぁ、焼きか味噌汁に入れるかぁ」
刺身にしてもいいけど可食部が少なそう。
「ふーん」
それだけ聞いて満足したのか再びコマセをカゴに注入してロッドを取り仕掛けを落とした。
蜜の二投目が着水する直前に私の仕掛けにもビンビンきた。
「おっし」
キャリキャリとリールを巻くとサバが二尾にアジっぽい魚が一尾。
サバが十センチ前後。
アジは十五センチ程度。
「お、丸っこいしシマアジかな?ちょっと小さい」
シマアジのシーズンは過ぎてるはずだ。
「おい、こっちも釣れたぞ」
蜜が仕掛けをスィーっと上げる。
アジが二尾。
二枚とも言う。
大漁だなぁ。
これだけ釣れれば十分かもしれない。
ちょっと続けた後暗くなってきたしバケツから水を抜いて魚を締めてクーラーボックスに入れて持ち帰り。
「相変わらず生臭いな」
「魚は皆生臭いもん」
むしろフローラルな香りの魚なんていたら嗅いでみたい。
うちの台所で女一人エプロンも付けずに私服に着替えて魚を捌く準備をする。
釣りのジャケットも私服っちゃ私服だけど。
蜜は斜め後ろで見てるだけだ。
「それではこちらのサバを捌いていく」
「サバと捌くを掛けてるのか?」
「ちゃちゃちゃちゃうわい」
捌くと言ってもこのサイズ、大きくて十センチ、小さくて五センチちょっとぐらいだろうか。
一部は鱗を取り頭を落として内臓を取ってお湯を張った鍋にポイ。
そして味噌を溶かして粉末出汁……は魚から出るからいらないかな。
後は一煮たち。
次は残った奴を捌いてと思っていたら後ろから手が伸びてきて私の腰を撫でくりまわした。
「ちょちょちょ危ない危ない、包丁使ってるから」
「お前エロい体してんな、知ってたけど」
「オッサンか!」
包丁を置いて手を洗い私の腰を撫で回し尻を揉む蜜の手を退けて無理やりソファーに座らせる。
「オッサンは邪魔するならテレビでも見てて」
今日の蜜はムラムラしてんのかな。
一度だけあったことがあるけど手つきが痴漢のそれ。
「なんだよ私は触ってもいいだろ」
「時と場合によるでしょ」
触っていいなんて言ったこと無い。
別にいいけどさ。
「テレビ見てるか携帯でも弄ってなさい、もしくは風呂沸かしてきて」
「仕方ないな」
捨て台詞を吐いてお風呂の方に行った。
ここまでしてアレだけどもしかして泊まってく気なのかな今日。
「まあ、いいけど」
 




