勇者一行とピラニアと(1)
村を出て半日、もうだいぶ暗くなってきた。
魔界の夜は本当に暗い。
車移動だし光も出せるからなんとかなるけど普通の人間が光源もなしに一人でほっぽり出されたらひとたまりもないだろう。
さっきも魔物を何匹か見たが向こうから攻めて来ないからスルーしている。
ヒーラさんの案内、モイラの自動運転で進んでいるがそろそろ次の村らしい。
「その村は魔王の城に一番近い村で、そこから先は人間の住む場所はない」とはヒーラさんの言葉。
ヒーラさんは数百年前に一度行っているらしい。
装甲車のセンサーにも村らしき物が見えてくる。
「あれ?この気配」
「ん?どうした?」
「いや……知ってる気配なんですけど、誰だったかなぁ、知り合いに似てるだけかなぁ、こんな魔界の奥地に知り合いなんていないし」
「地球のやつか?」
「いえ、確かに魔力を感じます、可能性があるとすれば能力覚醒前に知り合った……ああ!勇者くんたちかこれ!でも随分弱ってる感じする、モイラ急いで」
『あいあいさー』
どこでそういう返事覚えて来るんだ。
地球のデータベースか。
一時間もしないで村に着いた。
もう村の外は真っ暗だが村の家には所々灯りが付いている。
出歩いてる人は見えないが村全体の雰囲気は前の村と大差ない。
「うーん、どうやらあの家ですね」
村一番大きい家、その家の前にだけ槍を持ったムキムキの男が一人立っているのが見える。
全員で車を降りて私とタリアさんだけでその男の所にまで歩いた。
「あのー、私達旅の者なんですけー……あの?」
スッと槍を私に向けた。
「ここに勇者達がいると思うんですけど」
「さては魔王の追っ手か!」
「違いますー、勇者の知り合いですー」
「信じられるか!」
いや信じろよ、女二人だぞ。
その槍を払いのけてタリアさんが前に立つ。
「私は王都の騎士団長だぞ、元だがな」
「むむ、確かに昔エルフがそうだった事があると聞いた事があるが……貴様が?」
まあエルフなんて腐るほどいるこの世界じゃ何とでも言えるっちゃ言えるか。
ゆっくりと男の後ろの扉が開き、知った顔が出て来た。
「お、勇者くん」
「は、はは、お久しぶりです、エナさん、この人達は知り合いですよ」
「む、そうでしたか」
勇者くんの一言で男が退いた。
「随分ボロボロだね」
一目見てわかる。
満身創痍だ。
地球で言う松葉杖をついて、全身に包帯、包帯の無い所にも少し火傷が見える。
「皆いるんだね」
「わかるんですか、そういう能力でしたっけ?」
「まあ、ちょっとね、詳しい話は中でいい?」
こうしてこの一番大きい家に無事全員で入れた。
向こうも思ったより大所帯で驚いただろう。
しかし驚いたのはこっちもだ。
勇者一行皆ボロボロだ。
勇者くん以外は皆意識が無さそうでベッドに寝かされてる。
この家には今私達と勇者一行しかいない。
村の人達が数名いたが勇者くんが話をして全員出ていった。
「何があったの?」
「えっと、全員で魔王の城に行ったんですけどね」
そこから勇者くんがポツポツと語り始めてくれた。




