勇者一行とピラニアと(10)
「うん、そうだね、ちゃんとお礼はさせてもらってからだね」
そう言うと飯田は拳を固く握る。
飯田にも大切な人がいただろう、家族とか。
「でもエナさん、そろそろ離れた方がいいかな」
「ん?お、この気配は」
飯田は殺気でも感じたのだろうか、私の背中にポスンと気の抜けたパンチが入る。
「おいおいおい、こんなひと気のない場所で浮気してんじゃねーぞおいおい死んだわコイツ」
「蜜、案外早かったね」
「いや、思ったより時間かかった、ベースからの連絡は途絶えるし、最終戦に間に合わないかと思った」
飯田を離して振り向くといつもの猫耳パーカーに金色のドラゴンが巻き付いた厨二病マックスな剣を持った蜜。
「ラヴィさんは?」
「自分のご主人様の所にいったぞ」
「そっか、まあこれで手加減なしの本気パーティーが魔王戦前に完成だね」
「はは、このメンツと戦わないといけないとか、魔王には同情すら覚えるよ、じゃあ僕はもう行こうかな」
蜜が八つ裂きにする前に確かに何処か安全な場所に隠れてた方がいいかもね飯田は。
じゃあ改めて魔女とか狼男と顔合わせを……と考えていると遠くから爆発音と火の手が上がるのが見えた。
あれは、今皆がいる村の方角だ。
「どうやら最終決戦に向けて魔王側も本気みたいだな、急ぐぞエナ」
「合点!飯田は……」
もう既に気配の範囲には居ない。
これも科学の力だろうか。
でも安全な場所にいてくれた方が助かるのは間違いない。
「行くぞ、飯田なら大丈夫だろ、あいつはそういう男だ」
「間違いない、行こう」
蜜と二人で夜の森を走る。
徒歩で来れる距離だから走ればすぐだろう。
数分で、燃える村が見えた。
避難する人達の中に、それを襲う兵士が見える、あれは吸血鬼の時に見たのと同じ。
「死人兵か」
「そうみたい、全部私が片付けるよ」
「あまり無理はするなよ、最後の戦いの要はお前なんだから」
「わかってる」
本当の切り札は私じゃないけど。
蜜が塀を越え、逃げる人を襲うゾンビ兵に斬りかかる。
「遅いぞ!」
それに加勢する形でタリアさんが周囲のゾンビ達を蹴散らしていた。
「皆はどうしたんですか!」
「ヒーラとアーヤがほぼ逃がした!だが勇者達がまだ二人逃げれてない!」
それを聞いて勇者くん達一行が寝ていた家に向かって走り飛び込む。
燃える家の中で勇者くんが素手でゾンビを殴っていたが効き目が薄い様だ。
ゾンビはこけたりよろけたりはするが何度も立ち上がる。
「くぅっ、ここまでかっ」
「ごめん勇者、せめて私がもう少し回復してれば」
「バカ言うなイーマ、護るって言っただろ、レットとブラスが逃げれたんだ、あとはお前だけだ」
「悪いねお二人さんお熱い所お邪魔しますよ!」
二人の目の前でゾンビ兵士が消滅する。
「エナさん!いまのどうやって?」
「タネも仕掛けもありません、そんなのは後でいいから今は逃げよう、勇者くん走って、よっこいしょ」
イーマちゃんを私がお姫様抱っこして抱える。
うわ軽いな。
女の子してる。
「え、エナさん!私大丈夫ですから!」
「いいのいいの、久しぶりの挨拶がこんなんになっちゃってごめんねだけど、ちょっと我慢してね」
三人で家を出る。
目の前にまだゾンビがいた。
「もう!蜜達なにやってんの!」
進路の邪魔になるゾンビを消していく。
視界の端でチラチラと戦っているメンバーが見える。
それにしてもいくら皆が強くても多勢に無勢だ。
イーマちゃんを抱えて村の外に出る。
イーマちゃんを勇者くんに預けて声を張り上げる。
「蜜!!退散!村ごと消す!」
私の声に反応して皆が一斉に退散し始める。
殿をしていたジロが村の外に出たのを確認して一歩踏み込んだ。
村の人達ごめんね。
「よし」
次の瞬間に村の範囲まるごと消滅してクレーターになる。
「えっすご……エナさん、何をしたんですか」
「文字通り消したんだよ、今戻すよ」
消滅させた土壌の真上にコピーした村を丸々再構築した。
少しの座標のズレで数ミリ上だったみたいでズンッと腹に響く様な重い音がした。
地面が落ちた音だ。
火は消えていてゾンビもいない。
「ふう、これでなんとか」
「エナさん、貴女何者なんです?」
「勇者くん、ちゃんと見た?これが魔王を倒す力、マザーの力だよ」
翌日、避難から帰ってきた村の人達が丸々元通りになっている村に各々戻っていった。
何人か怪我人は出たみたいだけど死んではいないみたいだ。
まだ少し暗い内に村の外に出る。
装甲車の中でこの人数は少し狭いが各々自己紹介を終えていた。
「じゃあ行くけど、勇者くん達はここに残るんだね?」
「ええ、いつ魔王の部下がまたここに来るかもわかりませんから」
意志が固そうなのでそれ以上言うのはやめた。
私、蜜、タリアさん、久々のラヴィさん、どこかにいってヴィヴィ、ジロ、アーヤ、ヒーラさんの全部九人で乗り込む。
おっとケンリーを忘れていた。




