平行世界とリュウグウノツカイと(2)
「全く、私じゃなかったら死んでますよこの威力……」
一歩前に踏み出す、足から全身を伝う振動で内臓が揺れた、いやこれは揺れたというか。
「なっなにっごぷっ」
突然の苦しさに我慢ならずに膝をつく。
口から赤い泡の混ざった液体が垂れた。
オカマが駆け寄ってくる。
「ちょっと、大丈夫?」
「い、いや、ここまでのダメージ受けるのは流石に初なんで、しゃべるのもしんどいでふっぐっ」
内臓が全部ミキサーにかけられたみたいだ。
額から脂汗が流れる。
目を閉じて一瞬で内臓を全て分解し、再構築、損傷をチェック。
普通の人間なら即死だ。
なんてオカマだ。
さっきの連続パンチで五臓六腑すべて持ってイカれた。
自分の内臓の再構築に苦痛を伴いながらも再生を終えてゆっくり立ち上がる。
「あなたみたいな強いオカマ、初めてですよ」
「やだぁ、私だって内臓グチャグチャにされて立ってる生き物は初めてよぉ」
「もう治しました、お気になさらず」
手の甲で口元を拭う。
血を出したの何て何日ぶりだろうか。
あの世界に行ってもなんだかんだほぼ怪我もしないでやれてたし。
内臓治すのは初めてやったけど結構キツいな。
これからも気を付けよう。
「どんなに強いやつも内臓は鍛えようが無いぞう、てね」
今度は内臓の細胞もハイドラのそれを廻らせておこう。
オカマが手を差し出す。
「改めて、私はここの和尚、アヤメちゃんって呼んでいいわよ」
どういうことだってばよ。
…………
………………
「なるほどね、つまりその異世界でこれから魔王ってやつを懲らしめにいく時にその魔王の邪魔が入って、存在するはずの無い地球に飛ばされた、と」
「信じるんですか?」
「あんたの魔法みたいな技みせられちゃね」
まあみたいな、というか魔法だけど。
あの後、アヤメちゃんに連れられて本堂に入り、正座をさせられてここまでの経緯を説明させられた。
とにもかくにも私もはやくあの世界に帰らないといけないし、ヒーラさんの言っていた絆とか繋がりを見つけるためにもとにかく現地の人たちとの交流が重要だ。
私が早く帰らないとどうせ蜜の事だ、私がいない間に魔王倒しておくかぐらいの事を言っていると思う。
「多分、あんたからしたらこの地球は平行世界ってやつね」
「平行世界?」
ゴリゴリマッチョのハゲオカマが唇に人差し指を当ててクネクネしながらそんな事を言う。
きっm
いや、やめよう。
個人の自由だ。
「あんた今なんか失礼な事考えてるでしょ」
「そんな事ないです」
「まあいいわ、私の弟子に異変や怪異を解決する探偵みたいなことしてる子がいるんだけど、そっちにパスしようかしらね」
「弟子に丸投げかい」
「詳しくは無いのよ、そういうの、除霊とかお祓いとかなら出来るけど、これでもオカマだから」
どっからどうみてもオカマだよ。
オカマだから異世界とか平行世界に詳しくないって事はないだろ。
「ま、その弟子に連絡だけしといてあげる、今日はここに泊まりなさいな」
「え?いいんです?」
「内臓のお詫びよ」
内臓のお詫びよなんて産まれて初めて言われたわ。
内臓グチャグチャになってみるもんだな!
普通死ぬけど。
外を見るともう既に暗くなっていた。
月が見える。
いつの間にこんな時間になっていたんだろう。
この日はとりあえず見習い若坊主みたいな子に案内され布団だけある部屋に通されて眠ることにした。
まあ細かい散策は明日からだ。




