魔女とヒラメと(完)
「じゃあ騎士団が追い付いて来る前に魔王の城に向けて再び出発しましょうか、方角はわかってるんだし」
「ああ、先程計算したら二日で着くそうだぞ」
「それでも二日掛かるのか」
遠いなぁ、ここまで大分進んだと思ってたけど。
おや、この気配、人混みを抜けて二人分の気配が近付いて来た。
振り返る。
「やあやあ、お母さんお嬢さん」
アーヤ達が立っていた。
アーヤがお母さんの身体を支えている。
ケンリーもいつの間にか一緒だ。
お母さんはまだ体調良くはないだろうがさっき身体を触った時に出来るだけ正常値にはしておいたけど弱ってる時に急激に体内の物分解したり構築したりすると身体が保たない可能性もある。
「あの、お礼をさせてください」
「いやいや、お礼なんてそんな大したことしてませんから」
「……この村、あの家にはもう居れないでしょう、私達親子もここから離れます」
ああそうだった、今回の騒動を考えたらその方がいいだろう。
「私達も、これから魔王の城に行きます、それで私の旅も終着です」
「そうですか、本当にありがとうございました、貴女達が来なかったらもっと酷い事になっていたと思います」
まあ教祖のいい様になっていただろう。
奴の敗因はただ一つ、私達が来てしまった事だ。
「もし、もしお邪魔でなければ、私達もご一緒させて頂けませんか?」
「えへぇ?二人と?まあ決戦を前にして戦力は多い方がいいのはいいですけど」
アーヤはともかくお母さんは戦力に数えていいものだろうか。
あとケンリーは仕事しないし。
「俺からも頼むぜ、このままここにいるぐらいならあんた達に着いていった方がいい」
仕事しないやつに来られてもなぁ。
いや、非情……非常食か。
「魔王の事でしたら私は知識がある程度あります、何か力になれると思います」
「うーん」
タリアさん、ヴィヴィ、ジロの順で顔を見ると皆異論は無さそうだ。
私の好きなようにしろって事かな。
「わかりました、でもお母さんは無理しないようにしてくださいね」
「はい!ありがとうございます!」
流石は魔女というか人間と身体の強さはダンチだろう。
「改めまして、私はヒーラ、あらゆる魔法に精通した魔女です」
そう言えば名前を聞いてなかった。
ヒーラさんか。
「私はエナ、こっちのエルフはタリアさん、セイレーンはヴィヴィ、ワーウルフはジロ、あと人工知能のモイラです、よろしくお願いします」
握手を交わしこれで仲間だ。
戦力として魔女は文句無しだろう。
さて、じゃあ私のこの世界での生活もラストスパートかな。
同時刻、魔王城。
「これで終わりだ勇者、愚かな地球人よ」
魔王が手のひらを勇者に向けて、そこから火球を放つ。
寸での所で勇者は回避するが満身創痍の身体で行える最後の回避だった。
「っつ、はぁ……はぁ……終わり……?最後だって?バカ言うなよ、しぶとさだけなら誰にも負けない自信があるぜ」
既に左目は見えていない。
今の限界を越えた回避行動で左足のアキレス腱も切れた。
叫びだしたい欲求を抑えて、倒れた仲間達の盾になる。
「そうか、だが死んでしまえば生前どれだけしぶかろうが肉塊よ、お前達は瀕死、私の傷は切り傷一つ、どう足掻いても無駄だ、地球に戻れぬままここで死ね」
魔王が手を上に上げてさっきより更に大きい火球を出した。
瀕死の味方ごとまとめて消すつもりだ。
「マザーならまだしも、多少能力を得ただけの人間に私を倒すのはやはり重荷であったな、せめて苦しまず逝け」
超高温の死の形が、四人の若者達に迫る。
勇者が限界を迎える寸前、仲間の魔法使いの口が僅かに動いた。
数秒後、衝撃と熱が収まった広間に魔王だけが残される。
「む、転移の魔法か、優秀な仲間に恵まれたようだな」
マントを翻し城の奥へと魔王が歩いていく。
カツンカツンと足音だけが響いた。




