勇者一行とピラニアと(4)
歩く事数分、川辺でのべ竿を二本出して一本を勇者くんに渡す。
「ええっ!?どこから?竿なんて持ってました?」
「まあまあ、仕掛けは簡単、のべ竿から道糸、棒浮きに針に餌はスライムをワームの形にしたもの」
「そ、そんなのどこから出したんですか、スライムなんてこの辺に居ました?」
「今作ったんだよ、いいからほら」
餌を持ってスッと着水。
私のやり方を見様見真似で勇者くんも水面に向かって投げる。
「お、うまいうまい」
「え、そ、そうですか?これ少し手がヌルヌルしますねスライム、剣で斬った事は何回もありますけど直接触ったのは初めてです」
まあ直接触りたい奴はあんまりいないのかもね。
衛生面悪そうだし。
とはいえ今作ったこのスライムはほぼ無菌だけど。
ほぼ無言のまま数分糸を垂らし続ける。
道糸の距離の限界が来たらまた上げて最初の位置に戻す。
その動作を数回繰り返す。
「……綺麗だ」
「ん?」
水面を見ていた勇者くんがいつの間にか私の横顔を見ながらそういう事を言う。
「い、いえ、あの……」
「ふふ、ありがと、これでもグラドルみたいな事してたからね」
顔も商売道具の一つだ。
だったというのが正しいか。
その顔を見つめ返すと照れたように視線を反らす。
ピュアかな?
「でも釣りしてる時は浮き見なよ」
「は、はい」
雰囲気ぶち壊しだなって蜜の声が聴こえるようだ。
「そう言えばさ、勇者くん地球では蜜とは繋がりがあったんだよね?」
「え、あ、はい、地球では部隊に入って最初に会った他の隊員が蜜姐さんでした」
蜜姐さんいとわろける。
「でもエナさんとは会いませんでしたよね」
「まあ私は結構特別視されてたからねぇ」
隊長なんて言われてたけど名前だけだったし。
「マザーって、そんなに特別な存在だったんですね」
「まーーーーーーーー……唯一無二といえば聴こえはいいけど、こんな化け物みたいな能力無い方がいいよ、人が人を消すなんておこがましい」
「消すって……」
そしてまた数分沈黙。
「マザーって、何でも産み出す能力で、その姿からマザーって呼ばれてるって聞いてたんですけど」
「うーん、まあね、実を言うと私はこの能力あんまり好きじゃないんだよね、おっと」
私の浮きにアタリが来てスンッと一瞬沈んだ。
合わせて竿を上げる。
バチャバチャと魚が水面を叩きながら上がる。
「これは……マスかな、流石山の中」
魔力角付き。
鮮やかな婚姻色が出てる。
シーズンなのかな。




