勇者一行とピラニアと(6)
「あ、あの!もし生きて地球に帰れたら、その時はまた会ってくれませんか!」
キョトンとした顔をして、微笑みながら人差し指を自分の口に当てる。
静かに、というポーズだ。
とても美人だ。
「魚が逃げちゃうでしょ」
好きだ。
包容力だろうか。
わからないが、とても魅力的な女性だという事はわかる。
なんで俺は年下なんだろう。
いや、年上の女性もいい。
というか昔から俺は年上派だった気もする。
初恋は小学生の時に近所の駄菓子屋にいたお姉さんだ。
「地球で会えたらね、お姉さんがお茶をご馳走してあげよう、それでいいかな」
「……はい、よろしくお願いします」
ニッコリと太陽の様な眩しい笑顔を俺に向けると次の瞬間にはもう釣りの仕掛けの方に向き直っていた。
「お、いい引き、大物かな」
そう言って竿をあげる。
上がった魚は楕円形で、鋭い牙を持ち、さっきの魚と同じようにビチビチを跳ねていた。
だがそれ以上に、鋭い眼光でエナさんを睨んでいた。
「ああ?人間ごときがスライムで俺を罠に仕掛けるとか姑息なマネしてんじゃねえよ」
しゃべった。
【エナサイド】
一瞬ケンリーの親類かと思ったが違うみたいだ。
この形状、釣ったことはないがよく知っている。
というより日本でも有名だ。
「……ピラニア?」
「やかましいわ!食い殺してくれる!」
ピラニアがそう言うが早いか、水面から一斉に魚群が飛び出してきた。
確かに複数の気配はあったけどここまで多くは無かったはずだ。
「エナさん!」
「勇者くん逃げて!」
数多くのピラニアが水面から私に飛び掛かって来て無数の牙が私の皮膚に食い込む。
「エナさん大丈夫ですか!」
「大丈夫だから!タリアさん達を呼んできて!」
「は、はい!」
叫んでいる間も追加のピラニアが止まらない。
本当にピラニアなのか、並みのピラニアじゃないのは間違いない。
私のハイドラの皮膚に少しずつだが傷が付き始めた。
「かってえ女だな!大人しく食われろ!」
「うるさいピラニアだな!大人しく私に捌かれろ!」
勇者くんの気配も遠くなった。
「誰も見てないならいいか、私に襲い掛かった事をあの世で後悔しな」
私の両腕に噛み付いたピラニアが一瞬で全て消滅する。
「はぁ!?て、てめえ!何をした!」
「ピラニアの刺身は食べたことないけど、脂乗ってるかな?」




