ヴァンパイアとタツノオトシゴと(13)
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数時間後。
「お、目が覚めましたかい」
「……あの者達はどうした」
地面に掘られたクレーターのど真ん中に余の身体は埋まっていた。
身体の再生は始まっているが七、八割を欠損していては不死身のヴァンパイアといえど再生には時間が掛かる。
「とっくに行っちまいましたよ、魔王を倒して世界を救うらしいですぜ」
「そうか」
上空の大穴。
あの大結界を破る者が出るとは思わなかった。
あれは人間界を護るという名目で作られた物だが本当は内側からは出られる、むしろ人間界側から入る方が困難な代物だ。
「勇者、というやつか」
「どちらかというと破壊神とかじゃないんですかね、ドラゴンとヴァンパイアを同時に相手して倒すなんて勇者でも可能かどうか」
「そうだな、して何故ドラゴンの姿のままなのだ?」
その巨大な翼が日陰を作っている。
「いやね、太陽が出ちまってるんですよ」
空の大穴から確かにちらりと太陽が顔を覗かせる。
「余は既に力を失った、もう従う理由もあるまい」
「……いえいえ、これでも好きで従ってたんですって」
「……物好きめ、本物のエリシュの方はどうなった?」
「ああ、待機させてた魔物達は全滅、エルフとワーウルフ、あとセイレーンによって領地を奪還されたみたいですわ、もう完全にお手上げ」
「……案外魔女というのも間違っていなかったな」
「ええ、魔女も魔女ですわな、どんな原理の能力か知りませんけど」
手も足も出なかった、もうこの城主業も潮時なのかもしれないな。
「旅にでも出るか」
「お供しますぜ、どこまでも」
「ならば死ぬまで共に来るがよい」
果たして奴に魔王が倒せるか、見物である。
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…………
「ぶぅえっくしょん!!」
「もう少し可愛い感じのくしゃみは出来ないのか?」
「やだぁ、これ以上可愛くなったらケダモノ達に襲われちゃーう」
「は?」
「は?キレそう」
は?じゃないが。
お姫様とジロを回収した後でお姫様の領地とやらを奪還して婚約者とやらも解放した。
しかし人間の住む場所があんなに魔界に近かったらそれはまあ魔物に襲ってくれと言っている様なものだろう。
お姫様は領地に置いてきた。
「ジロも残れば良かったのに」
「いや、これでいい、姫さんの新婚生活に俺が居たら邪魔だろ」
「へー、てっきり好きなのかと思ったよ」
「自分と瓜二つな女に対する感情を良くそんな風に言えるな」
「いやーあの吸血鬼くんに魂が違うって言われちゃったし」
それはそうだ。
命はなんにだって一つだ。
「ま、魔王城の場所も特定出来たしさっさと行きましょう、このベースなら位置的に半日も飛べば着きますよ」
むしろベースの速度で半日ってのはやばいけど。
この世界相当広いな。
今のうちにコンディションを整えないと。
「つまり最終決戦が近いということか」
ノリの悪いエルフが広げた電子の地図を見る。
「そう、つまり私達のお別れも近いですよ」
「……事が全て収まったら、帰るのか?その地球という星に」
「……そらそうでしょ、さっさと地球を再生して、魔法も何もかも消して元の生活に戻るんですよ」
「そうか」
寂しさはある。
この世界で出会った人達。
起こった出来事。
いつの間にか思い出も沢山になってしまった。
「いつの間にかこんな力を手にいれて、こんな場所に来て、他の誰にも出来ない人生を送ってしまった」
「後悔してるか?」
「まさか、全部大事な宝物ですよ、良いことも、悪いことも」
起こってしまった事は取り消せない。
だから選択一つ一つが重要になってくる。
特に力がある者は余計に。
私の選択は間違ってなかっただろうか。
「さて、行きましょうか、終わらせにぃ~?ヴィヴィ?」
私の袖を摘まむ珍しい鳥。
「終わらせるとか、寂しい事言うんじゃないわよ、折角友達になったのに」
そうだね。
ヴィヴィは特に友達少ないしね。
「じゃあ、決着つけに、ね?」
「…………うん」
乙女めぇ~。




