勇者一行とピラニアと(7)
動揺したピラニアの噛む力が一瞬ゆるんだ。
強引に振り払い最初に飛び付いて来た一匹を残して残りはすべて消滅させた。
というかその一匹以外に意思?らしいものを感じない。
「お、俺の分身達が!」
「本日はこちらのピラニアを、捌いていく!」
地面に台所を構築。
一般的なシンクとガスコンロ。
そしてまな板。
そのまな板に向かってピラニアを投げ付ける。
「あいでぇ!てめえやりやがったな!」
瞬時に構築した包丁を突き立てようとしたらそのピラニアの周辺の空間に穴の様な物が現れてそこから再びピラニアミサイルが私目掛けて飛び掛かってきた。
「うお!危な!」
寸での所で目の前にステンレスの板を出すがその板がベコンベコンとこちら側に向かって出っ張る。
ステンレスじゃダメか!
「じゃあこれでどうだ!」
台所周辺をミスリルの箱で囲う。
それを後退しながら二重、三重、四重。
あの魔鯛にはミスリルの板も突破されたけどこのサイズの小魚ならなんとかなるだろう。
ステンレスは人間相手なら十分だけど魔物相手だとちょっと足りないな。
というか魔物なんだろうか。
いや、慣れてるから感覚おかしくなってるけど喋るピラニアが魔物じゃなければなんなんだ。
妖怪か。
「エナ!」
「あ、タリアさん、早かったですね、アーヤも」
ミスリルの箱を形成して一呼吸置いているとすぐにタリアさんとお姫様だっこされたアーヤが到着。
「ええ!これってミスリル!?こんな大量に、どうしたんですか、これ超希少金属ですよ、超高値で売れますよ」
暗くなっているからなのか、本来もつミスリルの力なのかわからないがほんのり光を放つ箱にアーヤが手を沿える。
そう言えば出せるの知らなかったか。
「それもこんな箱の形、どうやって?」
「いやまあ、それはおいおい、それよりカクカクシカジカ」
「ならほど、マルマルウマウマ、中に襲ってきた魔物を閉じ込めたんだな」
「なんでその説明で伝わるんですか!?」
狼狽えるアーヤ。
通じあってるからね。
「ああ、勇者が魔物が襲ってきたと言ってたからな」
「おもんな」
「いや、拗ねるなよ」
「しらんけど」
拗ねてねーし。
「それはともかくどういう魔物だ?」
「ピラニア……と言っても通じないかな、鋭い牙を持った三十センチほどの獰猛な魚です、喋ります」
「お前本当に魚型の魔物を引き寄せるよな、なにかの呪いか?」
どうやら私に捌かれたくて向こうからやってくるらしい。
話していたらガキン、ガキンと金属音が箱の中から聞こえ始めた。
「ねえ、本当にミスリルって伝説級の金属なんですか?前も破られましたよね」
「ナマズは釣れただろ」
「じゃあ私の使い方が悪いのかな」
数度に渡る激しい金属音の末、私達に最も近い平面部分がこちらに向かって出っ張る。
デジャブ。
そこに向かってアーヤが魔法の本を向けた。
「下がってください」
私とタリアさんの二人だけ下がる。
「川も近いし、ハイ・アクエス!」
アーヤの呪文に本から水が出るのかと思ったらさっきまで釣りをしていた川から水が生物の様に伸びて来て箱の周囲を囲った。
「ハイってなんです?」
「ああ、アーヤの魔法は精霊魔法と錬金術の合成らしくてな、適する自然物があると出力が上がるらしい」
錬金術、あとでそれも調べておこう。
アーヤは手を止めることもせず更に唱える。
「フレイヤ!」
最初にアーヤと戦闘になった時に見た激しい炎が水を囲う様に展開された。
これって、巨蟹の時に私達がやったのと同じ。
「ボイルにします、ちょっと時間かかりますけど」
これを一人でやってのけるか。
「やはりアーヤは天才だ、本来魔法の制御は一人で複数同時には出来ないとされている、それをいとも簡単に」
純正の魔女ってやつだからかな。
センスの関係なんだろうか。
その感覚はわからん。




