ドワーフとカマスと(3)
処理した巨カマスをクーラーボックスに入れて少量の水と共に放置。
「さて、じゃあ次釣りましょう」
「しかしどんな大変な作業かと思ったら案外楽しいじゃないか釣り」
「沼へようこそ」
確かに片付けが面倒、準備が面倒、臭い等の問題は色々あるけど釣りはあくまで一般人向けの娯楽だ。
多分。
「さて次は何が釣れるかな」
私の竿にはまだミミズみたいな生物が付いていたので再びそれを川に投げ入れる。
「いや、やってくれよ私の仕掛け」
そういえばタリアさんの仕掛けの川虫はカマスに丸飲みされていた。
「自分でやって」
「私だけ釣れて拗ねてるのか?」
「なんだと」
煽るじゃん。
森で二百年も生活してきたなら虫の針つけぐらい自分でやって欲しいものだ。
渋々自分仕掛けを引き上げて次の川虫を探す。
私だって早く巨大カマス釣りたい。
しかしあのサイズにあの暴れ方じゃ本当に道糸が保たないと思うんだけど風の精霊とかいうののサポートかな。
ずるい。
「おい早くしてくれ」
「これだから初心者は!」
いけないいけない、初心者をもっと深く沼に引きずり込むには優しくしないと。
暫く続けて私にさっきより少し小さめのカマスがヒット、タリアさんにももう一尾ヒット。
無事にカマス三尾で今日の昼飯を確保出来たという所だ。
「うーん、川魚だし泥抜き必要かなぁ、一見泥臭さないけど」
追加で釣り上げた二尾を処理しながら少し身を捌く。
「タリアさんあーん」
「あーん」
川で釣れたカマスの刺身だ。
人体実験。
「ん!うまい!」
大丈夫そうだ。
寄生虫とかは確認しないといけないから内臓は取ったけど、まさか川魚にアニサキスとか付いてないでしょ。
とりあえず害は無さそうと思い残りをクーラーボックスに入れようとするが……。
「あれ?クーラーボックスは?」
ない。
「知らないぞ」
話を振る前に返事が来た。
じゃあどこに……。
「あれじゃないか?」
少し離れた位置で確かにクーラーボックスがあったがあんな所に置いた記憶がない。
というか。
「動いてない?」
のっそのっそと少しずつではあるが離れている様に見える。
「ふーん、じゃあ泥棒じゃないか?」
「なんで他人事なの、今日のご飯だよあれ」
数秒見つめ合ってからクーラーボックス目掛けて二人で駆け出す。
「待てー!魚泥棒ー!」
タリアさんの叫び声に一瞬クーラーボックスがビクッとして速度を上げた。
クーラーボックスが走ってる様に見えなくもない。
いくら異世界だからってそんな事あってたまるか、それはあくまで私の私物だ。