ヴァンパイアとタツノオトシゴと(12)
十メートルはあるドラゴンが急降下して猛スピードで私に噛みついた。
いや、噛みついたというより吸い付いたというか。
胴体が口の中にすっぽりハマった感じか。
「うごぉ!?」
そしてまた急上昇。
「うひょあああ!!?」
腹に鋭い牙が立てられるが貫通はしない。
それでもギリギリと締めつけてくる。
「うっぐぅぐるじぃ」
こっちは高所恐怖症だってのに向こうさんはお構い無しだ。
ガンガンと私を咥える口を叩くが一瞬怯むだけで大したダメージじゃないみたいだ。
「くっそこのっ馬鹿装甲!離せ!」
「ここで離していいのかい?お嬢ちゃんも地面に叩きつけられてバラバラだぜ」
「高い所は怖いけどこんなのでバラバラになるほどヤワじゃない!」
ドラゴンの姿のまま喋れるのか。
「まあなんでもいい、残念だがお嬢ちゃんはここで終わりだ、俺と心中するんだよ!」
「それがあのご主人様の命令!?それでいいのんぎぁ!!」
城の周りにあったのとは違う結界、これは魔界に入る時にあった結界だ。
私の身体を結界に押し付けてドラゴンの口もボロボロになっていく。
バチバチと強烈な電撃が私達の身体を焼く。
「や、やめて!これ以上はもう!」
「やめねえよ!こんな美人と一緒に死ねて男冥利に尽きるぜ!」
「これ以上はもう、分解せずにいられない」
「……は?」
私を締め付けていた口がサラサラパラパラと風に舞い散っていく。
「あ、がっ」
ゆっくり人の形に戻っていく。
飛行の力を失い二人で自由落下する。
「な、なにを……した」
「極力生き物は分解したくなかったんだけど」
「分解だと……そんなのありかよ……」
人間の姿のまま力なく墜ちていく。
「いやいや、怖い怖い怖いって!」
急いでパラシュートを構築。
高い所ダメだってば。
人は結局地に足を付けないと生きていけないわけ。
「ふう、これはオマケしてあげよう」
マッチョドラゴンにもパラシュートをプレゼント。
ユラユラと落ちていく。
パラシュートでも怖いけど。
スカイダイビングとかするやつの気がしれない。
何が楽しくてこんな事をやってるんだ。
「どんな魔術か知らぬが貴様は赦さぬ」
油断してたら目と鼻の先に吸血鬼の顔があった。
パラシュートの紐を切られた。
「は?うっ!」
鋭い蹴りで再び私の体が結界まで飛び上がる。
「いっぎぃ!」
吸血鬼が急激に回転をして私にドリルのような蹴りで結界に押し付けてきた。
「な、んっ」
「高貴な吸血鬼がたかが人間のメスに負ける訳にはいかんのだ!」
「そ、そうか、もう説得の余地はないんだね」
「当然だ……滅せよ、魔女!」
魔女、魔女か。
でも魔女と吸血鬼は仲良くしてもいいんじゃないかな。
高速回転するキックが私の腹を抉り始めた。
もう無理だ。
「じゃあ、サヨナラ」
私の背中の後ろの結界、さらにその後ろ結界の外でベースが結界に刃を突き立てる。
「馬鹿な!大結界を破るつもりか!」
「つもりじゃない、破るんだ」
「そんな事が出来る訳がない!」
出来るんだなそれが。
私が散々結界の中で魔術と結界の解析を続けていたんだ。
「終わりだよ」
結界にビシビシとひびが入り始める。
「そんな事をすれば貴様も死ぬぞ!」
「死なないんだなぁそれが」
空中に巨大な穴が空きベースの鋭い先端が私の体に触れる寸前に私の体だけベースの中に転送された。
液体金属にコーティングされた鋭い先端が吸血鬼に直撃してそのまま地表に向かって真っ直ぐ突き刺さった。




