勇者一行とピラニアと(9)
「私達じゃ魔王には勝てないか、言ってくれるねぇ」
「川ごと蒸発させます?」
アーヤが本を川に向けた。
まあもう遅いだろう。
「気配らしい気配ももうないから多分意味ないよ」
とは言え最初も気配察知出来なかったけど、あのワープする穴が能力なんだろうか。
部下が控えててあの穴から出してたのかな。
結構凄い能力だ。
「よし、じゃあ村に戻ろうか、勇者くんも戻ってるんですよね?」
村に呼びに行ったにしては到着結構早かったけど。
まあ勇者くんの治りも完璧だと思っておこう。
そう言うことにしておこう。
「しらんけど」
「その知らんけどは何処に向かって出した知らんけどなんだ」
「さぁ?タリアさんはアーヤを抱えて先に帰ってて下さい、直ぐに行きます」
「ん?そうか、釣りの続きか?」
「まあちょっと、ね」
屈んだタリアさんの背中にアーヤがおぶさる。
そのスタイルで来たのか。
「まああまり遅くなるなよ」
「はーい」
二人に手を振って見えなくなった所で川に向き直る。
水面を見てもサラサラと水が流れてるだけだ。
魚はさっきの騒動で逃げてしまったのだろうか。
最初は荒廃したイメージだった魔界の割には川は綺麗だな。
「さて、二人はもう居ないよ、出てきたら?」
対岸の木の影から人影が出てくる。
誰の気配かはもう判っている。
「今の今まで何してたの?飯田」
「やっぱりバレちゃったか、流石だねエナさん」
所々血が付いたボロボロの白衣でほぼフラフラの飯田が木に寄りかかって顔を出す。
私一人分の橋を構築して川を越えて飯田の近くに来た。
「まあもう魔王の本拠地だっていうのに随分先に出ていった飯田が見えないからどうしたかな~って思ってたよ」
怪我をしている部分に手を当てて治す。
額に汗をかいて辛そうだった表情もすぐに落ち着いた。
「マザーの能力、調子良さそうだね」
「まあね、もう完璧だよ」
「魔王を倒したら帰るだけかな?」
「その前に地球を再構築しなきゃ」
オマケで着てる服も全部修復した。
手を取って立ち上がらせる。
「ありがとう、おかげで完治だ、流石だ」
パンパンと付いた土を払う。
「高校の時なら惚れてたよ」
「なに言ってるの、もう私に首ったけでしょ」
「へへっバレたか、蜜さん居たら八つ裂きにされてたかもね」
飯田が照れたように鼻を人差し指でクシクシする。
こうして話ているとあの頃に戻ったようだ。
「魔王にちょっかいかけに行ってたの?」
「うん、まあね、でも僕の持てる科学と能力の全てをぶつけて見事に完敗してきちゃった」
「そうなんだ」
「でもね、エナさんならきっとやってくれると信じてるよ」
「うん、その為に分解しきれないシャコとか、呪いに対応してない私に慣れさせる為にジロを差し向けたりしたんでしょ」
「そうだね、どうかな、勝率は」
「モイラの分析と、今ある情報だけでの計算だけど、多分勝率は五分、正確には私が魔王の前に到着すれば私の勝ち、向こうの妨害でたどり着く前に私がなんちゃらかんちゃらされたら向こうの勝ち、そんな感じ」
部下が壊滅してるとはいえ、魔王も私の能力を知ってる。
実際に一度戦ってるし。
もしかしたら向こうはまだ余力を残していたかもしれないけど。
とにかくどんな罠を仕掛けてるかわからない。
でも目の前に行ければ消滅させて終わりだ。
そうしたら蜜の能力で地球の再構築に掛かってるロックを解除して、消滅直前の地球から魔法の記憶だけを抜き取ってゲームセットだ。
地球にこんなオーバーテクノロジーはいらない。
あっても一部のちゃんと使いこなせる人達だけでいいんだ。
「そっか、手伝いたいところだけど、僕に出来る事はもうなにもないんだ、申し訳ないけれど、戦いが終わるまで傍観に回ろうかな」
「ん、そっか、じゃあこれは私からサービス」
そう言って飯田に抱きつく。
頑張った男を癒すのもマザーの役目だ。
「え、エナさん……」
「お疲れ様、全部終わったら皆で帰ろうね」
顔が真っ赤なのがわかる。
蜜に見られたらマジモンの八つ裂きかもしれない。
相変わらず背は私の方が大きいな、高校の時にもう少し伸びれば良かったね飯田。




