勇者一行とピラニアと(8)
数秒してミスリルの箱が食い破られた。
飛び出した先の熱湯のプールに飛び込んだピラニアが苦しみもがく。
私も下手にガードしないで熱湯を作った方が良かったか。
「あぢい!!あぢい!!だずげで!話す!話すから!」
何をだよ。
拷問してるみたいに言うんじゃないよ。
でも実際数メートル下がっただけでは肌で相当の熱量を感じる程の高火力だ、相当熱いだろう、というか熱湯に使ってまだ生きてるのかヤバイな。
暴れまわり逃げようとするがぐるぐると渦をまく熱湯の水流から逃げられずに段々力を失っていく。
「アーヤ、話ってのを聞いてみよう」
「あ、はい、わかりました」
アーヤが本を下ろすと瞬時に炎が消えて水が地面に落ちて波を作り私達の足元に広がる。
「あれ、熱くない」
ちょっとぬるい。
「はい、極力冷ましました、水を足して」
あの一瞬でか。
やるなぁ。
ピクピクと虫の息になってるピラニアのヒレを摘み拾い上げる。
「さて、何を話してくれるのかな?」
「あ、あんた、あんた達、魔王様を狙ってるっていう奴らだろ、道を、教えてやる、やるから、川に入れてくれ」
口をパクパクしてこうなるとまな板の上の鯉、もとい手の上のピラニア。
「あんた、魔王の部下?」
「そ、そうだ、魔王様の命令で勇者達を探してトドメをさすように言われて来たんだ」
「魔王を裏切るの?」
「ば、馬鹿をいうな、お前らごときが魔王様に勝てるものか」
タリアさんとアーヤと目を合わせる。
残ったミスリルの箱と台所を全て分解して水槽を構築した。
縦四十センチ、横六十センチ、奥行き三十センチ。
中身はカルキ抜き後の水。
そこにピラニアを沈める
「ああ~~、生き返る~~」
「わかってると思うけど、嘘付いたりまた襲ってきたら高圧鍋で煮付けだからね」
「いや、なんだそれ」
「煮るなり焼くなりってこと」
表面の爛れかけていた鱗がみるみる治っていく。
凄まじい治癒能力だ。
「ふん、まあいい、流石に三人相手、一人が魔女じゃ俺も分が悪い」
よくわかってるな。
一人が魔女じゃなくても大概だと思うけど。
「で?」
「あ、ああ、わかってるよ、魔王様の城はこの川を沿って真っ直ぐ進めば近道だ、直ぐに到着する、一日ぐらいで」
いや近道じゃないじゃん、ここから一日って普通に言われてたじゃん。
いや、あれは車でか。
この車という物を知らない世界の生物が言うんだから徒歩だろうか。
魚が言うんだから泳いででしょ。
一日も泳げるか!
「勇者にも逃げられたし、俺は負けを認める」
案外あっさりだな。
もう回復したのか、水槽から大きくジャンプして川に飛び込んだ。
「深追いしろとは言われてないからな、幹部達も勇者達と謎の集団達によってほぼ壊滅状態らしいし」
「多分その謎の集団って私達だよ」
「例えそうだとしてもお前達では魔王様には勝てない、じゃあな」
そう言って深く川に潜って消えた。




