ハイドラとバスと(10)
もうほぼ完全に見えてる姿を確認して巻きながら岸辺に立つ。
さっきと同じように顎を持ち水面からあげてメジャーを当てる。
「うーん四十八、いい型釣れるぅ」
やっぱり平均してそこそこ大きい気がする。
これなら六十オーバーもいるかも。
ふいに正面を何か大きい影が通りすぎるのを感じて顔を上げるが何もいなかった。
「お、ここに居たのか」
「ん?ああ、タリアさんかぁ」
タリアさんの気配だったのかな。
普段と変わらない様子で腰に手を当ててちょっと偉そうに立っていた。
「探したぞ、こんな所までご苦労様な事だな」
「え、ここそんな遠いんです?釣りながら移動して来たからあまりそんな気してなかったんですけど」
今釣れたバスを川にリリースして手をジャバジャバ洗う。
「なんだ逃がすのか、ここは結構町から距離あるぞ」
全然気付かなかった。
そもそもタリアさんが近付いて来たことにすら気付かなかった
気配を消していたというよりは私が熱中しすぎていたのかもしれない。
昔から釣りに集中してしまうと周りが見えなくなるのは悪い癖だ。
「モンスターとか遭遇しなかったのか?」
「うーん、なにも、スライム一匹見てませんよ」
そういえばそうだ。
なんかこう、小動物的なのも見てない気がする。
熱中してただけかもしれないけど。
「まあ、帰りますかぁ」
「なんだ、もういいのか?」
「まあ本当はもう少し……」
突然、キャー!という悲鳴が近くの森林から聴こえ、タリアさんと二人で顔を合わせて釣り道具も置いて悲鳴の先を目指す。
今のは若い女性の声だろうか。
森林に近付けば近付く程胸が熱くなっていく。
なんだろう。
嫌な感じじゃない。
むしろ暖かい。
「どうした!」
私をお姫様だっこで抱えて風を蹴りながら凄い速さで森林に突入したタリアさんが私の異変を察したのか声の先に向かいながら聞いてくる。
「い、いや、あの、なんか胸の当たりが」
「なんだ巨乳アピールか!」
「今さらそんなのアピールしてどうするんですか」
というか私重くないかな。
胸はともかく身長もそこそこあるし。
というかお姫様だっこ人生初が女性で更に人外かぁ。
いいけど。
それはともかくとしてさっきの声はそんなに大きい悲鳴だったのだろうか、森に入ってからちょっと経つが声の主が見当たらない。
何かから逃げ続けているのかな。




