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それでも私は釣りに行く!  作者: naoてぃん
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魔女とヒラメと(9)

「ママ、あいつの選択って正しいのかな」

「……さあ?正しいか間違ってるかなんて本人にしかわからないし、羨ましい?」

「そ、そんな訳……」

でも本当は私も一緒に行きたかった、かもしれない。

ずっと一緒にいたかったのかもしれない。

「誰も止めないわよ、ヴィヴィは一応もう飛行も泳ぎもマスターしてるしね、自由に生きていいんだから、私もそうだったから」

「ママ……」

「貴女の父親の話をしとこうかしら」

「え?だってセイレーンの父親なんて旅人か船乗りでしょ?」

「まあね、言ってなかったけど旅人でね、私達は昔ちょっとは名の知れたセイレーンだったのよ」

私達というのはママとあいつの母親のセットの事だ。

二人で旅に出て、色々な所を冒険して、危険な目にもあって、そうして辿り着いた町で二人で悪党を懲らしめて、しばらくその町にいて出会ったのが私の父親、らしい。

「旅人だったけどねぇ、もっさりしたやつでねぇ、でもいいやつだったわ、もう何年も会ってないけど」

「なんで?会えばいいじゃん」

「セイレーンはね、自由に生きなきゃいけない、これが私の信条、何者にも縛られず、風の様に自由に、その為の翼、波の様に気ままに、その為の尾ひれ、だからねヴィヴィ、もし本当に行きたいなら、その先は自分で決めなさい、絶対に後悔しないように」

その数日後、私は産まれ育った島を独り旅立つ。

セイレーン特有の歌に魔力を込めて人間を誘惑する力は上手く発達しなかったけど、飛行と水泳に関しては私はセイレーンの中でも随一だった。

だからどこに行くにも不憫はなかった。

路銀も歌で稼いだ。

歌の上手さだけで生き残っていった。

そうしている内に歌は私の生き甲斐になった。



………………

…………



「という感じでそうこうしてる時に王都に行こうと思ってね、そしたら港町であんた達に出会ったって訳」

「途中省きすぎじゃない?年単位で省いたな」

「まあそういう訳で魔界のどこかにいるかも知れないのよ、幼なじみが」

「なーるほどねー」

そういえば終始名前が出てこなかった。

「名前は?」

「そいつの名前はルカ、もし私が居ないときに会ったら覚えとくといいわ、オレンジ髪のルカよ」

オレンジ髪のルカ。

可愛い名前だ。

セイレーンっていう種族はモチベーションというか意識が高いなぁ。

人間も負けてられない。

そうこう話してる内に水音を頼り近くの川に到着。

「さて、今日のノルマいきますか」

「こんな時間からねえ」

「夜にやる釣りもあるんだよ」 

まだそこまで暗くなっていない。

でもあと一時間もしないで真っ暗かもしれないな、魔界の森だし。

「まあ最近あんま釣り出来てなかったし、多少はね?」

「多少?」

ヴィヴィは釣りに来ても見てるだけのことが多い、私の竿が持てねえってか。

それにしても静かだ。

水の音と動物の鳴き声が聞こえるばかりだ。

「ヴィヴィ的にはこの魔界の森ってのはどうなの?」

「うーん、そうね、どうって言われると難しいけど、快適ね」

「へえ」

「なんかこう……なにもしなくても充たされるというか……」

常にスマホに充電のケーブルが刺さってるような状態だろうか。

私も魔力がどうとかあの鯛に言われたけどその概念はイマイチ感じ取れない。

ちょっと聞いてみよう。

「ねぇ、ヴィヴィには魔力ってやつが見えるの?私の魔力ってどんな?」

「え?自分で気付いてないの?」

「うん、なんもわからん」

「まあ魔力っていうのはつまり活力とかエネルギーみたいなもんだけど」

「うん」

それはわかる。

多分地球のゲームとかアニメで出てくるやつと同じ感じだろう。

MPってやつだ。

「そうね、タリアがこの石ぐらいだとすると」

足元の拳大の石を拾って見せてきた。

「私はこんなもん」

その半分ぐらいのサイズの石だ。

「タリアさんのは大きいの?」

「そうね、普通のエルフからしたら多い方ね、そんでアーヤってやつ、あの魔女は……あの岩ぐらいかな」

周りをキョロキョロしてから近くにあった大きな岩をさした。

「へー、魔女って凄いんだね」

「まあそういうのに特化した種族だからね、そんであんたは」

まあ私なんか言うても科学の力が無ければただの人間だし大した事ないだろう。

再びキョロキョロしてしばらく悩んだ末私の手を取る。

「へ?なに?」

「飛ぶよ」

「ちょっと!高所恐怖症だってば!」

「いいから」

確かに多少の高さなら落ちても死んだりはしないだろうけどももももも。

あばばばば。

何度やっても慣れないなやっぱり。

数メートル飛び上がって顔面蒼白な私に、ヴィヴィが遠くに見える山を見せた。

「あれね」

「ななななにが!」

ゆっくりと地面に降りてくれた。

キレそう。

「だから、あの魔女があの岩なら、あんたはあの遠くの山よ」

「いや流石に盛り過ぎ」

そんな漫画の主人公じゃないんだから、パワータイプのやつね。

「本当に気付いてないの?あんたのは特殊だけど物質を造り出す、分解する、適応する、なんて魔法、それぞれが国宝級の能力よ、まあ探知とか感知の魔法は割りと初級だけどね」

「ええ~?ほんとに~?」

「魔法使い、錬金術、その辺の連中は喉から手が出るほど欲しいでしょうね、あんたのその能力」

まあ分解と再構築はともかく適応はそうでも無さそうだが。

「魔法ってのは難しければ難しい程消費する魔力も増えるのよ、あんたの場合のそれは規模にもよるけど一回やるだけで魔女一人ぐらいなら余裕で枯れるだけの出力、とでも言えばいいのかな」

へぇ~、私ってそんな事なんも気にしないでバカスカやってたんだ。

自重しよ。

「ただの修理とかの魔法はあるけどあんたのそれはまた別物だし」

「詳しいね」

「旅して勉強したからね」

どこを旅したらそういう知識がつくのか。


そしてこの日はボウズだった。



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