勇者一行とピラニアと(完)
装甲車のドアを閉めて、運転をモイラに任せる。
遠くに人間の反応が複数ある。
多分騎士団だな。
追い付かれる前に行こう。
「エナさん」
「はい、ヒーラさん、どうしました?」
しれっと私の隣の椅子に座りそっと手を握って来たヒーラさんが真っ直ぐ私の目を見つめてきた。
「そういうのやめたほうがいいですよ、そこのチビッ子にバラバラにされちゃいます」
当の蜜は腕を組んで目を瞑っている。
見ないフリだろうか。
「見えます、きっととても大変な事が起きますよ」
「それは魔女の占いですか?」
装甲車のエンジンが入って、昨日の川を目指し動き始めた。
ピラニアの言ってたルートに沿うつもりだ。
「そうです、きっと貴女に、貴女だけに苦難が見えます」
「酷くないですか」
私だけとか。
「きっと魔王の罠だと思います、ですが貴女の運命力ならきっと切り抜けられるでしょう、どんな時も絶対に絶望しないで」
「絶望?」
「そう、絶望です、それをかき消すのが貴女の希望の光、貴女方がマザーと呼ぶ物の真の力だと思います」
マザーの真の力、か。
分解と再構築のことじゃなく、もっと別の何かの話だろうか。
「おいオバン」
黙っていた蜜が口を開く。
口が悪い。
「その女は何があっても大丈夫に決まってるだろ、私が保証してやるよ」
蜜が保証してもなぁ。
「そうですか、そうですね、では困難の前に一つ、悠久の時を生きた魔女からアドバイスを」
ポワッと握られる私の手が温かく光った。
「貴女の力の根底は繋がり、絆を大事にしてくださいね」
なんか手のひらから身体の奥まで暖かい気がする。
金色の光だ。
「わかりました、何が見えてるかはわかりませんけど、きっと全てをクリアして魔王を倒して、ちゃんと私の地球を、私達の地球を取り戻します」
私の手を離してニッコリと微笑み正面に向き直った。
「それでしたら私から言うことはありませんね」
「因みに何が見えてるんですか?」
「いえ、それが運命が断ち切られているかの様に何も見えないのです、魔王のせいなのは間違いない様なのですが」
『はいはーい、お話の最中ごめんなさーい、レーダーの外だけど魔王の城を捉えましたよーっと』
モイラの声が装甲車の中で反響した。
早すぎるな。
まだ大して走ってないはずだけど。
『まだ肉眼じゃ捉えられないかも、木々もあるし、もう少しまってくださいね~』
もう乗り込んでパパッと済ますだけじゃないのかな。
「ねえタリアさん」
「ん?なんだ」
タリアさんに話を振ろうとした時。
私の周辺が紫色に輝きだす。
近くにいたヒーラさんが弾かれてしまった。
「なっ!ちょっ!もしかして早速!?困難に直面してる感じかな!?みんなごめん!後で行くから魔王を邪魔しといて!あとは宜しく!」
そこまで言って、私の意識は途切れた。
まるで突然深い海に沈むような。
…………
………………
同時刻、魔王の城。
「強制転移、平行輪廻!」
魔王の叫び声が響き、魔王の足元も紫色に輝く。
城に近付くとてつもなく巨大な力の塊が一瞬にして、この世界から消えた。
それと同時に魔王も膝をつく。
「う、ぐぅ、流石に、キツいが、マザー無き奴らなど恐るるに足らず、ならば多少の代償はあれどこの程度、なんてことはない」
魔王の手のひらの上でマザーの写真が一枚、燃え尽きた。
「去らばだマザー、エナよ、これで、転送者の私ですら貴様が何処に行ったかわからぬ」
超大型魔法の反動で口の端から出た血をぬぐい、ゆっくりと立ち上がった。
「こい、烏合の衆よ、蹴散らしてくれる」
魔王の城から、装甲車の正確な位置を捉えた。
……………………
………………
数分後。
「おい、あんた、大丈夫か?おーい」
頬を叩く衝撃に目を覚ます。
「う、うぅ、眩しい、ここは?」
目を開けると日中の光量が視界を霞ませる。
周囲を見渡すと山の中みたいだ。
目の前に同い年ぐらいの青年がいる。
私はさっきまでと同じ格好だ。
シャツにジーパン。
自分の状況を確認して目の前の青年を見る。
見慣れた服装。
見慣れた文化。
見知った言語。
「あ……あれ?もしかして、地球?」
「なんだぁ?ねーちゃんこんな山の中で寝ぼけてるんか?あぶねーぞ」
青年の手を取り立ち上がり、辺り一週ぐるりと見渡す。
私の真後ろに古びたお地蔵さんが一体、立っていた。
「あ、あの、失礼ですけど、ここは?」
怪訝そうな顔で青年が言う。
「なに言ってんだ?もしかして彼氏に車で放り出されたか?ここは群馬の山の中だぞ、本当に大丈夫か?」
ぐんっ。
「まっ」
ベースのリンクがない。
皆の気配がない。
つまりこれは。
「地球に……帰ってきた?」
そんな筈はない。
地球は今存在すらしてないはずなんだ。
でも群馬って。
ここって?
「ちょっと待ってください、情報を整理したい」
「ん?なんでもいいけど、早く下山しないと、そろそろ暗くなって来るぞ」
「え?あ、は、はい!降ります降ります!」
とにかく、情報の収集が必要だ。




