ハイドラとバスと(完)
「で、この瓶なんです?」
「うーんまあアレコレしてコレソレだよ」
「どれだよ」
知ったかぶりが一番ダサいぞ。
ダサいおさむ。
リリー達の家の前まで五分も歩かずに到着。
これなら毎日だっていけるな。
と言ってもそろそろ出発しないと一向に旅が進まないけど。
「いい加減そろそろ次の町を目指しますか」
「そうだなぁ、無賃でこれ以上世話になるのも申し訳ないからな、そろそろ休憩は終わりにしてもいいかもな、次はお待ちかねの港町だぞ」
テンションあげあげ~。
テンあげ~。
「楽しみですね~っとわぁ!」
玄関を開けた瞬間に黒い物体に飛び付かれた。
リリーだ。
「ど、どうしたのリリー!?何かあった!?」
首を強く横に振りながら私の胸にグリグリ頭を擦り付けてくる。
マーキングか。
「もしかして今の会話聞いてた?」
ピタリと動かなくなり上目遣いで見上げてくる。
リリーはちょっと泣きそうだ。
「大丈夫だよ、ちょっと出掛けるだけだから、その内帰って来るって」
「自分の世界に帰っちゃうんでしょ……」
いやまあ、最終的には。
後ろからヒョイっとタリアさんがリリーを私から剥がした。
「世話になったな楽しかったぞ、こいつは元の世界に帰っても私はまた来てやるからそんな顔をするな」
捨てられた子犬の様な瞳でタリアさんの顔を見上げてとぼとぼと悲しそうに家の中に入っていく。
まあ数日でなつかれたもんだね。
そういえば旦那さんまだ見てなかったな。
私達もリリーに続いて家の中へ。
凄くテンション低そうにリリーが門まで見送りをしてくれた。
丁度門番の当番だったジェイもいて事情を説明するとリリーの頭をぽんぽん叩いた。
「リリーが世話になったな」
「いえいえ、こちらこそお世話になりました」
「あーうん、ほらリリーってさみしがり屋だろ?特に俺も彼氏も相手にしてやれてなかったしさ」
ジェイの隣で強く自分のスカートを握って今にも泣きそうなリリー。
「そういえば旦那さんになるっていう男性最後まで見ませんでしたけど」
「ああ、今王都に行ってるんだ仕事でね、あと二、三日で帰ってくるはずだけど、ほらリリーがこんなだろ、中々人に心を開かなくてね」
まあ人の心が読めるというなら当然かもしれない。
それにしては私達は信用された方か。
年の近い女ってのが珍しかったのかもしれない。
「幼なじみはニーサっていう薬屋の娘だけだったからさ」
ああ、やっぱり。
「ま、俺が不在の時とか助かったよ、ありがとな」
リリーに最後まで泣き付かれたがジェイの説得により引き剥がすことに成功した。
お兄ちゃんは強い。
私も切り替えていこう。
「港町までは結構あるんですか?」
「そうだな、大体徒歩だと三日ぐらいかな」
長いな。
「じゃあゆっくり目指しますかぁ」
この旅が終わりそうになったらちゃんと挨拶にいこう。
リリーに。




