ハイドラとバスと(12)
「わ、わかんないんですけど、茸を採っていたらいきなり凄い音がしたと思ったら追われてて、茸も全部落としちゃうし」
それは非常に災難だ。
今の私ぐらい災難だ。
「ハイドラは賢い種族だ、何か気に障る事でもしたんだろう」
尻尾を踏むとか宝物を盗むとか?
タリアさんが指差す先、頭が五、いや六本ある巨大な蛇、緑色の体躯で赤い目がギラギラと光る。
全長は七、八メートルはあるだろうか。
その頭を全てキョロキョロさせてこの子を探している。
あのハイドラを見てると敵意みたいな物は感じないな。
私がハイドラの血と適合した為だろうか。
女の子は三つ編みで民族衣装を全部ベージュにした様な地味めの服を来てかわいいそばかすをちょっと作りまるで小動物の様にタリアさんの後ろからハイドラを見ていた。
チワワ。
「タリアさん、私どうもあのハイドラが敵だとは思えないんです、話してきます」
「蛇と話せるのか」
「いや、やったことないです、でもなんだかいける気がする」
根拠は無い。
タリアさんはふーっとため息を一つ吐くと女の子にここに居ろと言って再び私をお姫様抱っこ。
女の子のええーーという驚きの叫びを聞き目を瞑りながら落下する感覚を味わいながら歯を食いしばり半泣きで着地。
「泣く程か?」
「人間からしたら泣く程ですー」
時間にしたらほんの数秒だろうけど強くタリアさんに捕まりプルプルしていた。
大体二十メートルぐらいの高さだろうか。
ジェットコースターとか嫌いなんだよ。
キレそう。
目を開けてハイドラの方を見ると向こうを此方に気付いてぐるりと巨体を反転して器用にウネウネと体をうねらせながら急接近してきた。
「お、おい、平気なんだろうな!」
「タリアさんはあの子の所に」
落下に比べたらなにも怖くない。
私は壊れてしまったのかもしれない。
感情が。
厨二病かよ痛いな。
真っ赤な目が全て私を睨みながらグイグイと迫ってる。
憎しみ、怒り、そういうのじゃない気がする。
私の目の前でピタリと止まりばっくりと大きな口を開いて私を丸飲みにしそうな勢いだったが私を呑み込む寸前で全ての動きがピタリと止まった。
すぐに口を閉じて頭をすすすと退いて私に頭を預けてくる。
なでなで。
「そう、びっくりしたのね、もう大丈夫だよ」
私に頭をすりすりして全ての頭がペコリしてゆっくりと森の奥に向かって反転して去っていく。
その様子を見ていたタリアさんが女の子を抱えて上から降りてきた。
お姫様抱っこじゃなくておんぶなんだ。
「大丈夫だったのか?」
「原因はよくわかりませんけど、何かにびっくりしただけみたいです、寝起きだったんだと思います」
タリアさんが言った通り本当に賢い蛇だ。




