平行世界とリュウグウノツカイと(3)
深夜、障子を開けて一人で月を眺める。
お風呂は檜の湯だった。
風情的な物を優先して浴衣を構築して着た。
時計を見ると二時。
鈴虫が鳴いている。
そういえば気にしなかったけど今この地球は秋に入ったばかりみたいだ。
帰る前に一回釣りしてこ。
このお寺の雰囲気だろうか、護られてる?というか包まれている感じがある。
マザーに母性マウントか?
お寺の中の気配は把握している。
今私の近くには誰もいない。
「蜜とかタリアさんとか無茶してないといいけど」
あのまま魔王の所に行ってる可能性は大いにある。
でもどうなんだろうな、倒すだけなら私じゃなくても出来るのだろうか。
それとも私にも倒せなかったりするのかな。
「自惚れてる可能性はある」
でも勝てる勝てないというより私達の地球を取り戻す為には倒さなきゃいけない。
でも勇者くん達も、飯田も返り討ちにあったんだっけ。
皆準備もちゃんとして、戦力を整えて行ったはずだ。
ん?突然人の気配だ。
「寝れないのですか?」
声をかけてきた。
いつの間にこんなに接近されたんだろう、縁側から姿勢をピシッとしたまま私を見ている。
坊主に見分けはつかないけど私が把握してない坊主だ。
ほんとに人間か?
見た目は六十代ぐらい。
「ええまあ、正確には寝なくても平気って感じですけど」
この力を得てからの睡眠はあくまで人間らしさを損なわない為にしてるだけだ、必要ではない。
坊主が私に背を向けて縁側に座る。
「あのオカマの事は許してやって下さいね、根はいいやつなんですよ」
口調は優しい、敵意みたいな物は感じない。
「はぁ、貴方は?」
「これは失敬、私はこの寺の先代、あのオカマの父親です」
「あ、なるほどそういう」
でもなんだろう、確かに気配はそこにあるのに不安定というか、フワフワしてるというか。
初めて感じる気配だ。
お坊さんだからなにか神聖なアレやソレやだったりがあるんだろうか。
「私も様々な人に会ってますけどねぇ、貴女みたいな方は初めてですよ」
「私みたいなというと?」
顔は外を見たままで頭だけこっくりこっくり動く。
眠いのかな。
「いい人、悪い人、色々見てますけどね、貴女はどれにも当てはまらない、言うなれば中立というか、それも何だか違うというか、全てを愛し、何も愛していないというか」
「何言ってるか良くわからないですね」
愛とか、それが何なのかとかは、私の領分じゃない。
どちらかというと蜜の方が向いてる。
「きっと魂の向いている方向が、我々と違うんですねぇ」
「魂?」
「えぇ、えぇ、誰しもが持っている物ですとも」
難しい話をする坊さんだわさ。
「きっと今、困難に立ち向かっているんでしょう、どれだけ強大な力があっても、一人では出来ない事もあるという事を忘れてはいけませんよ」
「はぇ?なんでそんな事」
すっと立ち上がったかと思うと私の顔を見て顔にシワを作ってニッコリ微笑む。
「あ、あの?」
月光に照らされた障子に影を作りながら歩いていく。
次の瞬間には気配が消えていた。
「……坊主こわ」
幽霊かよ。
幽霊?
向こうの世界でゴーストなら見たけど、それと一緒だろうか。
一瞬で気配が現れたり消えたりどういう原理なんだろうか。
いや、原理で言ったら私の分解再構築もそうだけど蜜のついたウソが本当になるの方が原理わからんけど。




