魔女とヒラメと(2)
砂埃の中から見えたのはサラサラの銀髪と真っ赤な目。
私のハイドラの時の目と近いだろうか、もう少し血に近い色かもしれない。
背丈は百……六十ぐらい。
少女漫画に出てくるような小顔だ。
黒いローブに身を包み腰の辺りから本を一冊取り出して私達に向けた。
「フレイア!」
紅蓮の炎が私達に迫る。
タリアさんに突き飛ばされて事なきを得た。
顔面から本棚に突っ込んだけど。
炎の通り道が丸焦げで家の外まで筋が伸びた。
「エルフ!すばしっこい!」
「風よ!」
壁を蹴り急接近タリアさんのナイフによる飛ぶ斬撃、いつものやつだ。
本気だな。
「ウィンディ!」
それを真っ向から同じ色の風が相殺した。
「まさか、お前も精霊魔法か!」
精霊じゃない魔法もあるのか。
「サンダラ!」
本から目を覆うほど激しい稲妻が放たれてタリアさんを襲う。
閃光の跡にタリアさんが膝をついていた。
「ぐぅ、このナイフじゃなかったら死んでたな」
「こいつ……ただのエルフじゃない」
「アーヤ!後ろだ!」
気付いた少女の後ろで巨大なジロの爪が喉に触れる。
「女の背後を取るってのは好きじゃないがな、大人しくしな、別に俺達はあんたの首を取りに来たわけじゃない」
完全に悪役だけど。
狼男が後ろから襲いかかってきたらそうじゃなくても怖いでしょ。
「アーヤ!」
「あんたの相手はあたしよ魚野郎!」
「なんっぶごぉ!」
ヴィヴィの蹴りが真上からヒラメを捉えて地面に叩きつけた。
フラフラとタリアさんが立ち上がりナイフを少女に向ける。
「本物の魔女、これほどとはな」
本を取り上げて一歩下がった。
「絶体絶命ってね、私もここまでか」
「いやいやいやいや、だから私達はあなたを襲いに来たんじゃありません、今家も修理します、ジロももう離していいよ」
爪が少女の喉から離れた。
「え?いやいや、流石にほぼ全壊だし、これは修理より引っ越した方が」
「まあまあ」
私の指パッチンで家の破損した箇所がみるみる新品同様に再構築されていく。
「これ……修理の魔法?……違う、もっと異質な……貴女達、何者?貴女も……魔女?」
「うーん、つい最近ヴァンパイアくんに魔女呼ばわりもされたけど、正確はちょっと違うかな」
魔法を使う女という意味では魔女で合っているかもしれないけれど。
それを言うなら目の前のこの少女は魔法少女の方が近い気がする。
人間の年齢で言えば見た目高校生ぐらいか。
「少し、話を聞いてもらっていいかな?、私はエナ、魔王を倒す為に旅をする異世界人です」
ヴィヴィの足元から出てきたヒラメが合流して少女と顔を合わせて目をパチクリする。
ヒラメって正面から顔見ると不細工だよね。
なんて言ってる間に家の修理は全て完了した。
材質は地球製だけど。




